八章 暇を潰そう(夏休み編)

Episode 87「夏休み」

――【ランキング】――

・1位:不死竜

・2位:闇に染まりし漆黒のナンチャラ

・3位:暁戦線

・4位:アーミーフォートレス

・5位:杏仁豆腐



・38位:TFP


――【該当なし】――

・終焉帝


――――――――




◇ ◇ ◇




◇『不死竜』ギルドハウス◇



 私たち『不死竜』は、FLO第二回イベントで堂々の1位。文句ない結果になった。

 の、だけど。

 普通、喜ぶべき今日この日、ギルドハウスにはどんよりとした静けさがある。


 理由は、わからないこともない。

 多分、途中で襲撃されて、私が吸収進化を使ったところ、みんなは硬直してしまった。

 それを悔やんでいるんだと思う。

 スノウちゃんに至っては、イベント終了直後に土下座までしてきた。

 いやまあ、あれは完全に私が悪いことだし、何もそこまで暗くなる必要もないと思うんだけど……。

 それに、おかげで相手まで固まってくれたんだし……。


 でも、あそこまで大きくなるとは思ってなかった……。

 だって、三階建ての一軒家くらいありそうなクロの竜型よりも、あと一、二階分くらい高かったんだもの。私でもそりゃ驚いちゃうね。


 鱗は、毒々しい紫色から、腐ったイメージをさせる、緑や紫が混じった色になっていて……あ、うん。あれが私なんだと思い出しただけでも、現実味が全くしない。


 それに加えて、新しく入手したスキルも強かったし、ステータスも当然高い。

 あー、私、そろそろ人間辞めるのかな……。

 そう考えると、なんだか私まで暗い気持ちになってきたよ……。

 

 んー、いや、まあいっか。

 『竜=強い』。そう考えると、別に容姿くらい人外になろうと、もうどうでも良くなってきたかも。それに、いつでも人型に戻れるしね。

 だけど調子には乗るまい。

 元はと言えば、私が油断してしまったせいで襲撃される嵌めになったんだし。

 よし、明日からは謙虚に、そしてのんびりプレイしよう。うん、そうしよう。

 



◇ ◇ ◇




 イベント後日。


 テストを終え。

 終業式を終え。

 イベントを終え。

 待っているのはそう、夏休み、だ!

 

 ……なんて騒ぐこともなく、今日も欠かさずログイン。

 

 そう、私は騒がない。

 レイミー、ミカ辺りは、わーわーうるさかったけど、正直、私にとって夏休みとは暇でしかない。


 今年はFLOを始めたし、以前よりかは暇も削られる。

 とは言え、夏休み期間は約一ヶ月。

 一ヶ月ずっとゲームをするわけにもいかないし、宿題や勉強は、毎年早めに終わらせている。

 だから今年も暇になる未来しか見えない。

 日差し照り差す部屋に、暇だ、と呟きながらベットでゴロゴロする姿が容易に想像できてしまう。


 憂鬱だ……。


 まあ逆に考えれば、勉強ができるし、バイトができるし、ゲームができるし。

 っと、確か本も溜まってた。

 ……あれ? これ、割と暇しないかも?


 おお、今年の夏休みは期待大かもしれない!

 なるほど、レイミーやミカもこんな思いをしていたのか。

 うん、それなら納得。



 さて。

 じゃあ私は何しよっかなぁー。

 うーん……。

 四階層以降の攻略とか?

 スキルの追及?

 あ。いっそ、戦闘のことから外れて、鍛冶や裁縫とかの生産系を極めてみるのも良いかもしれない。

 いや、それはフレアさんとヘッドさんの役目だしな―。

 まあ、だから私はダメ、ってことにもならないんだけど。


 とすると、生産系じゃなくても、釣りや採掘、伐採、虫取りとかいうのも良いかもしれない。

 確か、ある程度のスキルは習得してたし。

 時間はたっぷりあるし、すぐに決める訳じゃないけど、この中でやるとしたら何が良いかなぁ。

 

 虫取りは論外。

 採掘は……STRが足り無さそうだし、これも論外。

 伐採は……採掘と似たような理由で却下。

 残るは釣り。


 よし、決定。

 別に今すぐやるわけでも、やらないといけないってわけでもないけど、暇になったら釣りするかなー。

 それに、釣りに必要なステータスは……確かDEX、器用さだっけ。

 DEXなら、装備のステータス効果で中々高いと思うし、いざとなったら、感覚でできそう。実際のところはどうなのか知らないけどね。

 

 それと、『釣り師の黄金像』っていうアイテムが、一昨日、新たにギルドに設置したし。

 これの効果で、スキル『釣り』の効果が大幅に上昇。運極振り、器用さ振り無しの私でも、少しぐらいは釣れそう。


 おおー、なんかワクワクしてきた。

 釣り、良いかも。

 暇が嫌いな私でも、待つことは嫌いじゃない。

 寧ろ、静かな時間とか、ジッとした時の微かに耳に残る小鳥のさえずりとか、そういうのはとても好き。……日常生活でそんなのを聞くことなんて滅多にないけど。

 夏なんて、熱いし、眩しいし、うるさいしで敵わないもんね。

 だからこそ、それをゲームで楽しむ。

 おー、そう考えると余計にやってみたくなってきた。


 そうだなぁ。近々、職人街にでも行って釣り道具や釣りスキルを買ってこよ。

 ……いや、今からでも行こう。

 うん、善は急げだね。


 そうと決まれば、出掛ける支度をする。

 とは言っても、無駄なアイテムの収納や、クロ(人型)を呼び出すくらい。

 クロに関しては、出掛けるのは複数人の方が楽しいからね。

 それに、せっかく人型になれるんだよ? どうせなら、街を周って見せたいじゃん?


 そうゆうことで、今日は二人で出掛けようとして、ギルドの玄関扉に手を掛ける。

 転移陣で職人街前まで転移もできるんだけど、たまには歩くのも良いよね。

 

 そして扉を開けて、外に足を踏み出そうとして――ガンッ、と音が鳴る。

 何事っ!?

 と、その直後には、「ッつぅぅぅ」と少女の声。


 まさかスノウちゃんかとも思ったけど、声から違っていたし、よく見てみると、その少女は知り合いじゃなかった。


 私が不思議に思っていると、額を抑えた少女は私の存在に気づき、なんと自己紹介を始めた。


「ボクのプレイヤー名は〝ジニ〟。元暁戦線メンバーで、今日からは不死竜のメンバー。よろしく」


 赤毛で幼さが残る容姿とは裏腹に、どこか落ち着いた様子で挨拶をした。

 そして彼女は言った。

 「今日からは不死竜のメンバー」と。


 え? どうゆうこと?

 元暁戦線っていうのも気になるけど、それ以前に、彼女の話してることがわからない。

 不死竜への参加を希望、とかじゃなくて、もう不死竜のメンバーになってるよ、みたいな言い方。みたい、というか、そう言ってる。


「ちなみに、ヘッドとフレアラちゃんから許可は貰ってるよっ」

「はい?」


 今、ヘッドさんとフレアさんから許可を貰ったと?

 なんの許可? ギルドに入る許可に決まってる。

 


 ……………………。



「はい?」

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