Episode 44「NPC」

 岩山の山道、または岩山を繋いで造られたという設定の洞窟、このどちらかを通ってとある村まで行き、そこの村長のクエストを達成すると、第三層へと続くイベントダンジョンへの道が開かれる。




◇山岳地帯◇




 山道、洞窟、私とフレアさんはそのどちらを通るでもなく、クロにまたがって上空を飛んでいた。



「今更だけどこれ、色々とまずいわよね」



 フレアさんは道中、じゃなくて空中? でそんなことを呟いていたけど、何故か声色に不安の要素は無かった。もう慣れちゃったらしい。


 それはそれで悲しいんだけど……。


 

 そうこうしていると、あっと言う間に村に辿り着いた。



「ここが……村……」

「全く変わってないわねぇ……」



 そこは、比較的小さめな村で、家らしき小屋が数軒建っているだけで賑わってる感じは全く無い。


 そう言えば、フレアさんはレイミーと一緒にここを攻略してたんだっけ。



「村長のクエストを受ければ良いんですよね? 家に居るかなぁ」


「村長さんはあの家に住んでいるはずよ。見てみましょう」



 フレアさんが指差すのは、少し大きめの建造物。


 早速尋ねてみることに。



 ドアをノックする。



「ごめんくださ~い。あの~、イベントダンジョンへの道? を開いてくださ~い」


「ちょっとツユちゃん、ド直球過ぎるわよ!」


「ご、ごめんなさい……」



 だってわからないんだもん……。



「う……誰じゃ……? 冒険者か……?」



 中から、おじいさんの声がする。声からして、随分と元気が無さそう。



「えっと、多分冒険者であってますよ?」


「なんでツユちゃんが疑問形なのよ……」



 ふふふ、私ってコミュ力無かったんだね。まさかゲームで自覚するとは。


 あ! ドアが開いたよ。



「そうかい。んまぁ、中に入りな」


「お、お邪魔します」

「どうも~」







 おじいさん、もとい村長のターミルさんは、フレアさんと面識があったおかげかすんなりと私を歓迎してくれた。


 だけどクエストはちゃんと実行しないといけないようで、その内容が重々しかった。



「この子、わしの孫娘のミーラを救ってくれんかの」



 苦しそうにうなされ寝ている少女の頭を撫でるターミルさん。


 聞けば、少女はまだ10歳らしい。


 早くに母親を失って、9歳で病に掛かり、父親は薬を探しに行くとかでずっと留守中。この子の面倒はターミルさんがしているらしい。


  

 だけどこれは、治ることがないらしい。


 フレアさんから聞けば、ポーションを数個飲ませれば体力が回復して、クエストもクリアしたことになる。だけどそれだと、次に来たプレイヤーがクエストを受けずにストーリーダンジョンに挑める為、設定的に完全に回復することは無く、病原は普通のポーションでは取り除けないんだとか。


 NPCは知能を持たない。それはひと昔前までの常識だったらしい。


 だけどFLOのような技術に優れたゲームでは人工知能システムが導入され始め、よりリアルな会話等を楽しめるようになった。


 それと裏腹に、知能を持ったNPCには当然感情もある。苦しい、悲しい、痛いといった感情も。


 それなのに、この少女、ミーラのように扱ってしまうのはいささかどうなのかという問題にも発展したことがある程に、難しいことらしい。



 しかし、それは反対の意味にも取れる。


 彼女が人なら、この病を治すことができるかもしれないということ。


 例えば、ポーションは無理でも、それ以上の効果を持つアイテムや、スキル、魔法。


 そこで私は思いついた。


 スキルを彼女に使うんじゃなく、彼女にスキルを使ってもらおうと。



「フレアさん、毒を無効するスキル巻物を買いに行きましょう!」


「えぇ!? ……あぁでも、確かにそれなら、この子が助かる可能性はあるわね。でもね、ツユちゃんも前にスキルのお店に行った時、耐性はあっても無効は無かったでしょう? たとえあったとしても、一瞬で他のプレイヤーに買われて――――いや、できる。入手できるわよツユちゃん!」


「ほ、本当ですか!?」


「ツユちゃんがボスからドロップさせた宝箱の中身は、これまでそのボスの能力に近いものが多かったわよね。それでね、第山岳地帯の、位置的にはここよりもっと東の山の中に、毒の沼があるのよ。そこに住むんでいるフィールドボス、毒鱗龍を倒せば――」


「毒無効のスキルが手に入る!」


「えぇ。――だけど、これは確定じゃないわ。もしかしたらそんなスキルは無くて、時間を無駄にしちゃうかもしれない。それでもやる?」


「はい、やります! NPCだとしても、こんな小さな子供が苦しんでいるを放ってはおけません!」


「そうね。私も同意だわ」


「お、お二人は本当に行かれるつもりですか!? あそこの龍は、並大抵の冒険者では敵わないとされています! いくらミーラの為でしても、おやめになられてください!」



 私は少女を救いたい。


 人に創られたNPC? そんなの関係ないよね。



「大丈夫です。私たちは生き返りますし。そもそも、死にませんから!」



 私と同じように、感情があって、それはもう人間だよ。




「ツユちゃん、よく言ったわ! でもね、相手は毒を使うの。ツユちゃんでも毒攻撃はくらってしまうから、死なないという保証はできないわ」



 ちょ、フレアさん! 今良いところだったじゃないですか!


 というか、楽しんでますね!? 今の、絶対にわざとですよねぇ!?




◇ ◇ ◇




◇山岳地帯・紫山◇




「ここ……ですか?」


「えぇ、そのはずよ」



 なんと言うか……山じゃないみたい。


 ところどころに生えてる草木は、根元部分が紫色だったり、紫色の霧もあったりする。


 確かにこれは、毒の龍がいるフィールドで間違いないみたいだね。


 

「ツユちゃん、モンスターよ!」


「大丈夫ですっ!」



 紫色のスライム、ポイズンスライムにナイフを突き刺して倒す。



《プレイヤー『ツユ』がレベル1からレベル6になりました》

《従魔『クロ』がレベル1から5になりました》

《ステータスポイント25を獲得しました》

《『5シルバー』を獲得しました》

《『ポイズンゼリー』を獲得しました》



「ふぅ。意外とレベルが上がりました」

「そうね。レベルの上がり具合もちょっとだけ元にもどったみたい」







 スキル商店で買った『マッピング』のおかげで道に迷うことなく進めた。めちゃ便利。


 そして歩くこと数分。


 私たちはついに、毒の沼がある場所まで辿り着いた。


 

 沼の目の前まで行くと、中から巨大な影が、私たちを睨むようにして現れた。






――【ツユ】――

・LV「15」☆

▷MONEY「11,746,380」

▷CASINO「40,000,000」

――【STATUS】――

・POINT「45」

・HP「650/650」

・MP「650/650」

・SP「650/650」(100)

(全ステータス20%上昇)

▷STR「3062」(200)

▷VIT「3062」(740)

▷INT「3062」(20)

▷DEX「3062」(20)

▷AGI「3708」(520)

▷LUK「118789」(50)

――――――――


――【クロ】――

・個体名「ブラックアーマードラゴン」

・LV「11」☆

――【STATUS】――

・HP「3050/3050」

・MP「3050/3050」

・SP「3050/3050」

・STR「27237」

・VIT「27237」

・INT「27237」

・DEX「27237」

・AGI「27237」

・LUK「27237」

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