Episode 52「関係」

 あの後、二人でいろんなお店を回った。

 

 武器屋や防具屋、アクセサリーショップや和菓子屋さんとかもあって、二層より賑やかな理由がわかった気がする。


 それとどれも品揃えが凄かった。


 スキルショップと同じく、あまりに高品質なアイテムとかは少なかったんだけど、種類がとても多い。


 あと、和菓子屋さんですらいむ餅っていうのを食べたんだけど、これがめちゃくちゃ美味しかった。わらび餅みたいな感じで、きなこや黒蜜を掛けて食べるんだけど、また来たくなるくらいには絶品だった。


 味覚が再現されるって良いね、自分で料理でも始めてみようかと思うくらいだよ。


 でも、お腹が膨れないから、食べすぎ注意だね。太りはしないから、そこは安心だけど。


 


◇ ◇ ◇




 トートン村を満喫した後、揃ってログアウトをし、昼食を食べた。


 ゲームでもお腹の満腹感とか再現されないかぁ、そっちの方がもっと食事を楽しめそうだけど――なんて考えながら、食事を終えた私は、身支度をして家を出た。







 指定された駅前の駐車場に黒塗りのワゴン車があって、指定された車のナンバーと一致していたから、ドアに体重を預けてスマホをいじっていた社員(?)の女性に暗号を伝える。


 後部座席に座らされて、ワゴン車は動き出した。







 めっちゃ気まずかった。そう思ってるのは私だけかもしれないけど、とりあえずニューホープ本社には無事到着。


 なんか実感が湧かないまま、車を運転していた女性に私は連れられて、車が入ってしまいそうなくらい広いエレベーターで上昇、そしてとある部屋に辿り着いた。

 

 今はその部屋で、ソファーに座って待たされている。


 目の前の低めの長机にはオレンジジュースの入ったコップが置かれていて、部屋で一人、それを口につける。


 ほんのちょっとだけ飲んで、一応は落ち着いてコップを置く。


 こういう面会(?)とかの待たされる時間って、部屋には自分しかいないのにも関わらずやけに緊張するなぁ。話している最中よりもこっち時間の方が、そわそわしてしまう。


 

 落ち着かなく部屋を見回していると、間も無くして部屋の扉が開かれて、40代くらいの男性が顔を出した。



「やあ、こんにちは。君がツユさんだね」


 

 なんかいろんな書類を脇に抱えながら、対面したソファーによっこいせと腰を掛ける男性。


 服装は……きちんとはしてるんだけど、なんか私服っぽいラフな格好で、気紛れっぽさが出てる。ちょっと前に連絡した時に出掛けてるとか言われたから、実際に気紛れなのかも。


 そんな人に、私は立ち上がって会釈する。



「対面では初めましてかな。僕はニューホープ社社長の金津子かなつね 一茶いっさだ」



 金津子さんは、続けて自己紹介しようとする私を手で制し、着席を促す。



「今回は、君をFantasia Land Onlineプレイヤーのツユとしてここにお呼びした。なので個人情報を明かす必要はない」


「はぁ……」



 まあなんとなく言いたいことはわかった。


 

「では早速、今回の事と、講じた対策についての説明。それと、依頼をいくつかしていきたいと思う」


「依頼、ですか?」


「ああ。まあ順に説明するので、それは最後としよう」



 金津子さんは書類をバサっと机に置き、それを広げる。




 私はもう、ただのゲームプレイヤーではなくなりつつあった。






◇ ◇ ◇




「どうする、A?」


「どうするも何も、俺らができることなんてねぇだろ」


「今回ばかりは同感ね。数十分で一万以上のプレイヤーを倒したチーター相手に、私たちができることなんて無いわ」


「はぁ? お前まだ言ってんのかよ。あいつはチートなんて使ってねぇっての!」


「理解に苦しむわ。あの状況を見ていなかったの?」


「見てたわ! で、その一万以上のプレイヤーが運営に報告して、それでもツユはBANされてねぇ。ってことはチートなんて使ってねぇってことだろ! 理解に苦しむ? こっちのセリフだ」


