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 部屋中がほのかにミントの香りで包まれている。

 私はアロマとやらに少し興味が湧いた。ルームスプレーの使い方も気になったのでパソコンへ向かう。

 まずは『アロマ ルームスプレー 使い方』で検索。概ね間違ってはいなかった。そもそもアロマとは何ぞやというところ。聞いたことはもちろんあるが、その概要は何となくナチュラル思考のもの。というイメージくらいだ。私はさらに検索を続けた。

 アロマとは、多くはアロマテラピー(又はアロマセラピー)のことで一般的には、エッセンシャルオイル(精油)又は植物由来の芳香を用いて心身の健康やリラクゼーション、病気や外傷治療、病気の予防、ストレス解消などを目的とする…植物療法あるいはハーブ医学から派生…錬金術と深く関係して発展…造語であり…医療の分野において……うん。奥が深い。ということだな。

 彼女が言っていたセーユは漢字で“精油せいゆ”と書くらしい。色んな種類があり、精油それぞれに効果・効能があって、例えばミントならリフレッシュ、集中力向上、抗菌作用、鼻づまり、乗り物酔いなどの胃腸の働きにもアプローチ出来るらしい。しかも一口にミントといってもペパーミント、スペアミント、ベルガモットミント…と様々なミントが存在しているようだ。しかもそれぞれ微妙に効果・効能に違いがある。彼女が迷子になる気持ちがこの時、何となくだけど分かった気がした。

 精油は混ぜて使用するケースもあるらしく、相性が良い香りの表もたくさん出てきた。彼女から借りたルームスプレーにももしかしたらミント以外に“ブレンド”されているのかもしれない。

 柔らかい香りを思い出して、私はもう一度この部屋の空気を吸い込んだ。

 さっきより弱くなった香りに包まれる部屋は、いつもの私の部屋なのに、何だかそうじゃないとでも言いたげな雰囲気を纏っている。不思議な気分だ。




 手元のキーボードが見えずらくなったことで、外の明かりがもう小さくなっていることにやっと気づいた。私にしては久しぶりに夢中になったと思う。まだほのかに香るミントの香りはどこか気持ちを落ち着かせてくれた。

 カーテンを閉めようと窓際へ向かった。窓の外はもう暗くて町の輪郭が消えていくところだった。セミの鳴き声だけが妙に響いていた。静かにオレンジと薄紫の夕日が過ぎ去った跡がある。

 私はそれをしばらく眺めていた。訳はない。ただ、完全に跡が消えるまで、見ていたかった。それだけだ。誰かが終わりなんて区切りを付けなければそれは永遠のはずなのに、終わりはいつだって突然だ。

 私が明日、終わりを迎えたとして、この町や世界は変わらず廻るんだろうな。ふとそう思うと、さっき一瞬でも感傷的になっていた自分がバカらしくなった。

 バカらしくなったが、もう少しだけ見ていたかった。自分がどれほどちっぽけな人間なのかを自然は時々教えてくれる。昔からの癖だ。

 ひとしきり眺めたら納得できたので、見終わるまでにカーテンを閉めて部屋に明かりをつけた。

 今日の夕飯もカレーだ。

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