第26話 JK×マッチョ×グラドル




「お待ちしておりましたわ『お姉様』♡」



 ……なんて?


 シンシアがまるで熟れた林檎のように真っ赤な顔で、こちらを見つめている。



「それでは応接室にご案内致します。こちらへどうぞ」


「え、あ、うん、はい」



 メイドのシャッテさんに促され移動する。動揺して変な返事になってしまった。



 レイムーロ辺境伯邸内は豪華な外見とは違ってとても落ち着いた雰囲気で、内装や調度品からは下品さは感じられず好印象だ。


 だからと言って何も無いわけではなく、甲冑や武具といった物が要所飾られておりレイムーロ家の『武の強さ』を物語っている。



「当家は長年、アルカンシエル王国の西の守護を担っておりますの。ここに飾られているのは数々の戦場で名を馳せたご先祖様方が使用されていた武具ですわ、お姉様♡」


「なるほど……と、ところでその『お姉様』ってのは……」


「勿論、貴女様の事ですわ! わたくし、気づきましたの……何と愚かな事を言ってしまったのかと……だから、その事に気づかせてくださった貴女様の事を、敬意を込めて『お姉様』と呼ばせて頂いてます! 厚かましかったでしょうか……?」



 アメジストの瞳でまっすぐとこちらを見ている。上目遣いで強気なツリ目はふにゃんと垂れ下がり水気を帯びていて宝石のような美しさを持っている。


 ふぐぅ……か、カワイイ……!



「ぜ、全然問題ないよ?」


「〜〜っ! ありがとうございます、お姉様♡」



 あんなカワイイ顔で言われて嫌な訳ない。年齢は一つしか変わらないけど、シンシアの見た目が完全に幼女だから年の離れた妹から『お姉様』と呼ばれたようなもの。


 マリィの方を横目で見るとマリィは隣でニコニコと微笑んでいた。時折、嫉妬しているような表情になる時があるから『お姉様』呼びがちょっと心配だったけど問題ないようだ。


 嫉妬してむくれてる顔もかぁーいーんかわいいんだけどね。やっぱり笑顔が一番。



 シンシアの事を見ていると今日呼ばれた理由は悪い内容ではないようだ。改めて考えるとかなり事をしてしまったからね。


 領主の娘を公衆の面前でお尻ペンペンして、しかもお漏らしまでさせてしまったから……最悪転移で逃げようとさえ考えてた。


 だって仕方ないじゃない! 私あーゆーの大嫌いなんだから! この世界のゴブリンやオークが異種交配できなくてよかったよ。もしできる種族だったら真っ先に根絶やしにしなくちゃいけなかったからね!




「こちらが応接室になります。どうぞ」



 シンシアと話している内に応接室に着いた。


 シャッテさんが扉を開けると中には二人の人物がすで待っていた。



「おお、よく来てくれた! ささ、どうぞこちらに」



 待っていた人物の一人、顎髭を蓄えた壮年の男性がソファから立ち上がり入室を促してきた。右隣にいる若い女性も立ち上がってこちらに笑顔を向けている。



「は、はい」



 誘導に従って二人の前のソファに座る。シンシアは男性の左側に向かっていき、シャッテさんは私とマリィにお茶とお菓子を出した後三人の後ろに控えている。



「本当によく来てくれた! 俺がレイムーロ領主、レオナルド・フォン・レイムーロだ。そして……」


「お初にお目にかかります。妻のレベッカと申します」


「改めまして娘のシンシアですわ」



 レオナルドさんに改めて紹介され頭を下げるシンシア。

 

 この二人がシンシアのご両親なのか。レオナルドさんはシンシアと同じ金色の髪をオールバックにし筋骨隆々の体型。身長二メートルありそう。レベッカさんは茶髪ボブカット、体型は言葉を濁さず言えば『ぼんきゅぼん』だ。


 顔のパーツなんかはシンシアと似ている部分も多いが二人とも体格がまったく違う。シンシアのドリルはどこから来たんだろう。


 マッチョとグラドルと幼女というアンバランスな一家だ。



「あの、座らないんですか?」



 私とマリィはソファに座った後もレイムーロ一家は直立不動のままだった。


 え、これ立ったほうがいいの? そんな事を考えていると三人はガバッと頭を下げた。



「この度は、貴重な『月涙花』を譲って頂き、本当にありがとう!! 君達のおかげでこの通りレベッカのが解け、元気な姿を見せてくれた……呪いをかけたクソ貴族をすでに拘束済み、すべて君達のおかげだ、本当にありがとう!!」


「ありがとうございます。今私がこうして立っていられるのも貴女方あっての事。心から感謝申し上げます」


「ありがとうございますですわ!」


「しいては報酬の話をしたく、呼び立てた次第。何でも言ってくれ! 金貨何十枚でも用意してみせよう!!」


「あなた、それはですわよ? 伝説の花だけではなく私やシアの命、レイムーロ家そのものもを救って頂いたのですから」


「そうですわよお父様! お姉様に白金貨一万枚くらいどーん、と出してくださいまし!」


「い、いや少ないのは分かったが流石に白金貨一万は……うちの税金高くないだろ?」



 ちょ、ちょっと、待って!? 情報が多い!


 呪いって何?


 クソ貴族が何だって??


 報酬で、白金貨一万枚??


 そもそもこの世界の金銭価値分かんないんだけど!?



「御三方、落ち着いてください。セツナ様が混乱されてます」



 シャッテさーーーん! あなた美人でスタイルがいいだけじゃなくめっちゃ有能さんですね!



「それほどでもありません」



 え、心の声が分かるの……無表情でVサイン出してるのめっちゃカワイイんですが。



「ああ、すまない、説明が先だったな」



 シャッテさんに戒められ三人とも落ち着いてくれた。まずは説明を聞かないと。



 ──さて、一体何が飛び出すやら。

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