Episode 58「罪悪感」

 やってしまった感が半端ないよ。

 でも、ほら、ドラコちゃんは別の個体になったわけで。

 すると、運営側が対処しなくても済むわけで。……多分。

 と、その時、……一通のメールが……



――『お手数ですが』――

 先程の件は了承しましたが、突如先のシステムに新たなバグが発生しました。

 消去はせず、それごと本システムに組み込むよう対処中ですのでご安心ください。

 ですが、これ以上同一のシステムによる不具合が発生してしまえば、大きなエラーへと発展してしまう恐れがあります。

 お手数ですが、暫くの間ログアウトをしていただくか、動かないでいただけると幸いです。

 10分程で終わりますので、お待ちください。

 度重なるご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ありません。


《ドラゴントウガラシ×10》

――――――――


――『本当にすみません!』――

 こちらこs、おご迷惑をおかけして本当にすみません。

――――――――



 もう、ほんと、ごめんなさい……。

 この『ドラゴントウガラシ』は、ドラコちゃんに与えて大人しくさせておいてってことですね? 確かドラコちゃん、トウガラシが好物でしたもんね。はい、わかりました! 共々大人しくしておきます!

 それと、送信したメッセージの編集って、どうやってするんですか?




◇ ◇ ◇




「うわーん、仕事が終わんねー!」

「俺、この仕事が終わったら、家に帰って寝るんだ」


「……ふふ」


「「あ゛?」」

「え、な、何? 怖いんだけど」


「いっつも無愛想なお前が、急に微笑んだら誰だってこんな反応にもなるさ」

「人のことなんだと思ってるの」

「で、どうしたんだ? まさか彼氏と連絡でも――」

「なんでそうなるのよ! ただ、可愛いなって思っただけ!」


「「やっぱり彼氏が!」」

「違うつってんでしょ!」


「じゃあなんだ? 仕事中に猫の動画でも見てんのか?」

「おい、それは許さんぞ」

「違うって……。さっき、ツユちゃんにメール送ったでしょ?」

「ああ」

「そのお客様のせいで、我々は今、大忙しなんだが。そのどこに微笑む理由が?」

「ツユちゃんから返事がきたんだけど、誤字ってて。めっちゃ焦ってるなーって思うと、可愛く思えただけ」

「はあ? 中身おじさんかもしれないのにか?」

「それはないぞ。このゲーム、性別の誤魔化しができないからな」

「あぁ、そういえばそうだった。じゃあ、中身はお前の好みの子供じゃないかもしれないのにか?」

「いや、顔立ちは完全に高校生くらいだから」

「え、何、ちょっとこの女、怖いんですけど」

「今の発言、高校生が好みって認めたよな!? 管理者権限で個人情報見るとかやめろよ!? 連帯責任取らされるのは嫌だからな!」

「だから。人をなんだと思ってるの……。喋ってないで、さっさっと仕事片づける!」

「お前も手伝ってくれたって良いんだぞ?」

「そうだそうだ」

「私はツユちゃんとのメールで忙しいから」


「「仕事しろ!」」




◇ ◇ ◇




「あれ? 外部からの干渉があるドラ……? とりあえず弾いて――」

「わぁー! ダメダメ、ちゃんと干渉を受けて!」


 システムによる干渉……ということは運営さんが対処してくれているってことだよね。 

 それを弾くってことは、ドラコちゃんに自分を守るシステムが搭載されているんだと思う。

 でもそれをされたら当然まずい。運営さんの仕事が増えちゃう。


「なんでドラ?」

「え、えっと、そ、それはー……」


 こういう時こそ、雑談に花を咲かせていないで、運営さんに質問すれば良いんだ。



――――――――

 ツユさんは、SNSとかはやっていないんですか?

――――――――

 はい

――――――――

 珍しいですね。

 いまどきの若い学生さんたちはみんなやってますよ。

――――――――

 世界に発信したいと思う何かが、私には無いんです。

――――――――

 世界に発信……確かに間違ってはいませんけど。

――――――――

 その、急なんですけど。

 ドラコちゃんが外部からの干渉を弾くと言い出して……どうすれば良いですか?

