Episode 69「スタートダッシュ」
「こいつを倒して攻略してやる!」
「くそっ、報酬は俺のもんだ!」
「宝箱は俺が頂く!」
「いいえ、私が貰うわ!」
設定をちょこっといじって、ダンジョンをオープンすると、ものの数分で30以上のプレイヤーが押し寄せてきた。
その理由は――
――【竜の巣】――
・LV「1」
・層「5」
▷宝箱「30」(SR)
・攻略中「37」
・ランキング「該当なし」
――――――――
この『宝箱「30」(SR)』にある。
これは、宝箱の数と、宝箱に入っているアイテムの平均レア度を指している。
ようするに、『竜の巣』には宝箱が30個もあり、その中身はほとんどがSRということ。
宝箱30個の内、5個はランダムにアイテムが設置され、他の25個にはSR以上のアイテムを入れている。
専用のアップグレードをすれば、ランダムに配置されるアイテムのレア度も上げることができるらしいけど、『竜の巣』にはまだダンジョンポイントが全く無い。
よって今は、平均レア度がSRに留まっているという状況。
もっと頑張れば、このレア度がSSRだったりURになったりもする。
で、この平均レア度というのが、オープン数分後でプレイヤーがわんさか来ている理由なんだけど……。
簡単に言ってしまえば、攻略報酬で手に入れられるアイテムがSR×30個もあれば、そりゃ攻めてくるプレイヤーも多いでしょ。ってこと。
しかも『竜の巣』は、情報だけ見ればとても弱い。
だって、たった五層しかなく、ランキングにだって載っていない。
そんな、簡単に攻め落とせそうなダンジョンを攻略すればSR×30の報酬が手に入る。
当然、我先にとプレイヤーが攻めてくるわけだけど……私はこれを狙っていた。
普段なら、プレイヤーと戦うことはあんまり好まないんだけど(戦争? 決闘? あれは仕方なく……)、今回はダンジョンを大きくするという、明確な目標があるからね。
寧ろ、もっと沢山来て!
そして、いとも容易くボス部屋に辿り着いた、うじゃうじゃといるプレイヤーを――
「『エクスプロ―ジョン』!」
「おい、あれは……!」
「ま、まずいっ!」
「逃げろ、にげろぉぉぉお!」
「ちょ、あんた、どきなさい!」
「や、やめっ――」
「うわぁぁぁああッッ!」
「た、たすけてくれえぇぇぇぇええッッ!」
《ダンジョン『竜の巣』がレベル1からレベル5になりました》
『エクスプロージョン』で一掃!
これ、なんか楽しいね……!
あ、いや、ほら、プレイヤーを倒すのが楽しいとかそういうことじゃなくて。
ほら、部屋に散らかったゴミを綺麗にするとスッキリするでしょ?
あ、ち、ちがっ――別に、プレイヤーをゴミと例えたわけじゃなくて……いや、例えてるんだけど……その、悪口の意味じゃないんだよ。
「マスター。どうかされましたか?」
「い、いや? なんにも無いよ?」
「? そうですか」
ともかく!
フィールドでも、ダンジョンでも、相変わらずあっさりと戦闘が終了した。
とは言え、新しく挑戦しに来たプレイヤーはまだまだいるけど、初戦闘でこれだけの結果を収められたんだから、これからも滅多に攻略されることは無いよね。
攻略不可能なダンジョンと断定されてしまえば、それはそれで客足(?)が遠ざかるかもしれないけど……その時はその時ということで。
「あ、あいつは……ツユか?」
「やれー!」
「数の暴力で叩けー!」
「もう報酬なんて知らねー!」
「うおぉぉぉぉおお!」
「『エクスプロージョン』」
「ぐあぁぁあぁぁぁああッ!」
「クソぉぉぉおお!」
「やめろぉぉぉぉお!」
《ダンジョン『竜の巣』がレベル5からレベル7になりました》
ふ、ふふ……ふふふ、ふはっ、あっはっはっはー!
……あ、あれ? 私、今……高笑いを……?
ふ、ふぅぅ……い、一旦、落ち着こうか。
◇ ◇ ◇
◇『ピーマン嫌い』ダンジョンボス部屋◇
新しいダンジョンが現れた。
それ自体はそこまで珍しくもない。
ただ、新しく造られてからたった数分で、宝箱が30も置かれたダンジョン。
それはプレイヤーを
ただ、その罠に掛かった者は少なくなかった。
そのダンジョンは、出現から1時間という短時間で、週間ランキング20位にまで上り詰めるという偉業を果たした。
FLOに今あるダンジョンの数は65。多いとも言えないこの中で、20位になるのはさして難しいことではない。それでも、たった1時間で45ものダンジョンよりも好成績を出した。
それは、プレイヤーを倒すだけでは得られない結果。
弱いダンジョンを狙う。プレイヤーの習性とも言えるその行動を理解し、それを利用したスタートダッシュを切ったダンジョン。
こんなの――
「こんなの、誰にでもできることじゃない」
「ほーん。君が他人を褒めるなんて。今日は雪でも降りそうだ」
「夏に雪は降らない。ジニ、バカ?」
「くっ……。冗談を言っただけなのに、いちいち罵らなくても良いじゃないか」
「乙」
「…………」
◇
「それで、君はツユをどうしたいんだい?」
「さあ? 私はただ、このダンジョンの最上層で、アホ共の悲鳴を聞きながらダラダラしたいだけ」
「今更だけど、性格悪いな、君」
「まあ、私は攻める側じゃなくて守る側だし」
「じゃあもしも、ツユがランキングでこのダンジョンよりも好成績を出したら?」
「別に。私はどうもしない。それに――」
「それに?」
「そんなことは起こらない」
「ふふ。君らしいね」
「…………」
「まあ頑張ってよ。ぼくにも手伝えることがあったら、なんでも手伝うから」
「それじゃあ、五層の敵やっつけてきて」
「…………」
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