「まぁ待て、二人とも。お互いの意見を尊重して――」


「その必要はないわ」


「ふんっ。それこそ同感だな」


「……………………」

「……………………」


「いいわ。私は勝手に行動するから。邪魔しないでちょうだいね」


「おい、まさかツユに手を出す気じゃねぇだろうなぁ?」


「ちょっと二人とも――」


「あなたに話す義理なんて無いわ」


「良いぜ。お前がその気なら相手してやるよ」


「フ。勝てないくせ」


「あ? どの口が言ってんだよ」



「はあ?」

「ああ?」


「……………………」







「はぁ……」


「ふふ、リーダーも大変だね」


「ジニか。いたなら助けてくれても良かっただろう?」


「えぇ~。やだよ、めんどくさい。――それに、面白いし」


「あのなぁ――」


「――まぁでも、今回ばかりは反省してるよ。まさかあそこまでになるとは思わなかったんだもん」


「……………………」


「考えてみれば、初めっから馬が合ってなかったもんね、あの二人」


「……だな」


「喧嘩するほど仲が良いなんてことも、今更無いだろうし。そろそろ、二人のどっちかが抜けるかもね」


「……否定できないんだから、辛いよ。――まったく。ツユには参ってばっかりだ」


「それ、Aの前では言ったらダメだからね?」


「はは、わかってるさ……」




「にしても……確かにあの戦争は凄かった」


「へぇ。君がそんなことを言うなんて、珍しいじゃないか」


「珍しいも何も、あんなの見せられて黙ってるやつの方が珍しいよ。というか、そんなのいないでしょ」


「間違いないな」


「で、結局どうするの? 来週でしょ、イベント」


「今はまだ、情報を待つしかないよ」


「二人のことは放置?」


「それは……どうするのが良いと思う?」


「えー? こういうのってリーダーの仕事でしょー?」


「……そう、だな」


「ちょ、うそうそ、そんなあからさまにガッカリしないでよ」


「……ということは、何か策があるのか?」


「いや、何も無いけど……」


「君なぁ……」


「ま、まあ、解決するかはわかんないけど……」


「けど?」


「ツユに訊いてみるってのは?」


「ツユ? ……えっと……? ツユって……あのツユか?」


「そうそう、あのツユ。マリンちゃんの方はともかく、Aとはフレンドなんでしょ? それなら、Aに対して何かアドバイスをしてもらうとか!」


「いやぁ、それは流石に」


「えぇ? 良い案だと思ったんだけどなぁ」


「まぁ、良いとは思うよ」


「ん?」


「だけど。それだと、Aがこのギルドを出て行って、ツユの方に行くかもしれないじゃないか。もしそうなってしまえば、本末転倒だよ」


「それはどうかな?」


「え?」


「どうせここにいたって、Aとマリンちゃんはギスギスしたままだよ。ならさぁ、本人たちが行きたいところに行ったところで、誰にも文句は言えないんじゃないかな」


「君、たまに真面目なことを言うよな」


「なんだとぉ! ぼくだって真面目ちゃんなんだぞ!」


「……まぁでも、その通りなんだろうな」


「そうだよそうだよ。ぼくもこのギルドやめようと思ってるし」


「そうか、君も……――え?」


「安心してよ。空気が悪いからとか、リーダーがショボいからとか、そんな理由じゃなから」


「何気にディスるなよ……。……本当に抜けるのか?」


「抜けるよ。――大丈夫大丈夫、フレンド解除はしないから」


「えっと、何か不満があるなら……」


「ないないないない! ぼくはただ、好きなところに行きたいってだけ」


「そうか。……はは、君らしいよ。因みに、ピイマンには伝えてあるのか?」


「まあね。大して反対もされなかったよ。って言っても、いつでも会えるしね」


「本当に君らしい。それじゃあ、これからもよろしく、と言った方が良いのかな?」


「んー? まぁ、そだね。いっても、今までと代わんないしね。――ただ、マリンちゃんには恨まれるかも」


「恨まれる? 何かしたのか?」


「いやだってさぁ、マリンちゃん、ツユのこと目の敵にしてるじゃん? さっきもだけど、ことあるごとにチートだのチーターだのって」


「……そ、それはもしかして、君が移動するギルドっていうのは……」


「ぬふふ。これからもよろしくねっ」




「はあぁぁ……勘弁してほしいよ……」


「ぬふっ。たーのしみだなぁー」




◇ ◇ ◇

 



◇『TFP』ギルドチャット◇




剣士

『やばかった』


底辺

『同意』


トット

『流石ツユ様』


no name

『ツユ様バンザイ』


ターフ

『あれは、なんというか……魔王だな』


Re

『フィールドボスなんて目じゃない……』


魔法少女ロッドちゃん

『流石に膝が笑ったわねぇ』


魔法少女ロッドちゃんの下部

『ですね』


ターフ

『日間ランキング確認してみたら案の定、がブッチギリの一位だった』


ポリさん

『おい。やばいぞ』


Re

『やっちゃったw』


剣士

『安心しろ。遺品は俺が回収しておく』


ターフ

『え、何? どゆこと』


ターフ

『あ』


底辺

『w』


ターフ

『違うんだよ。誤字っただけ』


トット

『おい』


no name

『おい』


魔法少女ロッドちゃん

『わたしぃ、もう落ちるねぇ』


魔法少女ロッドちゃんの下部

『お疲れ様です』


底辺

『乙です』


Re

『頑張ってw』


ポリさん

『緊急要請がきた。落ちる』


剣士

『俺も落ち』


トット

『何ツユ様を呼び捨てんじゃコラ』


no name

『万死に値する』


ターフ

『すいませんでした! ごめんなさい、許してください、これは違うんです! 誤字っただけなんです!』

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