――――――――

 システムから自己防衛するシステムですね。それをこちらで解除すれば問題ありません。

 数十秒で終わりますが、念のためにトウガラシを与えて大人しくさせておいてください。

――――――――

 わかりました。

 ご迷惑をおかけします……。

――――――――

 大丈夫ですよー。

――――――――



 なるほど、数十秒間を耐えれば良いと……。

 

「ドラコちゃん」

「どうしたドラ?」

「さっきの外部からの干渉は、ドラコちゃんの病気を消すために頑張ってるんだよ。だから、ジッとして我慢しようね」


 我ながら下手な言い訳だと思う。

 これで失敗したら『ドラゴントウガラシ』をチラつかせて強行突破するしかない!


「そういうことなら、わかったドラ! ちゃんと我慢して、病気をやっつけるドラ!」


 な、なんと純粋な……。

 ……こ、心が痛いよ。


「え、えらいね~……。じゃあご褒美に、トウガラシをあげる」

「トウガラシドラ! やったドラ!」


 うぅ……子供をお菓子で釣ってる気分……。



――――――――

 ドラコちゃんのシステム解除は完了しましたよ。

――――――――

 ありがとうございます!

――――――――



 ふぅ。ドラコちゃんを止めることはできたみたい。

 これでまた、のんびりできる。

 運営さんには申し訳ないけど。


 ん? でも、さっきまでフレンドリーに話していた相手も、運営さんなんだよね?

 仕事は大丈夫なのかな……。



――――――――

 話の続きです。

 ツユさんなら、SNSで絶対フォロワーさん増えますよ~!

――――――――



 多分大丈夫……ですよね?







 運営さんから、SNSのことを色々聞いている途中で、メンテナンスが終わったと報告され、ようやくスキル確認の続きができる。

 メッセージ相手の運営さんは、流石に仕事に関係のないやりとりはまずいので。と言って、仕事に戻った。


 SNSの話は、仕事に関係あるのかな? なんて疑問は、持たないようにした。




◇ ◇ ◇




――『吸収進化』――

・対象者のMP・SP300消費

――【EFFECT】――

・対象者は近くの地面の物質を吸収し、物質に適した進化を行う

・HPが0になるか『吸収進化解除』で吸収進化が解除される

――――――――



 私は懲りない性格かもしれない。

 正確には、ドラコちゃんが、なのかもしないけど。

 ドラコちゃんの吸収進化は解除した。けど今度は、


 「お兄ちゃんもやってみたいって言ってるドラ!」って言いだした。


 お兄ちゃんとは、クロのことらしい。そして、クロの言葉がわかるのだとか。

 それは私としても嬉しいんだけど……これでクロも進化させたら、また運営さんが苦労するんじゃ……。


 ん? いやでも、さっきはイレギュラーなドラコちゃんに使ったから、バグやらエラーやらが発生したわけで、本来の従魔であるクロに使うのは、何も問題は無い気がする。

 それに、この『吸収進化』というスキル自体、他者に使うことを含めて創られてるよね?

 それなら、クロに使っても大丈夫! 多分!

 クロも使いたいって言ってるらしいし。

 それなら、叶えてあげるのが主人である私の役目!

 

「『吸収進化』」



 




 やらなきゃ良かった。なんて後悔はしない。しないよ。してはいけないんだよ。

 クロは喜んで、他の三匹もはしゃいで、これで後悔するのは主人失格だよ。

 それに、運営さんからのメッセージがこないってことは、バグは発生していないってこと。

 それなら、どこに後悔する要素があるんだろう。いや、無いね。うん、無い!

 例え、クロの翼が増えて、二足立ちになって、ステータスが高くなって、何もかもが増えたり大きくなったとしても、そのどこにも後悔なんてしちゃいけない。


 例え、体の大きさが、毒鱗龍よりも大きくなっていようとも……。

 例え、ドラコちゃんみたいに、日本語を喋っていようとも……。



「ご主人様。こうしてお話しできることを心から嬉しく思います」



 それが、吸収進化して『聖竜人・アーマードラゴン』になったクロが、私に交わした初めての挨拶だった。






――【クロ】――

・個体名「聖竜人・アーマードラゴン」

・LV「24」☆

――【STATUS】――

・HP「7400/7400」

・MP「7400/7400」

・SP「7400/7400」

・STR「3700」

・VIT「5180」

・INT「3700」

・DEX「3700」

・AGI「3700」

・LUK「3700」

――――――――

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