Episode 74「漆黒門」

 期末テストの二日目が終わった。

 いつもより早めの時間で家に帰り、昼食を食べ、簡単な予習復習をする。

 そして、今日もゲームを起動させる。


「ゲームスタート」




◇ ◇ ◇




 お金とレアアイテムを沢山入手した昨日。

 その内の漆黒のレアカードの試し打ちを今日はしようと思う。

 とまあ、どっちかと言うとそれはついで。

 本当にやりたいことは、プラフィー二号の名付けと『ラッキールーレット』の確認。


 ……普通に忘れてた。


 なんなんだろう。私、記憶力には自信があるんだけどなぁー。

 それなのに、FLOだと他の何かをするたびに、やりたいことやしないといけないことを忘れている気がする。

 この前だって、ヘッドさんに買い取ってもらうレアアイテムを渡すのを忘れちゃって、こっ酷く叱られた。


 でも、それはしょうがないと思うんだ。

 だってヘッドさん、いっつもログインしてるらしいのに、最近はずっと、ギルドホームの鍛冶場に籠ってるんだもん。

 でもほら、鍛冶場にいても、こっちはわからないしさ。

 そのせいで、日に日にヘッドさんの存在感も薄くなってきているし……。

 ミカとミズキなんて、まだ五回は顔を合わせてないと思うよ?

 

 だから私は悪くない。はず。







 『ラッキールーレット』は後回しにするとして、まずは二号の名付けをするべく、平らになった岩山にやってきた。

 岩石ゴーレムは不在だから、私が来る前に誰かがゴーレムを倒したんだと思う。

 今日は宝箱が目当てじゃないから、その名も知らないプレイヤーには感謝をしておく。

 


 周りに誰もいないことを確認して、私は指輪から従魔のみんなを召喚する。

 今回用があるのは、新人であるプラフィー二号だけだけど、ずっと指輪の中に閉じ込められてちゃ窮屈だろうし。いや実際のところはわかんないけど。

 今度、クロかドラコちゃんに聞いてみよ。


「じゃあ、みんなは遊んでてね」


 私がそう言うと、クロ、ドラコちゃん、ガゴ君、プラフィーがそれぞれ了承の動きをする。

 それを確認して、二号を見る。


「えっと……どんなのが良い?」

「……?」


 私が首を傾げれば、二号は茎を傾げる。

 まあ、聞いてもわからないよね……。


 兄弟(親子?)っぽさを出すために、プラフィーとあんまり掛け離れてない名前にしたいんだよね。

 そもそも、血が繋がってるかすらわからないけど。

 いや、植物に血は無いけど。

 


 うーん。



 プラントフィーラ。

 プラフィー。

 プラ。

 二号。

 2ツー


 プラフィーの二号だから、プラツーとか。


 プラツー……プラツー……。


 良いんじゃない?


「今日から君はプラツーね」

「……!」


 縦横無尽に動き回る二号改めプラツー。

 うんうん、可愛いなぁー。


 





 次は漆黒のレアカード。

 


――『(LR)漆黒のレアカード』――

・使用条件:なし

・消費しない

・使うまで、その効果はわからない

――【EFFECT】――

・使用するたびカードの能力が変わる

・カードの能力は、使用後1分経つとで再使用可能

・カードの能力は、使用後1日経つと元のカードに戻る

――――――――



 使うまで効果がわからない。なんて書いてあるくらいだから、本当に何もわからないんだよね。

 カードってなんなのか。

 どういう系等の能力になるのか。

 だからこそ、それを知るための試し打ち。

 て言っても、使用するたびにカードの能力が変わるらしいから、試し打ちが意味あるものになるかはわかんないけどね。


 百聞は一見に如かず。

 私はカードを使う。

 使い方は、消費アイテムとほぼ同じ扱いなので簡単だった。

 

 カードを使った瞬間、手に持ったそれがほんの一瞬だけ白く光った。

 急だったから目を細めてしまう。

 そしてすぐに瞼を開けば、そのカードは別物だった。


 別物と言っても、カードはカード。

 何がと訊かれれば、見た目が全く違った。


 使用する前は、光沢感のある黒。名前通り、漆黒色だった。

 その漆黒色が、カード全体、裏表を覆っていた。

 今持っているカードは、裏側は変わりなく漆黒。

 ただ、表が見違えていた。



――――――――

『漆黒門』



・コスト:HP100・MP100・SP100

・漆黒竜、漆黒狼、漆黒蛇を召喚する

・召喚されたモンスターはこのカードの効果が切れるまでは従魔扱いとなる

――――――――



 一番上は、このカードの名前かな?

 カードの下記には、その効果を使うためのコスト、能力なんかが記されている。

 文章をよくよく見てみれば、その能力は『吸収進化』や『竜体化』なんかよりも強いかもしれない。

 だけど私は、文章に気が回らないほど、なんとも言えない感情になっていた。


 それは、カード名の下にある、絵。

 黒く大きな門が、禍々しい波動と三体の動物の陰を生み出している場面の絵。

 

 そのカードは能力や絵は違っていても、いつしか見た、近所の男の子が自慢げに掲げていたカードにとてもよく似ていた。


 この時私は思った。



 これ、やっぱりネタアイテムだよね!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る