第18話 JK×空腹×大満足




 城門での一悶着のあと、私たちはある場所で待たされていた。


 『冒険者ギルド・レイムーロ支部』の待合室。


 大きめなテーブルを間にして向かい合わせで置かれているソファ。その片方に私たちは腰掛けている。




 ここに来るまで大変だった……。


 門番さんたちの詰所で門番さんが呼んできた衛生兵、つまりは回復術師の女性に念の為という事で回復魔法をかけてもらったんだけどその後が……。



「他に痛いところとか、違和感はないかな?」


「君たち親御さんは?」


「まさか森に取り残されているのか!?」


「まだ痛いところがあれば私の秘蔵の回復薬をだすわよ?」


「それはいかん! すぐに隊を編成しろ!!」


「お前! 隊長である俺を差し置いてギルドマスターを呼ぶとはどういう事だ!?」


「君たち安心していい。この街の兵士は皆屈強な戦士だ。必ずご家族を助けだしてやる」


「おぉい! 俺の話し『うるせぇぇぇ!!』ゴブぅぅぁ!!」


「まだ本調子じゃないみたいね。怯えているわ。仕方ない今日は私の家で念入りに治療してあげる」



 などなど……ゴブリンみたいな声で気絶した隊長さん慕われてなかったなぁ。そして回復術師のお姉さん……怖かった! いくら百合の私でもアレはちょっと無理。ていうか何で私なの!? マリィの方が何万倍もカワイイのに! まぁマリィに迫ったら全力で排除したけど!!



 こんな状況にさらされてい私たちは冒険者ギルドから来た事務員の人に連れられてここまでやって来たのだ。



 ほんと助かりました。


 事務員さんに部隊の編成を止めて貰ったり回復術師のお姉さんを遠ざけて貰ったりと、もう彼女に頭が上がりません。彼女からベッドに誘われたら断れません。




 この部屋に来て三十分程たったが未だに待たされている。


 すでにお昼もかなり過ぎていて腹ペコだ。お茶は出されているがそれだけ。マリィなんて空腹すぎて目の光がなくなりかけてる。


 事務員さんに文句を言うつもりはないがギルド長は別だ。せめて茶菓子でも出すように要求しよう。



 ──コンコンコンコン



 ノックに返事をすると、例の事務員のお姉さんが入ってきた。



「お待たせしたしました。ギルド長室へ案内しますのでこちらへ」






 お姉さんに案内され移動する。


 やって来たのは三階の部屋。お姉さんがノックをすると中から「入れ」と声がかかり扉を開ける。



 そこは先の待合室の倍広い部屋で中央には待合室と同じようにテーブルとソファ、その奥の窓際には大きな執務机が置かれている。その机に腰掛けるように赤い髪の女性が立っていた。



「ようこそ『冒険者ギルド・レイムーロ支部』へ。私がここのギルドマスター、アリアンヌだ」



 二十代後半くらいか。熱を帯びているかのような真っ赤なロングストレートヘアの超絶美人さんがギルドマスターで間違いないみたいだ。

 切れ長の目を力強く、身に着けている軍服のような服を持ち上げる裕福な胸とお尻はとても魅力的だ。



 ただ気になるところが二つ。彼女は右眼は眼帯で隠されていて、片腕がなかった。




「えっとセツナです」


「ま、マリィはマリィなのです」



 アリアンヌさんの容姿に気を取られて、慌てて自己紹介をする。

 名字まで言うと貴族だ何だと面倒な事になる気がしたので名前だけ。


 マリィにいたっては空腹で言葉に力がない。



「セツナとマリィだな。色々と聞きたい事はあるが、先ずは食事にしようか」


「ご飯です!?」



 ちょ、いきなり元気になりすぎじゃない? マリィって、こんなに食いしん坊だったの。



「ああ。実は食事の準備をしてもらっていて時間がかかったんだ。さぁ、こっちへ」


 

 アリアンヌに促され向かったのは執務机と同じく窓際にあるテーブルだ。


 そこには山盛りのパンに瑞々しい野菜のサラダ、そして異世界人の私にとっては馴染み深いハンバーグが三人分用意されていた。


 部屋に入ったときからいい匂いがすると思っていたけど、これの匂いだったのか。ていうか、この世界にハンバーグあるんだ。いつかマリィに作って更に好感度を上げる作戦が……意外と食文化すすんでるのか?



「二人の容姿を聞いた時に、あまり小洒落た料理ではない方がいいと思いハンバーグにしたんだが、他のものがよかったかな?」


「い、いえハンバーグ好きです!」


「はんばーぐという料理なのですか!? とてもおいしそうなのです!」


「ああ、そうだよ。さて、冷めない内にいただこう」


「い、いただきます」



 テーブルについた私たちは食事を始めた。


 準備されていたナイフとフォークを使いハンバーグに手を付ける。ナイフを通すと肉汁が溢れ出し食欲をより刺激してくる。辛抱堪らず一切れ頬張る。



「〜〜っまい!」



 一ヶ月とちょっとぶりに食べる調理された料理に感動を感じられずにはいられない。


 あ〜〜、口に広がる肉汁の旨味と玉ねぎ(多分)の甘み。ソースは濃すぎハンバーグ自体の味の邪魔になっていない……控え目に言っても最高だ。


 マリィは一口食べると一心不乱に料理に食らいつき、マリィにとっては大きめだったハンバーグをペロっと平らげていた。


 物足りなさそうにしていると流石は有能事務お姉さん。ハンバーグのおかわりをカートに乗せて持ってきてくれていた。私にもお願いします!


 パンもふわっふわって美味しい。南部家ではハンバーグのお供は白米だったけどパンもめっちゃ合う!


 野菜も新鮮で瑞々しく、酸味のあるドレッシングと合わさってドンドン食欲が増していく!



 何だかんだマリィに負けないくらい料理にガッツいているらしく、アリアンヌとお姉さんは私たち二人に優しく微笑みかけている。


 くぅ……! だって美味しいんだから仕方ないじゃないか!






「ごちそうさまでした……」


「ごちそうさまなのです!」


「ふふ。口に合ったようで何よりだ」



 一体どれだけ食べたのかハッキリとはわからないがとにかく大満足だ。日本にいる時でもここまで食べるタイプでなかったんだけど。


 アリアンヌさんは先に完食して紅茶を飲みながら、私たちが満足するのを待ってくれていたようだ。



「さて、満足してもらえた所で話をしようか。──『異世界人』と『ハイエルフ』のお嬢さん方」

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