Episode 67「四天王」

「おいツユさんよぉ」

「は、はい、なんでしょうか……」


 私は決闘の、カジキさんに絡まれていた。

 まあ、当然と言えば当然なんだけど……。


「お前、あんな簡単に勝てんなら、最初からぶっ放せばよかっただろうがよぉ」

「そ、そうですね……」

「それなのになんなんだありゃぁ? もったいぶって隠してたくせに、最後は瞬殺か、ああん?」

「ご、ごめんなさい……」


 うん、言いたいことはわかる。

 というか、逆の立場だったら私もキレてる。



 もうほんとのほんとに、ごめんなさいとしか言いようがないです……。







 私は延々と説教されて、解放されたのは30分後だった……。

 で、驚いたのが。説教の時のカジキさんの口癖が、「自分がやられて嫌なことは人にすんじゃねえぞ」だった。

 その通りなんだけど……それ、あなたが言いますか? とは思ったものの、よく考えてみれば私カジキさんに一度も嫌がらせとか受けてなかったなぁ、と。

 口の悪さは目立つけど、あからさまな暴言は何一つ言われてない気がするし……。


 人を見た目で判断するなとはまさにこのことだね。 

 それはもう、色々と反省しました。


 だけど、理由を説明したら何故かわかってもらえたようで、あっさりと許してもらえた。それはもう、30分の説教が嘘のようにあっさりと。

 それに、中々気さくな性格で、フレンド登録までしてもらった。

 

 その後、あばよと大声で別れの挨拶をされて、カジキさんと取り巻きさんはギルドを出て行ったんだけど……。

 数分後に『決闘、楽しかったぜ!』とだけ書かれたメールが送られてきて……ほんと、なんだったんだろう……。


 ともかく、カジキさんは本当は優しいということが新たに判明した。

 なんで不良みたいな喋り方をしているのかは、いくら考えてもわからなかったけど……。




◇ ◇ ◇




「はーい、ダンジョンの創設ですねー。それでは、どんな種からお造りしますかぁー?」


 種……私が今持ってるのは、


・『世界樹の種』×1

・『精霊樹の種』×3

・『伝説の種』×1

・『金果実の種』×3

・『魔樹の種』×2

・『赤果実の種』×37


 レア度は、世界樹が一番高くて、赤果実が一番低い。

 だから、一番レアな『世界樹の種』からダンジョンを造る。


「これでお願いします」

「すっごーい! 世界樹の種、私初めて見ましたよー! ――あ、こちらお預かりしますねー」

「は、はい、お願いします」


 流石は受付。驚きつつも、切り替えが早い。

 まあ、驚いているのは受付の方だけじゃないけど……。


「おい、聞いたか?」

「おう。世界樹の種って言ってたよな?」

「世界樹の種……URなんでしょー?」

「確か、四天王のツキナしか持ってなかったって言う、あの種だよね?」


「良いなぁー、私も種欲しいよー」

「赤果実なら簡単に入手できるぜ」

「リンゴはダメ。全然収入にならないし、どっちかと言うと、強化に使いたいじゃん」

「あー、俺も世界樹欲しいなぁー」


 こんな話がちらほらと。

 恥ずかしいから、私の周りでこそこそとするのをやめてほしいんだけど……たまに気になる情報を聞けたりする。


 例えば、『四天王』とか。

 私が何かをすれば、その度に「あのアイテム、四天王しか持ってなかったよな?」とか「ツユが四天王を超えたぞ!」とか、四天王と比較されることが多いんだけど。


 その四天王の一人が、さっき決闘したカジキさんだったりする。

 この情報は、ついさっき知ったんだけどね。



 決闘や対人戦を極めたと言われているカジキさん。

 決闘でカジキさんに挑み、勝利したプレイヤーは誰一人いないとか(ついさっきまでの話)。

 通称はチャンピオン。


 

 で、四天王ということだから、他にも三人いるらしい。


 

