五章 強さを求めて(スキル編)

Episode 53「ファンレター」

 昨日、FLOを開発した会社、ニューホープ社に行ってきて、お詫びだとかでいくつかのアイテムを頂いた。



『ドラコ人形』

『(UR)世界樹の種』

『(UR)白の聖珠』

『(UR)黒の聖珠』

『FLO宣伝大使のワッペン』



 うん、最初は、お気持ちだけで結構です。って言って断ろうとしたんだけどね、社長があまりにもぐいぐい攻めてくるから、それなら、と受け取っちゃった。


 いや、それはまだ良かったんだけど……


 こ、この『FLO宣伝大使のワッペン』ってなんですか。


 嘘です、本当は自分でもわかってるんです。


 昨日の社長との話の中に、『君を正式に、FLO宣伝大使として任命したい』、こんな言葉が混じってました。


 勿論、最初はNGしたよ?


 だけど、『FLOの人気プレイヤーの君がいればこれからも我社の成就は間違いなしだ』とか、『なに、心配することは無い、君はゲームをプレイするだけで良い』とか。


 最終的には、私のせいで運営が忙しくなりすぎて……みたいなことを遠回しに言ってきて。


 あぁ、大人ってずるい。そう思った瞬間だよ。


 結局、断り切れなくて頷いちゃったんだけど……こんなワッペンまで送られるとか聞いてない。


 というか、付けろってこと?


 えぇー……それはちょっと……(ダサいし)。


 あ、でも、付けろとは言われてないから、多分大丈夫でしょ。


 私は普通にゲームをプレイするだけで良いって言われたしね。



 それはそれとして、他にも厄介な案件を持ち掛けられたことは忘れない。



 例えば、FLOのPVに、イベントでの私の映像を使わせくれ、とか。


 例えば、ダンジョンを造ってくれ、とか。


 例えば、FLOの攻略組になってくれ、とか。



 ひとつめは……まだ大丈夫。私の映像が使われても、何も減らないしね。それに、お金を貰えるらしいし……。


 ふたつめは……これもまだ大丈夫。どうせいつかは造ろうと思っていたし、急がなくてもいいって言われたから。


 みっつめ……これは流石に却下させてもらった。


 だって、普通にプレイするだけで良いって言われたんだしさ……。


 そもそも、私は娯楽の為にFLOを遊んでる。それで行動を強制されるのは嫌。って言ったら引いてくれた。本当に、こればかりは、私は引けなかったからね。



 ともかく、そんなことがあっても、私はいつも通り、やりたいようにゲームをするだけ。


 運営さんには申し訳ないけど。……お仕事、頑張ってください。




◇ ◇ ◇




◇『ツユ事務所』◇




「どうしたんですか?」


「ツユちゃん! 待っていたわ!」

「ツユ~、これどうにかして~」



 三層の街ですらいむ餅を食べていたら、フレアさんからメールが届いて、私は急ぎ事務所に転移したきた。


 私、何気に事務所に入るのは初めてだ。


 新鮮さを感じていると、奥の方から、フレアさんとレイミーの呻く声が聞こえる。



「どうしたんです――うわぁ……」



 私が足を踏み入れたその部屋は、事前に、ファン(?)からの贈り物が届く場所にしていた。


 その贈り物の数々が、山になるほど積まれている。



「これ、どうしたんですか?」


「どうしたも何も、全部ツユ宛だよ!」

「まさかこんなになるとは思っていなかったわ」


 

 二人は愚痴って、すると顔を見合わせて、



「「手伝って!」」


「は、はい!」



 地獄の作業が始まった。







「ふぃ~。やっと片付いたよぉ~……」

「ツユちゃん、残りの整理は……任せた、わよ……」



 作業は、封を開けて、至急家具屋さんから買ってきた大量の『収納ボックス』に納入する。


 それだけの作業に三人掛かりで一時間以上掛かるほど、贈り物の数が多かった。ありがたいことなんだけどね……。


 で、後はアイテムの種類ごとにボックスを分けて整理をすれば完了――って、フレアさんが気絶してる! 


 ちょっと、レイミーも寝ちゃってるし……。



 ……………………。



 これ、私一人でやるの!?







――【INVENTORY】――

・『レターカード』×738

・『(R)スキル巻物』×3

・『蝶紋の金貨』×67

・『虎紋の金貨』×18

・『龍紋の金貨』×12

・『(UR)緑の聖珠』×24

・『(UR)赤の聖珠』×6

・『(UR)青の聖珠』×4

・『(SR)赤果実の種』×37

・『(SSR)魔樹の種』×2

・『(SSR)金果実の種』×3

・『(LR)精霊剣〈雪氷〉』×2

(etc)

――――――――




 嬉しい。嬉しいんだけど……!


 くっ、……なんて反応すれば良いのかがわからないよ。


 金貨や聖珠、種や、LRの武器まで……。


 それと、700以上のレターカード。


 本当に、嬉しいんです!


 でも、でもっ――こんなに読み切れないよぉ……。


 

「これは……なんとも言えないわね……」

「だねぇ……」


 いつの間にか起きた二人も、ボックスに表示されたインベントリを見つめて、複雑な表情をしている。


 というかこのタイミングで起きるんですか!? 絶対に寝たふりでしたよね!?


 そんな悲しさも、今はどうでも良く思えてくる。



「でも……レターカードだけでも、ちゃんと読んだ方が良いですよね……」


「「……………………」」



 私の呟きに、二人は肯定も、否定もせず、ただただ沈黙した。

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