第5話 JK×覚悟×本音
「ふわぁぁ〜〜! これ、本当に貰ってもいいのですか!?」
雪奈の雄叫びから数刻、彼女らは洗髪にカット、湯浴みまで済ませていた。
湯浴みは洗髪の時と同様に温水玉をマリィに作ってもらい、それを利用した。
その時雪奈が体を洗って上げたのだかここでは割愛させて頂こう……異論は認めない。
そして今まさに真新しい服に袖を通したマリィは興奮した声色で雪奈に問いかける。
「勿論。その為に創ったんだからさ」
「〜〜! ありがとうございます!」
これまでと同じようにピョンピョンと飛び跳ねながら喜ぶマリィ。
彼女が来ているのは雪奈が創造で作り出したオリジナルの服だ。
マリィのリクエストに応え、セーラー服をベースにした物で、上着とスカートを一体化させワンピースタイプにしている。
セーラー服の最大の特徴である襟の部分にフードとマントを取り付け魔法使いのローブのようになっている。
その他、金色の刺繍や金属の飾りを取り付けることでファンタジー感を演出している。
(我ながら会心の出来だ……それに……)
飛び跳ねるマリィを見る。初めて出会った時のようにプリーツスカートの中が丸見えである。しかしそこは肌色の楽園ではなく水色と白の縞模様の下着を身に着けていた。
(やっぱりロリっ娘には縞パンに限るね! 布が少なめで紐パンなのは私の趣味だけど!!)
よほど嬉しいのか、マリィは飛び跳ねるだけでなく体をひねって服を眺めたりくるくると一回転したりしている。その時にマントやスカートだけでなく、洗髪して輝きを取り戻した金色の髪も風に舞っている。
髪型はいたってシンプルである。
前髪は目にかからない辺りで切りそろえ、腰まで伸びた後ろ髪は傷んだ毛先や解せなかった部分を切り、緩めの二つ結びにしている。
その姿は正に地上に舞い降りた天使。
雪奈の理想的なロリっ娘エルフそのものであった。
(いや〜眼福眼福……)
口からじゅるりと溢れる涎を手の甲で拭いながら欲望の目で眺める。これが雪奈のようなJKではなく男性であったなら間違いなく職務質問されたであろう。
「ホントにありがとうございます! マリィこういう服着るの初めてです!」
「気に入ってくれた?」
「はい! その、なんと言えばいいのかな……見てると凄くふわぁってなって、胸がきゅ〜ってなって、えっとえっと……!」
「ふふ。かわいいでしょ?」
「かわいい……はい! とってもとってもかわいいのです!!」
今までの中で一番の笑顔を見せるマリィ。この時ばかりは邪な感情がなくなりただ純粋に喜んでもらえてことに雪奈自身も喜びを覚えた。
「マリィ、お師匠様が亡くなってずっと一人ぼっちだったので、今とても楽しいのです」
「……え? 亡くなってるの?」
「……はい」
「……それってどのくらい前なのか聞いてもいい?」
「大体一〇〇年くらい前です。あ、でもマリィはハイエルフなので一〇〇年なんてあっという間なのです!」
エルフと呼ばれる種族は長命としても有名であり、五〇〇年は生きる。
マリィの種族であらハイエルフは更に長く一〇〇〇年以上と言われている。
マリィはこの深い森の中で一人で過ごしてきた。
身なりを考える暇もないくらい毎日必死で生きてきたのだろう。
マリィはスカートを握りしめながら何か葛藤しているようだ。
この世界に召喚されてから、何度かこのようにしている姿を雪奈は見ていた。
初めて出会った時。
ステータスを確認している時。
果物を食べている時。
髪の毛を洗っている時。
何度も何度も彼女は何かを伝えようと口を開きかけるがそこまでだった。
雪奈には一つ心当たりがあった。
「マリィ」
「は、はいです!」
「……私、元の世界に帰れないんだよね?」
雪奈の言葉にマリィは驚きを隠せず目を見開く。
その顔はどんどんと青ざめていく。
「知って、いたのですか……?」
「知ってたっていうより、私の世界の物語だと召喚された人は帰れないってのが定番だから、もしかして……ってくらい」
マリィは勢いよく腰を折って雪奈に頭を下げた。
「ごめんなさいです! 本当は、お師匠様から召喚魔法は使っちゃダメだって……でも、でも……」
「寂しかったんだよね?」
「──っ!! マリィは……」
「一〇〇年かぁ、私だったら一週間も持たないよ。寂し過ぎて発狂しちゃうかも」
自虐的に眉を八の字にしながら笑う雪奈。
五〇歳近いというのに今だに子供っぽく、特撮ヒーローの新しい玩具が出るとすぐに買ってきては自慢し、母に叱られる父親。
仕事やちょっとした買い物以外は外に出ずに家でゲームばかり。その割に下手くそですぐに泣きついてくる兄。
趣味がバレてからというもの、高校生の娘相手にエッチな下着を買ってきては着せたり、世間話のように猥談を話す母親。
騒がしく不真面目ながらも信頼出来る友人たち。
そんな皆の事が大好きで会えないかもしれないと思うと胸が痛くなる。帰りたいと思う。
だがそれ以上に目の前の小さな女の子を助けてあげたいと思ってしまった。
自分が幼女が好きだという邪な想いも少なからずあるかもしれないが、ただ純粋に彼女を一人にさせたくないと思ってしまったのだ。
(もし帰れたとしても、こんな娘を放って帰ったらお母さんに殺されちゃうからね)
雪奈は覚悟を決めた。
「だからさ、よかったら私と一緒に居てくれないかな?」
この異世界で生きる事を。
「マリィは……あなたに、ひどい事をしたんですよ?」
この娘を幸せにしようと。
「大丈夫」
その言葉を聞いたマリィは遂に限界を迎えた。
「……うぐっ、マリィは……もう一人は嫌なのです!」
大きな瞳に負けない程の大粒の涙が零れ落ちる。
「お師匠様がいなくなって、ずっと一人ぼっちで、怖くて……寂しかったのです……うぐ」
一〇〇年もの間、貯めに貯めた不安や寂しさを吐き出すように。
そんなマリィを雪奈は抱きしめる。
「う……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「もう一人じゃないよ? 私がいるからね。一人ぼっちになんてしない」
少しでもマリィが安心出来るように、力も強くも優しく、自分が側にいると伝えるようにマリィを抱きしめる。
その日、雪奈とマリィの二人は一緒に眠りについた。
雪奈の【創造】から作り出された布団はとても気持ちよく、泣きつかれたマリィを優しく包み込んだ。
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