 ダンジョンを極めたプレイヤーと言われているピイマンさん。

 その人のダンジョンに挑んだプレイヤーは、ボス部屋に辿り着くことすらなく敗れるのだとか。

 通称、ダンジョンルーラー。


 釣りと料理を極めたプレイヤー。名前は知らない。

 その人が作る魚料理は、現世のどんな三ツ星料理にすら勝る味だとか。

 通称、魚爺さかなじい


 竜を倒し、竜を従え、竜へと成る存在。こちらも名前は知らない。

 何をして、どんな功績を出したのかすらも、私の耳には聞こえてこない。

 通称、黒竜。


 

 思うことは、魚爺さんのネーミング雑過ぎない? ってことかな。

 やっぱり、もうちょっとかっこいい名前は無かったの? って思っちゃうね。


 それとは別に、四人目の黒竜さんもちょっと気になっちゃう。

 だって、チャンピオン、ダンジョンマスター、魚爺は、どれも『〇〇を極めたプレイヤー』っていう感じに説明されてたんだけど、黒竜に関しては、実績や何をしているのかすらも不明、と大分謎に包まれている。


 よくわかってないのに四天王にするのは良くないと個人的に思うんだけど……まあ所詮はプレイヤーが勝手に付けた二つ名みたいなものだしね。

 それも他人のこと。これ以上気にしてもしょうがないと、四天王に関して考えるのはやめた。




◇ ◇ ◇




「中々だったな」

「そっすね。百戦錬磨アニキを負かすのはあいつが初めてっす」

「おいおい。俺に勝ったあいつを、あいつ呼ばわりするの良くねえぜ?」

「それ、アニキが言います?」

「あ? どういうことだ?」

「いや、アニキだって、あいつのことをあいつって呼んだじゃないすか」

「……はっ!?」

「……あ、アニキ……しっかりしてくれよぉ~……」


「と、ともかく! 次はあいつに負けねえよう、鍛え直すしかねえな!」




◇ ◇ ◇




◇『ピーマン嫌い』ダンジョンボス部屋◇




「ピイマーン、遊びに来たよー」

「ジニ、ちょうどよかった。三層のプレイヤーの排除ヨロ」

「ちょっ。早々にパシらないでよ」

「じゃあ、ご用件はなんじゃらほい」

「いや別に? ただ暇してたからさー」

「そう。じゃ、三層のプレイヤー相手に、暇潰ししてきたら?」

「き、君……相変わらずだね……」




「そう言えばさあ――」

「黒竜。のことでしょ」


「なーんだ。もう知ってたんだ」

「当然」

「それでも、君はプレイヤーにあまり興味を示さないと思ってたけど」

「まさか。――面白いプレイヤーが少ないだけ」

「ふーん。もしかしてぼくのことも、面白いって思ってくれてるの?」

「うん。見ていて滑稽こっけいだよ」


「…………」


「冗談冗談」

「あのさあ、君が言うと冗談に聞こえないんだよ。普通に傷ついたからね? 今の」

「その怒りを三層のプレイヤーにぶつけてくれたら、私、嬉しいなぁ」

「……はあ~。――はいはい、わかったよ」

「わー、やだー、イケメンー。キャーキャー」

「……ぼくは女なんだけど」

「僕っ子、乙」

「ロリに言われたくないなー」

「てめえもロリだろがおい」

「……さ、さあせん」




◇ ◇ ◇




◇伝説の泉◇




「……………………ッ! ほっ!」



「……………………」

「どうした、女神さんや。ほれ、デカいのが釣れたぞい」

「あの……ここは釣り糸ではなく、斧を落としてもらう場所だと何度も言いましたよね?」

「おおっ、また掛かったぞ」

「……………………」


「ほっ! ――おお、金色のマグロじゃ! 流石は伝説の泉じゃのう」

「だから。ここは釣り場ではなくて――」

「泉の女神さんや、マグロ料理食ってくかの?」

「……そんなので誤魔化されませんよ」

「そうか? 遠慮はせんでよいぞ?」


「……やっぱり頂きます……」


「ほほ。それでこそ腕の振るいがいがあるってもんじゃ」

「明日こそは、ちゃんと斧を落としてもらいますからね」

「さーて、明日は何を釣るかのぉ~」

「ちょっと! 話をちゃんと聞いてください!」

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