Episode 59「聖竜人」

「ご主人様。こうしてお話しできることを心から嬉しく思います」


 クロが進化した。そこまではわかる。

 体型は……大きさを差し引いても、四足立ちから二足立ちになって、あとスラっとしていて……うん、めっちゃ変わってるね。


 影も形も無い。ってことはない。

 瞳の色が同じだったり、鱗に若干の黒色が混じっていたりと。

 当然、変化した部分の方が多いけど。

 たとえば他にも……背中に翼が生えてるのは変わらずなんだけど、腕と横腹にも、それっぽいのがある。翼膜かな?

 肌も、全体的に白っぽくなってるし。


 そんな変化に対する驚きも、クロに話し掛けられたことで一瞬で頭から消えちゃったけど。


「一応、訊いておくけど……」

「なんなりと」

「クロ、なんだよね?」

「驚かれるのも無理はありませんが、正真正銘、ご主人様の従魔、クロでございます」

「は、はい……」


 話してみて思ったこと。

 クロって、もうちょっと人懐っこい感じかと思ってた。

 私がクロの顎とか翼を撫でると、いっぱい甘えてくるから……。

 それがまさか、ご主人様なんて呼び方をするなんて。

 ちなみに、声は男性。


 

 ……………………。



 き、気まずい。

 まあ、そう思ってるのは私だけで、クロはウキウキしてる感じが傍からも見て取れる。

 そういうところは、あまり変わってないのかもしれない。


「えっと、とりあえず解除は――」


 しない方が良いよね、って言おうとしたんだけど、それを「その!」とクロが遮って話す。


「勝手ながら申し訳ありませんが、ご主人様のお力で折角、聖竜、それも竜人となれたのです。その際入手したスキルで人型にだってなれるのですから、どうかこのままでいさせていただけないでしょうか。ご迷惑はおかけしません」


 聖竜とか竜人とかはよくわからないけど、クロが言うには、とってもレアな存在らしい。

 まあそうでしょうね。こんな竜が何匹もいたら大勢が困惑すること間違いなしだし。生み出したの、私だけど……。

 それと、すごくすごーくさらっと言うから、すぐには反応できなかったんだけど、


「ちょっと待って。人型になれるって言った?」


 そんな馬鹿な。いや、きっと聞き間違いだよね。そうだよね? そうであってほしいです!


「はい。新たに取得した『竜人』というスキルで、人型になることが可能です。これもご主人様のお力の賜物です。このクロ、命運尽きるまでご主人様に従うことを誓わせていただきます」


 最後の方は何を言っているのかよくわからなかったけれど、どうやら確定したことが一つ。


 クロ、人間になれるらしい。



 




 白い肌。整った顔立ち。スタイルの良い体に纏う黒い鎧。腰まで伸びた黒髪。竜型と変わらない青色の瞳。180はある高身長。そして、背中に生えた大きな翼。


 これぞ美男。めっちゃカッコいい。


 ガゴやプラフィーも感激している様子で、ドラコちゃんに至っては、肩に乗ったり頭に乗ったり……その光景は、とても癒される。でも、ほどほどにね?


「ご主人様。いかがでしょうか?」


 困惑しつつもうっとり眺めていると、クロが「いかがでしょうか?」そう質問してきた。

 そう言われても……


「カッコいい、と思うよ」


 カッコいいのは本当だけど、面と向かって言うとなると、恥ずかしくなって歯切れが悪くなる。

 それでも、クロは嬉しかったみたい。めっちゃ顔に出てる。なんか可愛いなぁ……。 

 またもうっとりしていると、クロは何かを思い出したように、ハッとする。

 

「ご主人様。スキル確認は終わられたのですか?」

「え? あ、あぁ、スキル確認ね。そう言えばまだ一つだけ残ってた気がする」

「それは申し訳ありません。私がご主人様のお時間を取らせてしまい――」

「いいって、いいって! こうやって会話ができるのは、……私にとっても嬉しいから……。そ、それに、人の姿だったら、街中でも一緒にいれるでしょ?」


 うーん、恥ずい!


「問題があるとすれば……ご主人様って言うの、やめてほしいかな」

「それは……何故?」

「何故って言われても……。身内からご主人様って呼ばれるのは流石に……」

「そういうことでしたら、了解しました。ツユ様」

「うん、そのツユ様って言うのも、やめてもらえると……」

「? ではどのようにお呼びすれば……?」


「ツユとか」


 めっちゃ嫌そうな顔になるクロ。

 流石は人。表情が豊かだね。


「他には何かないでしょうか? 呼び捨てはとても……」

「う、うーん……」


「でしたら、あるじではどうでしょう?」


「主……まあ、様付けよりは良いね。わかった、これからは主って呼んで」

「はっ。ありがたき幸せ」

「あと、そのかしこまった口調もどうにかならない? ほら、ドラコちゃんみたいに」

「ドラ?」

「……そ、それは……」


 あ、うん、無理っぽい。

 

「わかった。今のままで良いよ。でも、言いたいことがあったら、遠慮せずに言っていいからね?」

「かしこまりました」


 もっと賑やかになりそうだなぁ……。

 レイミーや、ミカ、ミズキ辺りがクロを見たら、目を輝かせて抱き着きそう……。


 そんなことを考えながら、私は忘れかけていた最後のスキルを確認して、とても憂鬱な気分になった。






――【クロ】――

・個体名「聖竜人・アーマードラゴン」

・LV「24」☆

――【STATUS】――

・HP「7400/7400」

・MP「7400/7400」

・SP「7400/7400」

・STR「3700」

・VIT「5180」

・INT「3700」

・DEX「3700」

・AGI「3700」

・LUK「3700」

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