第22話 JK×ですわ×模擬戦 ①




 ──二時間後、私とシンシアちゃんは冒険者ギルドの裏手にある訓練場で向かい合って立っている。


 訓練場は学校の運動場程の広さがあり、周りにはサッカー場のような客席もある。


 客席には何処から聞きつけたのか、冒険者や街の人で半分近く埋まっている。こんなところで戦わないといけないのか。



「セツナ様ー! がんばってくださーい!」



 客席の中央にある特別席からマリィが応援してくれている。私は恥ずかしかったので手を軽く振ってマリィに応える。



「随分と余裕ですのね」



 シンシアちゃんが話しかけてくれた。


 シンシアちゃんはギルド長室の時と服装が変わっており、胸当てや篭手などを各所に施したアーマードレスを身に着け、左右の手には大盾と身の丈を超える大きな突撃槍ランスを装備している。



「別に余裕があるわけじゃないよ。シンシアちゃんはすごいね。こんなに人がいるのに堂々としてる」


「し、シンシアちゃん!? 私はすでに成人した大人ですわよ!? その呼び方即刻やめてくださいまし!」



 ヤバ、口に出してしまった。でもプリプリ怒ってるとこカワイイなぁ……これで同年代なのは素晴らしいね。貴族みたいだから様付けがいいんだろうけど、可愛くないんだよなぁ……仕方ないか。心の中では呼び捨てにしよ。



「シンシア、様?」


「それでよろしいですわ。まったく……何で私がこんな人と……いえ、我慢ですわよ。これに勝てば『神樹の森』に入れる。待っていて下さいませ……」



 シンシアが何かを呟いているが距離を開けて立っているせいではっきりと聞き取れない。森に入れるとは聞こえたけど。


 どうしてそこまで『神樹の森』に行きたいのだろう。場合によっては協力できるだろうから理由を聞きたい。



「ねぇ、どうしてそこまで『よし、二人とも準備はいいか?』……タイミングよ」



 話し掛けようとしたタイミングで時間になったようだ。立会人のアリアンヌさんがやって来た。



「当然ですわ。むしろさっさも始めてもらいたいくらいですわ」


「……ワタシモダイジョウブデス」


「本当に大丈夫なのか?」



 私は首肯で答える。


 まぁ、理由は模擬戦後に聞き出そう。負けた相手になら話してくれるかもしれないし。



「ではルールを確認するぞ。互いに武器は致死性の低い物を使用すること。勿論、死や後遺症に繋がる箇所への攻撃は禁止だ。勝敗は生命力が3割切るか降参で決まる。異論はないな?」



 私とシンシアは首を縦に振り答える。


 生命力の減りはエレンさんが【鑑定】で見るかそういった類いの魔道具があるんだろうな。



「よし。それでは私がこのコインを飛ばし、地面に落ちたら開始だ。……では行くぞ」



 アリアンヌさんがコインを上に向け弾く。



 訓練場の空中を舞うコイン。次第に勢いが無くなり落下が始まる。



 コインが私とシンシアの間を通り地面に落ちる。



 ──チリィン



「先手必勝ですわ!」



 シンシアが先端潰れた突撃槍を駆け出す。私はまだ素のままだ。この攻撃を受ければ余裕で三割まで削られてしまう。



 ──ガィィィン!



「!?」



 シンシアの突撃は『異空庫』から取り出した巨大な円型のシールドで受け止め軌道をずらす。



「変身ヒーローたちが変身前に攻撃されるのは定番の流れ、対策してない訳ないでしょ!」


「貴女何を言っていますの!?」



 私はシンシアがシールドに当たった時にはスマホを取り出したいる。



「やるからには勝たせてもらう、マリィなかっこ悪いところ見せられないからね。『月光変身』!!」



 【月光変身】アプリをタップ。スマホから光が溢れ私を包み込む。


 光の中で更に光を放つスマホを宙に浮かせルナイトスーツを身に付けていく。


 セーラー服を模した胸部装甲に上腕まで包み込むロンググローブ、高いヒールのアーマーブーツ、頭部バイザーを装着。最後に『月光刀アルテミス』を腰裏に装備して変身完了!



 光が弾け飛び、私は名乗りを上げる。



「『月光剣士ルナイト』!!」



 ──オォォォォォォォォォ!!



 私が姿を現した瞬間、訓練場から割れんばかりの歓声が上がる。



「すげぇぇぇ! 何だありゃあ!?」


「突然装備が変わって……それにすごく綺麗……」


「ふわぁ〜〜! 何回見ても格好いいです!!」


「オイ、今のは何のスキルだ!? お前スキル詳しいだろ!?」


「そ、某の記憶にはあんなスキルはないでありますれば……」


「何と……あんな事ができるとは。私の目に狂いはなかったな!」



 などなど、バイザーに取り付けられた集音マイクに聞こえてくる。マリィの声やアリアンヌさんの声も拾っている。


 シンシアは盾を構えたままこちらの様子を伺っているが、その表情から驚きを隠せていない。



「な、なんですの、その姿……」


「これが私の戦闘スタイル、月光剣士ルナイト」


「る、ルナイト……なんて美しいんですの」



 お、シンシアにも月光剣士ルナイトの良さが理解できるようだ。


 警戒を少し緩めて、薄っすらと頬を染めている。



「はっ……だ、ダメですの! 戦いに集中なさいシンシア!」



 確かにその通りだ。今はこの模擬戦を終わらせる事が先決。その後でゆっくり語り合って仲良くなろう。


 その時にでも『神樹の森』に行きたい理由を聞き出す。


 私は装備した『月光刀』ではなく異空庫アプリから殺傷性を取り除いた『逆さ刀』を取り出し構える。



「行きますわ!」


「来なさい!」



 私とシンシアの模擬戦が本格的に開戦した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る