第3話 ナツミちゃんとゲームとかき氷

 旅先の沖縄、南国にそよぐ海風がとても心地良い。

 僕の胸が弾む、踊る。

 いつもより大きく心臓が鼓動する、高鳴っている。


 南国の島に旅行に来てまでゲームをしている彼女に、僕の瞳は奪われた。

 しかも僕はこれから、出会ったばかりの女の子ナツミちゃんと――。



 ✻



 ウキウキしながらお母さんは、旅行の特典のリラクゼーションサロンにさっそく出掛けて行った。


 暇になった僕の方は、一人でビーチを散歩しようと思って外に出てみた。

 どこを観光しようとか調べて来なかったけど、沖縄の美しい海をまずはじっくり見たい。

 海に触れたい。

 本とかテレビとかでしか見たことが無かった沖縄の海が、そこに現実に広がっているんだ。


 ふふっ。僕はご機嫌なお母さんの顔が嬉しかった。

 お母さんのご機嫌な笑顔を思い出すと、こっちまで嬉しくなってた。


 ――あっ。

 さっきのツインテールの女の子だ!  

 彼女はコテージの入り口のベンチにまだ座っている。


「こ、……こんにちは」

「こんにちは」


 僕は旅先の気安さからか、ついつい話しかけてしまった。

 普段の僕なら、初対面の女の子に自分から絶対に話しかけたりなんかしない。

 言い訳をすると――。

 だって、彼女のやっているゲームの音が僕のお気に入りのゲームと一緒だったからだ。好きなゲームが一緒の仲間って思ったから。

 決して、相手が可愛い女の子だからってだけじゃないんだ。

 僕の頭は、弁解下手な言い訳でぐちゃぐちゃ。話す口調はしどろもどろになりそう。


 そんな僕の様子を気にもせず、彼女はにっこり笑ってお喋りしだした。


 それは天使みたいに純真で、僕の心の中の葛藤やら動揺やらなんて知らない、屈託のない明るい笑顔だった。


 初対面なのに僕達はすっと気が合ったのを感じた。コーヒーに溶け込むミルクみたいに違和感がない。

 会話が弾む。

 僕はどちらかと言うと人見知りなのに、ナツミちゃんとは昔馴染みみたいに不思議と和んだ。


 僕達は、今夜泊まるコテージからすぐのビーチに来た。

 穏やかに寄せる波の音がする。

 海の透明度は素晴らしい。

 こんなに透きとおった海を僕は知らない。

 真っ白な砂浜にカフェがあって、オープンテラスにはあまり人がいなかった。

 僕はナツミちゃんとカフェに入りテラス席に座った。

 椅子もテーブルも白いペンキで塗られた木で出来ていた。

 エメラルドブルーの海に映える白だった。眩しい。


 僕とナツミちゃんは30分ぐらい対戦でゲームをしてから、ドラゴンフルーツやマンゴーののっかったかき氷を二人で分け合って食べた。

 頭がキーンとしなくて不思議な氷で、ナツミちゃんが言うには天然氷だからなんだって。


「シュン君は関東の人?」

「うん、東京。ナツミちゃんは?」


 ナツミちゃんの顔が曇った。泣きそうな顔をしている。

「どうしたの?」

「私は神奈川に住んでたの。でもね、この島に引っ越すことになって……。あのホテルはおばあちゃんが経営してるんだ。おばあちゃん病気になっちゃって、お父さんが手伝う事になったんだよ」

 ナツミちゃんは地元を急に離れることになって悲しんでいた。友達と離れる寂しさ。通い始めたばかりでも受験を受かって嬉しかった高校から転校する不安。

 僕はナツミちゃんが可哀相になって慰める言葉が見つからずにいた。


 すると重苦しい空気を吹き飛ばす様に彼女はニッコリ笑った。


「ねっ、島探検しよう! 私と冒険しない?」


 向かい側に座っているナツミちゃんは椅子から勢いよく立ち上がり僕の右手を両手で握りしめる。僕の胸の鼓動はドキドキと早くなって顔が熱く火照った。


「うっ、うん。お母さんに出掛けるって言って来るよ」

「分かった。私もお父さんに言って来るね〜。シュン君。それじゃあ、後でロビーに来て」


 ナツミちゃんが手を振り、スキップでもしてるんじゃないかなってぐらい軽やかに歩き出す。


 彼女の白いふわふわのフリル袖から伸びる細い腕とリボンの付いたデニム生地のミニスカートからのぞく素足に、一瞬胸がドキッ! とした。


 僕の瞳に映るナツミちゃんはすごく輝いていて。


 彼女のよく日に灼けた小麦色の肌が僕には眩しかった。





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