Episode 64「アニキ」
あれからも、特にスノウちゃんが、可愛い可愛いって言ってくるから、恥ずかしくなって逃げてきちゃった。
多分、私の容姿が変わったからだよね?
私の本当の姿じゃないと考えると、嬉しくないような、でもやっぱり嬉しいような。
複雑な気持ちになるね。
そんなことを考えてるから、私の顔はにやけて歪んでるかもしれない。
それを周りの目に気付かれないよう意識する。
周りの目。それは、ギルド内にいる百人を越えるプレイヤーの、私を見る目。
睨んだり、蔑んだり……声に出す人は少ないけれど、そういう目線を向けてくる人が沢山いる。
反対に、……自分で言うのもなんだけど……憧れや期待の目をする人たちも何十人といて。
まあその一つ一つをいちいち確認できるわけでも、するわけでもないけど。
だから私にとって、その百人分を越える数の目は、ある意味恐怖でしかないんだよね。
いっそのこと、話し掛けてくれた方が気が楽なんだけどなぁ……。
なんてことを考えながら、ダンジョン関連を受け付けを探していると、
「おい、お前」
わー、余計なこと考えてたら本当に話し掛けてきちゃったよ。
しかも、敵対な態度……。
「お前、最近調子に乗ってるらしいじゃねえか」
「……す、すみません」
こういうのはね、とりあえず謝っておくの。調子に乗った覚えはないけどさ……。
だってもし戦闘になれば、私勝ち目ないもん。
無敵装備を着てるけど、多分きっと負ける。
だって相手の男、めっちゃ体大きいし……めっちゃ大きな斧持ってるし……めっちゃ怖いし……。
「ちょ、アニキ。こいつ、ツユじゃねえっすよ!」
私が怯えていると、図体の大きい男の後ろから、取り巻きをイメージさせるやせ細った男がひょっこり出てきて、私はツユじゃないと言った。
いえ、私はツユですけども?
「んあ? 何を言って――」
助けてくれたのかは知らないけど、そんなことを信じるはずが――
「ほ、本当だ! ツユは髪がこんなに長くなかったはずだしな」
えぇぇぇぇぇええッ!?
し、信じちゃうの!? その人の言うこと、そんなあっさりと信じちゃうの!?
「? だが名前がツユだぞ?」
「え。あ、本当っすね」
え、何、どうゆうことですか?
私はツユじゃなくて、ツユでもある?
い、意味がわからない……。
「お前、どうなんだ? ツユなのか? ツユじゃないのか?」
「つ、ツユですけど」
ほらな!と叫ぶ大きい男。
「それはそうっすよ。だって名前がツユなんすから!」
「あ? どういうことだ?」
「名前が被ってるだけかもってことっすよ!」
「おお、なるほどな!」
私を置いて何やら言い合う二人。
なんだろうこの感じ、既視感が……。
「それなら質問を変えてやる。お前は、イベントで優勝したツユなのか?」
「そ、そうですけど……」
言っただろ!と叫ぶ大きい男。
そしてようやく言い返すことを止めた取り巻き。
それで結局、なんの用なのかな?
「よし、止めて悪かったな。もう行っていいぞ」
「あ、アニキ!?」
あ、アニキ!? 私、もう行っていいの!?
調子に乗ってるらしいじゃねえか、って声を掛けておいて、喧嘩を吹っ掛けるわけでもなく、アイテムを奪い取るわけでもなく!?
ほら、周りを見てみればみんな驚いてるよ!
「あぁ、そうだったそうだった」
良かった。どうやら取り巻きさんが説得してくれたらしい。
いや、何も良くはないけど、この人のイメージが壊れかけてたしね。
と言うか取り巻きさん、あなた発言力高いですね? こういうのって取り巻きさんは隣でじっとしながらアニキに相槌を打つものじゃないの? そうレイミーに教わったけど……。
「お前、オレと決闘をしろ!」
はい?
「えっと……決闘って、決闘ですか?」
「ああ、決闘だ!」
決闘ってなんだろう? 闘うのかな? そういうシステムがあったことは、なんとなく覚えてるけど……。
まあ闘うだけなら別に良いんだけど……
「わ、わかりました」
私がそう返事をした途端、周りのプレイヤーが揃って歓声を上げた。
「おい、カジキが決闘をするってよ!」
「しかも相手はイベント一位のツユだ!」
「こりゃすげー」
「俺、フレンド呼んでくるわ」
「俺も俺も」
え、何!? ど、どうしたんだろ?
決闘ってそんなに盛り上がるイベントだったの?
わ、私、今からでもヘルプを読んだ方が良いかな? いや読もう。
えっと、これでもないあれでもない。――あ、あった!
『決闘』。きっとこれだ。
「よし、今から始めるぞ。オレが申請してやるから、お前はちょっと待ってろ」
あ、やばい。今から始めるだって。
急いで読まないと……!
えーっと、何々……?
決闘とはプレイヤー同士の一対一の闘いで、アイテムやお金を賭けたりすることも可能。
観客も導入できて、決闘によるランキングシステムもある。
決闘で相手プレイヤーを倒しても経験値は手に入らない。
うーん、特に気を付けないといけないことは無さそうだけど……。
《『カジキ』から決闘の申請があります。決闘を行いますか?》
これを『YES』で良いのかな?
《『カジキ』との決闘まで残り100秒》
あら、もう始まっちゃった。
決闘まで残り100秒の内に、色々と準備しないといけない、と。
まあ準備と言っても、急なできごとに心を落ち着かせることしかできないけど……。
――ん? これは、カジキさんのプレイヤー情報?
どうやら、主に決闘でのカジキさんの実績などを見れるらしい。
――【カジキ】――
・称号「決闘の覇者」
・決闘数「445」
・勝利数「445」
・ランキング「1位」
――――――――
やっぱり決闘を辞退したいです。
いやいやだって!
さっきの取り巻き(?)さんとのやりとりを見れば、「あの人ポンコツだ」みたいに思っちゃうじゃん?
体格が良いから物怖じはしちゃったけど、まさかこんなに強いなんて思わなかったよぉ~……。
決闘数445。しかも全勝。加えてランキング一位。
それに比べて、私の実績なんてこんなだよ?
――【ツユ】――
・称号「なし」
・決闘数「0」
・勝利数「0」
・ランキング「該当なし」
――――――――
まあ最初はみんな、この状態からスタートするんだろうけど。
それでもやっぱり、実力が違い過ぎると言うか……
《決闘を開始します》
え゛ッ!?
あ、あれ!? もう100秒経っちゃってる!?
「っしゃあぁぁぁああ! オレを楽しませてくれよ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます