14
部屋中がほのかにミントの香りで包まれている。
私はアロマとやらに少し興味が湧いた。ルームスプレーの使い方も気になったのでパソコンへ向かう。
まずは『アロマ ルームスプレー 使い方』で検索。概ね間違ってはいなかった。そもそもアロマとは何ぞやというところ。聞いたことはもちろんあるが、その概要は何となくナチュラル思考のもの。というイメージくらいだ。私はさらに検索を続けた。
アロマとは、多くはアロマテラピー(又はアロマセラピー)のことで一般的には、エッセンシャルオイル(精油)又は植物由来の芳香を用いて心身の健康やリラクゼーション、病気や外傷治療、病気の予防、ストレス解消などを目的とする…植物療法あるいはハーブ医学から派生…錬金術と深く関係して発展…造語であり…医療の分野において……うん。奥が深い。ということだな。
彼女が言っていたセーユは漢字で“
精油は混ぜて使用するケースもあるらしく、相性が良い香りの表もたくさん出てきた。彼女から借りたルームスプレーにももしかしたらミント以外に“ブレンド”されているのかもしれない。
柔らかい香りを思い出して、私はもう一度この部屋の空気を吸い込んだ。
さっきより弱くなった香りに包まれる部屋は、いつもの私の部屋なのに、何だかそうじゃないとでも言いたげな雰囲気を纏っている。不思議な気分だ。
手元のキーボードが見えずらくなったことで、外の明かりがもう小さくなっていることにやっと気づいた。私にしては久しぶりに夢中になったと思う。まだほのかに香るミントの香りはどこか気持ちを落ち着かせてくれた。
カーテンを閉めようと窓際へ向かった。窓の外はもう暗くて町の輪郭が消えていくところだった。セミの鳴き声だけが妙に響いていた。静かにオレンジと薄紫の夕日が過ぎ去った跡がある。
私はそれをしばらく眺めていた。訳はない。ただ、完全に跡が消えるまで、見ていたかった。それだけだ。誰かが終わりなんて区切りを付けなければそれは永遠のはずなのに、終わりはいつだって突然だ。
私が明日、終わりを迎えたとして、この町や世界は変わらず廻るんだろうな。ふとそう思うと、さっき一瞬でも感傷的になっていた自分がバカらしくなった。
バカらしくなったが、もう少しだけ見ていたかった。自分がどれほどちっぽけな人間なのかを自然は時々教えてくれる。昔からの癖だ。
ひとしきり眺めたら納得できたので、見終わるまでにカーテンを閉めて部屋に明かりをつけた。
今日の夕飯もカレーだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます