Episode 65「もしかして」
「おいおい……
「こりゃ観るしかねえだろ」
「これを観逃したとありゃぁ、人生損するレベルだろ」
「マジでそれな」
「私はカジキに5ゴールド!」
「っしゃあ、俺は7ゴールドだ!」
「俺はツユに10ゴールド賭けてやるぜ!」
「私もツユちゃんに賭ける!」
私はいつの間にか、コロシアムのような闘技場に転移させられていて、目の前には敵となるカジキさんがいる。
観客席もあり、しかも何故か満席状態になっていて……私は極度の緊張状態に陥っていた。
期待や応援といった言葉が、観客席からは無数にも投げられている。
それを、目にして、耳にして受けた私が、人生で味わったことのないほどの緊張をしてしまうのは何もおかしいことじゃないと思う。
おかしいことじゃないと断言できないのは、目の前に佇むカジキさんが、汗一滴流すどころか不気味なほどに余裕の笑みを浮かべているから。
それは強者の余裕か、それとも重ねに重ねた努力の賜物か。
どちらにせよ私は、そんな格上を相手に戦わないといけない。
たとえ『敵の攻撃を100%跳ね返す』という装備やスキルの効果で守られているとわかっていても、プレイヤー相手にその効果を発揮するのは、戦争の時を除けば今回が初めてということになる。だから、モンスターやボスを相手にする時のように、余裕ではいられない。
それに、なるべく『白龍鱗のショットガン』や『竜体化』は使わないようにしないとだし。
だって、今週の日曜日にはイベントだってあるし、手札はなるべく見せない方が良いと思うから。
とは言え、『竜体化』は既に、と言うか常に使用状態なんだけどね。
……あれ? そうだ、『竜体化』何故か既に使用状態になってる。
もしかしてこれ、決闘が開始しても解除されないパターン?
と、いうことは……
――【ツユ】――
・個体名「竜人・ポイズンドラゴン」
・LV「28」☆
▷MONEY「23,943,380」
▷CASINO「40,000,000」
――【STATUS】――
・HP「3900/3900」
・MP「3900/3900」
・SP「3900/3900」
・STR「2340」(50)
・VIT「2340」(50)
・INT「2340」(50)
・DEX「2340」(50)
・AGI「2340」(50)
・LUK「2340」(50)
――【WEAPON】――
▷右手「道化師のナイフ」(納刀中)
▷左手「道化師のナイフ」(納刀中)
――【ARMOR】――
▷頭「毒龍のヘルム」
▶手
▷右「毒龍のガントレット」
▷左「毒龍のガントレット」
▷胸「毒龍のアーマー」
▷腰「毒龍のスカート」
▷足「毒龍のブーツ」
▷その他
「毒龍のマント」
「毒龍の心臓」
――――――――
や、やっぱり、ステータスが高いままだ……!
こ、これなら、互角に戦えるかも……!?
私はほんの少しだけ勇気を得る。
それを表情で読み取ったのか、カジキさんはニッと口角を上げ、改めて開戦の意を上げた。
「どこからでもかかってこいっ!」
◇
戦闘開始から約一分、
「どこからでもかかってこい」。カジキさんはそう言ったけど、私は空気を読まず、自分からは仕掛けない。
斧や大剣などは攻撃速度が遅く、そのため、先制攻撃を加えようとしてもその予備動作の時点で勘ぐられてしまい、結果攻撃は空振りして大きな隙を作ってしまう。
それを理解しているのか、カジキさんは自分から攻撃を仕掛けようとはしてこない。
逆に私は、それをさせたいからこそ、カジキさんが動くのを待っている。
その結果で得られた情報は、カジキさんってもしかすると頭良いかもしれない。と、これだけ。
ギルドでポンコツムーブをかましたあの人とは別人みたいだ。
すると、カジキさんは顔をにやけさせながら、ゆっくりと口を開いた。
「お前、いつまでも動かねってことは、ビビってんか?」
まあ、正直に言ってしまえばそういう感情もあるけど……今の発言でそれは消えてしまったかもしれない。
今度は、私が口を開く。
「そう言うあなたこそ動いていないじゃないですか。ということは、ビビってるんですね?」
「ああん?」
お、おぉ。び、ビビってないよ、全然。
私が私に言い訳をしていると、カジキさんは突如納得したように話し始める。
「……確かにそうだな! 傍から見れば俺も動いてないじゃねえか!」
今度は私が悪態の一つや二つをつきたくなった。
「そうだな。お前から見れば俺はビビってるな」
い、いえ、一種の挑発と言いますか……。
本当はカジキさんがビビってるなんて少しも思ってないんだけど……。
「だがな……俺は少しもビビってないッ!」
「あ、はい……そ、そうですか……」
「そうだ! 俺にはな、動けない理由があるんだ!」
「そ、そうですか……」
「それはな。俺のスキル、『王者の佇まい』で、その場から動かない限りSTRとVITに1.5倍の補正があるからだ! なので俺は、ビビってなどいない!」
「そ、そうですか……」
今さらっと重大なことを言いましたけど……もしかしてこの人、やっぱり頭の方が弱かったり……?
いやいや、まさかそんなことはないでしょ。自分のスキルを、それもめちゃくちゃ強い能力のものをこうも簡単に話すとは思えないけど……
はっ! ま、まさか、スキルの効果は……嘘!?
私が嘘に騙されて、向かったところで返り討ちにするとか!?
いや、あえて事実を話すことで、私に深読みさせてそこを返り討ちに!?
もしくは、心理戦で私を動揺させて返り討ちに!?
ど、どれも返り討ちに合う未来しかない……!
それとも何も考えていないだけなのか……。
よ、読めない!
相手の行動が不可解なせいで、その意図が読めなさすぎる!
うーん、どうすれば……あ! そうだ。近距離での攻撃が危険になるなら、遠距離での攻撃をすれば良いんだよ!
とは言え、私が遠距離で使えるスキルや魔法は、『グランドランス』、『ポイズンブレス』、『ソーラービーム』、この三つしかない。
グランドランスは、私のINTじゃ大した威力を発揮しないし。
『ポイズンブレス』と『ソーラービーム』は、絵的にちょっとアレだし……。
ならばと考え付いたのは、絵的に大丈夫な従魔に任せれば良いじゃない!とね。
「出てきて、クロ!」
右手を前に出す。
すると、中指に嵌めた指輪が光って、クロが目の前にとび出す。
――はずなのに。どうしてか、それは起こらなかった。
「あれ? ――クロ、出てきてー」
もしかして、寝てる?
それともサボり?
「クロ―、出てきてー」
指輪に話し掛けても、反応は無し。
んー? どうしたんだろう……?
ま、まさか、こんな時にバグが発生したとか……
「――ん? ああ! ルール設定で、従魔を召喚不可能にしてたぜ! すまん、許してくれ」
私が色んな方法で指輪をいじっていると、カジキさんがそう言った。
なるほど、そんな設定もできるんだ。
まあそれは、ちゃんと確認していなかった私が悪いし、カジキさんに非は無いんだけど……
わざわざ謝るカジキさん。もしかして、優しかったりするのかな?
さっきから、イメージと行動が合わない人だなぁー……。
「始め直すか?」
「え? い、いえいえ、そこまでしなくても大丈夫です!」
この人絶対に優しいでしょ。今確信したよ。
それに、私もそろそろ、クロ無しで戦ってみたいと思ってたんだよね。
とは言っても、スキルは使うけどね。
それじゃあ、実験も含めて――
「『プラントフィーラ』!」
今度こそ、戦闘開始!
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