Episode 84「みんな」
ここで『エクスプロージョン』を使えば、敵ギルドに大ダメージを与えられる。
けれど、クロたちが、スキルと装備による無敵範囲内にいないこの状況。
今使ってしまえば、それは、私、フレアさん、スノウちゃんしか残らないことになる。
たとえ味方でも、レイミー、ミカ、ミズキ、ヘッドさん、クロは間違いなく死んでしまう。私が倒してしまう。それほど、このスキルの威力は高くなっている。
死んでしまえば、五人は最初の場所に戻されてしまう。
完全にゲームオーバーになるわけではない。
けれど、今から戻っても、あの場所にはきっと間に合わないし、戻ったところで、それはもはやギルドが残っていない場所を通ることになる。私が倒しながらここまで来たんだから。
当然、敵がいないなら、ポイントも稼げない。
多少なら、移動してきたりたまたま生き残ったギルドがいるかもしれない。
でもそれは、これから先に進むよりも、ポイントが稼げるのか。
いいや、否だね。
ポイントは稼げない。
だけど、考えるのはそこじゃない。
ポイントなんてどうでも良い。……わけではないけど、今はそうじゃない。
今は、この全員で、生き残る方法を探さないと。
全員で、生き残らないと。
何故かはわからない。
正直に言ってしまえば、このまま、私だけでもこの場から逃げて、あとは同様にポイントを荒稼ぎするのが一番良いポイントの集め方。
それが一番、合理的。
だけど、それは違う。
何故かはわからない。
みんなでイベントの最後まで乗り切る。
そうしたいから。ただそれだけかもしれない。
でも、そんな理由すら、今の私の中には無い気がする。
ただ、ただただ、
拠点に戻されるにしろ、
先に進むにしても、
『ここで別れるのは違う』
ただそう思っただけ。
それが一番の理由。
◇
状況は良くない。
『エクスプロ―ジョン』を使うには、私とクロたちが近くにいないといけない。
だけど、この状況ではそれが叶っていない。
距離にして、10メートルほど離れている。
私が急いであっちに近付くか。
いや、それをして、たとえクロの方に行けたとしても、こっちにはフレアさんとスノウちゃんが取り残されてしまう。
それに、相手は今にも襲い掛かってきそうだ。
私が無敵になるには、装備を着てる状態じゃないといけない。
装備を着てる状態とは、すなわち私が人型に戻らなきゃいけない。
人型に戻る場合、数十秒ほど時間が取られる。
その隙に敵が動けば、私は反応できず、そしてこの敵の多さを考えれば、攻められれば一人でも欠けるのは時間の問題。
それはダメ。
一人でも欠けちゃいけない。
だから、どうするか考えなきゃ。
こっちはまだ敵が動いていない。
だけど、クロたちの方は、もう交戦になっている。
向こうの敵の方がこっちより数は少ないけど、やられるのはこれも時間の問題だ。
早くしないと。
早く助けないと。
どうする。
どうすればいい。
どうしたら助かる。
どんな方法があった。
考えろ……考えろ……
考えろ……考えろ……
考えろ……考えろ……
考えろ……考えろ……
私には、どんなスキルがあったか。
私には、何が使えるか。
あらゆるスキルを使って。
あらゆるスキルとスキルを組み合わせて。
この状況から抜け出す何かを。
思い出せ。
考えろ。
作り出せ。
エクスプロ―ジョンは不可能。
それを使わず、他にできること。
何か、何か使えるスキルは……。
スキルを確認した時、少しでも強いと思ったスキルを思い出して……。
なんだったっけ。
竜体化?
今使ってる。
竜人?
隙を見せる。
爆弾系?
範囲が足りない。
魔法系?
威力が足りない。
あとは、あとは……
まずい、クロたちが押され始めてる。
私たちも、じりじりと迫られてきてる。
敵の数も、心なしか増えてる気がする。
もしかして増援か。
まずい、まずい。
これはまずい。
とてもまずい。
非常にまずい。
すごくまずい。
まじでまずい。
まずい、まずい。
他に強いと感じたスキルは……
えっと、
あっと、
うーんと、
あ!
吸収進化!
は、意味がない……。
あとは……
うん?
あれ?
私、今、竜体化してる。
でも、吸収進化はしてない。
吸収進化、意味なくないんじゃ……。
あぁでも、見た目がちょっと……いや、今はそんなこと気にしない。
というか、今は竜の姿だから見た目は大丈夫だと思う。
だけど、あれは相当な時間を使う。
そうこうしている内も、押され続けている。
どうしよう、どうしよう……。
せめて、20秒30秒、時間を稼げたら……。
どうやって時間を稼ぐ。
何をする。
何ができる。
何をすれば良い。
何が最善か。
「ツユちゃん、落ち着いて!」
「えっ。……あ、はい」
意識が変なところに飛んでた。
まずい、そんなことしてる場合じゃないのに。
とりあえず暴れちゃう? どうする?
「先輩、何か作戦はありますか?」
「え。う、うん。一応」
「勝率はどのくらいなの?」
「えっと……もし成功すれば、少なくともみんなを連れて逃げるくらいはできるかと」
「どのくらい、時間が必要ですか?」
「え? さ、30秒くらいです……」
だけど、間に合わない。
30秒も隙を見せれば、この数の敵には、敵わない。
なのに、わかっているはずなのに、
二人の顔は笑った。
「そう、じゃあ余裕ね」
「ですね。誰も先輩には近づけさせませんよ」
「えっ。いや、ちょっと待ってください! そしたら二人が……」
私がそこまで言って、言葉が引っ込んだ。
気づいてしまった。
そうだ、なんで、なんで私は、一人で戦おうとしていたんだろう。
ここには、みんながいる。
たったそれだけ、嘘のように、さっきまでの不安が消し飛んだ。
そうだ、ここにはみんながいる。
そうだ、そうだよ。
「わかりました。お願いできますか?」
「当たり前よ」
「当然です!」
敵は多い。
私たちの目の前にいる数だけでも、ざっと50はいるかもしれない。
だけど、たった30秒の時間稼ぎ。
そんなことが、この二人にできないはずがない。
なんだって、
私たちは、
『不死竜』のメンバーなんだから。
「『吸収進化』!」
スキル使用後、私は白く眩しい光に包まれる。
一瞬、敵が怯んだように見えた。それもすぐに、光で遮られる。
5秒。
光は強くなる。
金属音が交わる音が近くでして、だけどさっきまでのように不安にはならなかった。
まあ、敵の悲鳴ばっかりが聞こえてきたのが、安心できた理由だけど。
うん、こんなことを考えられるなら、もう大丈夫みたい。
15秒。
光が少し治まった気がする。
だけど、金属音は鳴りやまない。
流石に、あの数と二人がやりあうのは、余裕ではないのはわかってる。
25秒。
だけど、もう期待するしかない。
そんなことしかできない。
けど、二人も私を期待して、信じてくれて。
二人だけじゃない、他のみんなも。
30秒。
光が完全に消える。
いつの間にか、目線が高くなってる気がする。いや、気がするんじゃなくて、事実なんだろうけど。
もう、私には沢山の余裕があった。
調子乗り過ぎだとか言われても、否定できないくらいには、本当に調子に乗っていたと思う。
だけどとりあえず、恥じるのは後で。
今は精一杯調子に乗って、みんなと暴れよう。
うん、そうしよう。
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