Episode 85「望み」

 周りの物質を吸い取り進化をする『吸収進化』。

 使用後の変化は、私の目線からでも凄かった。


 目の前にいたはずのフレアさんやスノウちゃんはさっきより少し小さく見えたし、自分の手や足の色、形が変化していた。

 何より進化による変化を確信したのは、敵味方構わず、私を見たプレイヤーはみんな例外なく唖然としていたから。


 交戦によって辺りに響いていた金属音は鳴り止むし、そうなれば当然目線が私を向くし。

 逃げるか戦うことすら忘れて立ち尽くすくらい、状況の変化は劇的だった。


 しかも目線が高くなったことで気づいたんだけど、敵軍の後ろの方に、プレイヤーらのリーダーっぽい人物もいたんだけど、その人もまた、膝を地面について呆然としていた。

 そのリーダーの近くに、村人と他何人かがいた。

 村人がここにいるということは、この集団は『暁戦線』ってことだよね。

 ああ、そりゃこの規模も納得できるよ。

 

 何せ、いまだ後方からぞろぞろと増援がやって来てるんだもん。

 それもまた、私を見た途端に、確実にピタッと動きを止める。

 いや、そこまで反応するものかなぁ? 

 そんなに驚かれるとちょっとショックなんだけど。

 ……後で自分の姿、ちゃんと確認しておこう。


 とまあ、さっきまでの心境が嘘のように、心の中で軽口を言えるくらいには、私は今の状況に余裕を持っている。

 なんだって、この場にいる100、200のプレイヤーが全員、私に釘付けになるくらいなんだから。

 いや、言葉の意味に他意は無いけど。


 とにかく、この状況で動けるのは私だけみたい。

 となれば好都合。

 敵を全滅させるか、ギルドリーダーを倒すか。


 ギルドリーダーはおそらく、村人の近くにいるあの男の人だと思う。

 もしくは、その近くにいる女の人。

 少なくとも、あの遠くの辺りにいるプレイヤーが、このギルドの幹部っぽいから、さっさとやっつけちゃおう。


 村人さん、ごめんなさい。

 今回はイベントで仕方なくっていうだけだから、あんまり責めないでほしい。

 村人も、敵として会ったら容赦しない的なこと、言ってた気がするし……。

 まあ大丈夫。だと思う。



 さて、暴れると言っても、どうしよう。

 結局、『エクスプロージョン』は味方を巻き込むから使えない。

 

 となると、他にどうするかな。


 私が暴れれば、多分、なんの苦労も無く、辺りの敵プレイヤーは全滅間違いなし。

 だけど、暴れた時点で、少なくとも敵の一部くらいは意識を取り戻して、逃げるか攻撃するかしてくると思う。


 それをさせないためにも、一、二撃ほどで敵全体をいっきに攻撃する方法は……。


 無い。


 いや、無いこともない。

 だけど、これは賭け……と言うよりも、一縷の望みと言うべきかな。


 まあ無かったら無かったで、私がみんなを連れて逃げるか、守りながら暴れれば、一人も欠けずにこの場を脱することはできそうだけど。

 だけど、確定要素はやっぱりほしいもんね。


 と。そろそろ私も仕掛けないとヤバいかも。

 時間が無い。

 一か八か、どうか安全策がありますように……!



――【ツユ】――

・個体名「竜人・ポイズンドラゴン」

・LV「28」☆

▷MONEY「31,158,380」

▷CASINO「0」

――【STATUS】――

・HP「3900/3900」

・MP「3900/3900」

・SP「3900/3900」

・STR「2340」(660)

・VIT「2340」(1160)

・INT「2340」(160)

・DEX「2340」(350)

・AGI「2340」(470)

・LUK「2340」(50)

――――――――

………

……

――【ツユ】――

・個体名「魔竜人・ディセルタドラゴン」

・LV「28」☆

▷MONEY「31,158,380」

▷CASINO「0」

――【STATUS】――

・HP「6240/6240」

・MP「6240/6240」

・SP「6240/6240」

・STR「3900」(660)

・VIT「3900」(1160)

・INT「3900」(160)

・DEX「3900」(350)

・AGI「3900」(470)

・LUK「3900」(50)

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――【SKILL】――

・『腐敗域』(new)

・『腐敗ブレス』(new)

・『麻痺咆哮』(new)

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 おお、あった!


 私がかけたもの、それは、スキル。

 私が竜体化でポイズンドラゴンになった時、巻物で入手したことのない新しいスキルがいくつか増えていた。

 だから、もしかしたら今回も、という望みにかけてみたのはどうやら正解だったらしい。


 問題は、そのスキル効果なんだけど…………どうやらその心配は無いっぽい。



 『腐敗域』は、半径5メートル以内にいる敵の装備耐久を減りやすくするスキル。

 加えて、猛毒付与の可能性も高確率であって、めっちゃ強いと思う。

 パッシブスキルだから、私がそこにいるだけで、周囲のプレイヤーは毒&腐食に掛かる。いや、強すぎるでしょ。

 ちなみに、味方には安全。



 『腐敗ブレス』

 私が知ってるブレスの、腐食属性と猛毒付与を追加したスキル。

 ようするに、『ポイズンブレス』の上位互換になるね。

 しかも、素の威力もちゃんとあるっぽいから、これも強力スキルだ。



 最後に『麻痺咆哮』。

 これは、『咆哮』の上位互換。

 『咆哮』はモンスター相手に怯ませる能力を持つのに対して、『麻痺咆哮』は、加えてプレイヤーにも怯みの状態異常を確定で発生させ、しかも麻痺まで与える場合があるときた。

 うん、これもやっぱり強い。


 

 もう、全部強すぎる。

 うん、心配する必要なんてこれっぽっちも無かったよ。


 とにかく、敵が動き出す前に、倒さないと……!


 そうして私は、動き出した。

 そこに、不安なんていう感情は、消えて無くなっていた。






――【ツユ】――

・個体名「魔竜人・ディセルタドラゴン」

・LV「28」☆

▷MONEY「31,158,380」

▷CASINO「0」

――【STATUS】――

・HP「6240/6240」

・MP「6240/6240」

・SP「6240/6240」

・STR「3900」(660)

・VIT「3900」(1160)

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・AGI「3900」(470)

・LUK「3900」(50)

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