Episode 88「ジニさん」

◇『不死竜』ギルドハウス◇




 ロビーのテーブルにて、私とジニさんが向かい合って座っている。

 そして私は、ジニさんのさっきの言葉を思い出していた。


『今日からは不死竜のメンバー』

『ヘッドとフレアラちゃんから許可は貰ってる』


 これは、そういうことなんだろうか……?

 入りたいです、ではなくて、入りました、ということなんだろうか。

 それに、ジニさんって暁戦線の元メンバーなんだよね。

 どこか見たことがあったと思えば、昨日のイベントで暁戦線と対峙した時、村人の近くにいた人だ。


 となると、この人はもしや幹部クラス?

 プレイヤーを強さで選ぶ気なんて無いけど、見た感じは、そんなに強そうな装備も着ていない。

 強いというよりも可愛いって感じがする。

 なんだろう……戦闘用装備じゃない、的な。

 そう、例えば……防御力なんて気にせず、オシャレしてる感じ。

 まあ人それぞれの楽しみ方はあるし、オシャレはしてみたいなとも思ってるから、ちょっとだけ共感。


 それにすごく可愛いらしいし。

 あ、でも、ジニさんの言動から察するに、私よりも大人っぽそう。年齢的な意味で。

 だからあんまり失礼にならないように気を付けよう。


 と、考えが余計な方向にズレた。

 

 今は、この人が許可を貰ってるか貰っていないかの話。

 疑うわけじゃないけど、後からみんなに紹介する時に、変な空気になっても嫌だし。

 まあでも、許可を貰ったっていう話は本当みたい。フレアさんからのメッセージに、そう書いてあった。


 すると、問題は解決したってことになるのかな。

 えっとー、じゃあ、自己紹介、した方が良いよね。


「さっきは扉、ぶつけてしまってすみません……。私は不死竜のギルドリーダーのツユです。これからよろしくお願いします」

「そう畏まらなくても良いよー。それじゃあよろしくね、ツユちゃん!」

「あ、はい」



 今日、新しいメンバーが増えた。







 簡単な自己紹介を終えた後、私は他のみんなに、ギルドメンバーが増えたことを伝える。

 ちなみに、新メンバーがジニさんってことはまだ伏せておく。

 この人、どうやらすごい人らしいし。

 フレアさんとヘッドさんはもう知ってるけど。



 暫くの間、私はジニさんと会話をしていた。

 フレンド登録したり、ギルドハウスの説明をしたり、イベントのことで訊かれたり。

 ジニさんがフレンドリーな人だからか、話していてとても気分が良い気がする。

 そのコミュ力、良いなぁ、私も欲しいなぁ。


「あ、そう言えば……」

「……?」

「ツユちゃん、ボクと鉢合わせした時、どこか行こうとしてなかった?」

「……」


 鉢合わせっていうのは、あの入り口での出来事でしょ?

 ……あ、釣り道具を買いに行こうとしていたんだった。

 

「ちょっと釣りでも始めてみようって思ってて、その道具を揃えに、ちょうど出掛けようとしてたところです」

「あー、なんかごめんね? 気にせず行ってきていいよ?」

「いえ、大丈夫です。どうせずっと暇のなので」

「そう? それなら良いけど。――それにしても釣りかー。なにツユちゃん、四天王制覇とか目指してるの?」

「ん? 四天王制覇、ですか?」

「ありゃ、四天王には無かった感じ?」


 確か、


 決闘を極めた、カジキさん。通称、チャンピオン。

 ダンジョンを極めた、ピイマンさん。通称、ダンジョンルーラー。

 釣りと料理を極めたプレイヤー、名前不明。通称、魚爺。

 竜が好きなプレイヤー、名前不明。通称、黒竜。


 と、こんな感じだったと思う。

 制覇ということは、四天王を倒すってことだよね。

 となると、確かに釣りをしたいなんて言ったら、魚爺さん辺りでも倒そうとしてるのかと思われるのも納得。


 でも残念ながら、その手の話に興味は無い。

 カジキさんと闘って勝利したのは……あれは、カジキさんから挑んで来たもので、決して私が、四天王の座を奪い取りたいとかなんとか考えてるわけじゃない。断じて。

 

「そうですね、四天王とかはあんまり興味が無いです」

「そっかー。でも、ダンジョンルーラーと魚爺も倒して最強になったツユちゃんも見てみたかったなー」

「最強って……。――ん?」


 四天王は合計四人。

 その内の一人、カジキさんは倒したとして。

 それだと、残るはダンジョンルーラーさん、魚爺さんと――


「最強になるなら、黒竜さんも倒さなきゃいけないんじゃないんですか?」


「え?」

「え?」


「……………………」

「あ、あの……?」


 なんだろう。急に黙っちゃった。

 私、何か変なこと言ったかなぁ……?

 いや、そんなことは無いはず。


「ど、どうしました?」

「あ、ツユちゃん、もしかして知らなかったりする?」

「な、なんのことですか?」

「黒竜の正体。最近はすごく話題になってるんだけど……ほんとに知らない?」

「は、はい、知りません。というか、話題になってるんですか? 私、黒竜の噂だけ、全く聞かないんですよ」

「ん? ……あぁ、なるほどね。そりゃ、ツユちゃんの周りでツユちゃんの噂はしないよね……」

「えっと? どうゆうことですか?」

「ふふ、なんか面白いことになってるや」

「……?」


「えっとね。黒竜の正体、それは……」

「それは……?」

「ボクも知らない」

「え? し、知らないんですか?」


 あんなに知ってる風吹かせてたのに?


「ごめんごめん。ツユちゃんの反応が面白くて、つい」

「はあ……?」


 何が面白くて、何がつい、なのかはわからないけど。

 そういうことなら、これ以上聞いても仕方ないね。


「ふ、ふふっ……」

「?」


 それから暫く、ジニさんはずっと笑っていた。

 どうしたんだろう、思い出し笑いかな?

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