Episode 34「スノウちゃん」
ログインすると、今日もメッセージが届いていることに気がついて、開いてみると、フレアさんからのものだった。
しかも昨日の内容とほとんど、いや、全く同じ文章。
帰宅システムを使用すると、テーブルの椅子座っているのは、フレアさんとレイミー。
ヘッドさんは居ないけど、その代わりに緊張した様子の少女が縮こまって座っている。
髪は水色で、身長は……中学生くらい。装備は、なんか強そうで白くて可愛いのを着てる。
この子、どうしたんだろう。
「フレアさん、レイミー、その子どうしたんですか?」
「あら、ツユちゃん。こんにちは」
「ツユー、さっきぶりー!」
二人のいつもの挨拶を聞いていると、少女も私を見る。すると、みるみる驚いた表情に変化していく。
「え……。つ、ツユ……さん……!?」
「え? ど、どうして私の名前を?」
「あらツユちゃん、自分の立場をまだ理解していなかったのね」
「後でみっちりと教えてあげないとね」
やだ怖い。この人たち怖いよ。
「わ、私、ツユさんのファンです! あ、握手してください!」
「はあ!?」
差し伸ばされる手。
いやいや、なんで私と握手!?
と言っても、少女のキラキラとした眼差しを振り払うことは私には不可能なので、仕方なく手を握った。
「あ、ありがとうございます! この手は一生洗いません!」
うん、洗ってね。
あぁでも、ゲームの中だから洗わなくても生活はできるか。
……うん、それでも洗ってね。
「えっと、もしかするとファンクラブの……?」
「は、はいっ! 昨日加入させてもらいました!」
それを聞いた私。焦る。
「(ちょっとフレアさん、レイミー! そういうのは事務所を通すとか言ってなかったっけ?)」
「(ツユ、落ち着いて。この子はツユが目当てなんじゃなくて、ギルメン募集の張り紙を見て来てくれたの!)」
「(そうよ。そしたら、たまたまツユちゃんのファンだったってだけだから、安心して!)」
ギルメン募集……ギルメン募集……?
ああ! ギルドメンバー募集ね!
なるほど、それなら問題は無いないね。……多分。
「(それで、採用するんですか?)」
「(私は大歓迎!)」
「(私もレイミーちゃんに同意よ。ヘッドの意見は要らないから、後はツユちゃんの意見待ちだったってこと)」
そういうことだったんですね。
相変わらずヘッドさんの扱いは雑だけど、それなら私の答えは決まってる。
「えっと、プレイヤー名はなんですか?」
「す、〝スノウ〟です!」
おぉ、外見にピッタリな名前だぁ。
「ねえ、ツユちゃん!」
「ねえ、ツユ!」
「「この子、どう思う?」」
え、なんですか、どうしたんですか。
「どうって……可愛いですけど……?」
と言って、喜ぶのはスノウちゃんだけ。
逆に二人は睨んでくるんですけど。
「ち、が、う、で、しょ!」
「この子! 第一回! イベント! ランキング! 10位! よ!」
イベント? ランキング……10位…………あ!
思い出した。
確か、ヘッドさんの下にあった名前が、スノウ、だった気がする。しかもソロ。
「じゃあ、凄い人?」
「そんな! ツユさんに比べたらまだまだです!」
うおぅ、なんかさっきからめっちゃ尊敬されてるんだけど。
まあ、それでもいっか。
「それじゃあ、スノウちゃん。ギルド『不死竜』に加入してもらえますか?」
これで良い……のかな?
「い、良いんですか!?」
そして私たちは頷く。
スノウちゃんの、ただでさえ明い顔が、パッとなる。
「「ようこそ! ギルド『不死竜』へ!」」
◇ ◇ ◇
余ってるスキルや装備を一通りスノウちゃんに渡し終え、レイミーとフレアさんから売ったらダメだからね、と忠告を受けた彼女はずっとご機嫌なご様子。
何がそんなに嬉しいのか私にはいまいちわからなかったけど、受け取った装備は大事に飾るとのこと。
うん、着るか仕舞うかならまだしも、わざわざ飾らなくてもいいのに。というか飾らないでほしい。
あ、そうそう。彼女、自分の家を持っているらしい。ゲーム内の、だよ?
まあそれは、当然っちゃ当然なのかもしれないけど。
だって彼女、FLOから期間ごとに発表されるランキングのソロ部門では、毎日、毎週、必ず5位以内にランクイン。これは、FLOがサービスを開始してからずっとのことらしい。
そして装備は、全てがSSR以上で、武器の剣に関してはLR。
そう、1種類しか確認されていないうちのひとつ。
――『(LR)精霊剣〈雪氷〉』――
・精霊の試練をこなした者に授けられる剣
――【STATUS】――
・MP=100
・SP=200
・STR=500
――【EFFECT】――
・通常攻撃に氷属性を付与する
・氷属性攻撃の威力を30%増加する
――――――――
1種類とは言っても、ストーリーモードの1章の10話目をクリアすれば貰えるとかなんとかで、頑張れば誰でも入手できるって謙遜していた。
それに対してフレアさんが、ストーリーモードは難易度が高くて1章目でさえクリアしてるのは100人もいないって付け加えてたから、やっぱりあれは謙遜だったらしい。
実力はあるのにそれを自慢しない。レイミーとは大違いだね。
因みに、防具は全て氷属性攻撃強化の攻撃特化型。
スロットも、合計でふたつも付与している。
スロットは外すことも可能らしいから、私も一応、『女王赤蜂の羽』に付与させてたんだけど、スキルはまだ嵌めてなかったなぁと思い出して、『ラッキーダイス』をセットしておいた。
これはあれだよ。メンバーが増えたからね、アイテムの分け合いでいざこざにならない為の処置だよ。……う、嘘じゃないもん!
◇トレイル王国◇
「先輩、どうかしたんですか?」
「あ、いや、なんでもないよ?」
先輩、と言うのは、私がツユさんと呼ばれるのが嫌なので別の呼び名にしてと言ったら、こうなった。
まあ、さん付けよりかはマシだからね。
「そろそろカジノに着きますよー」
「うん、案内ありがとね。――――え?」
ちょっと待って、今カジノって言った?
確かに私は、スノウちゃんに資金稼ぎで簡単な方法を教えてほしい言ったよ?
でもそれが、なんでカジノなの!? あなたまだ未成年ですよね!? あ、でも、ここは法律とか無いのか……。っていうかカジノがあるの? この国に?
あ。レイミーとフレアさんはプレイスキル向上の為、二人でボス退治に行くそう。私もそっちに行きたかったなぁー……。
「というか、町並みは見た感じ、文明が進んでいるようには見えないんだけど、カジノなんて場違いにならない?」
「そんなの、今更気にする人なんていませんよ。それに、先輩のギルドハウスの方がこの世界に場違いですよ。ガチャガチャとミシンって、あれ、どうやって手に入れたんですか?」
「宝箱で……」
「普通、あんなのが出るはずないんですよ? 先輩のLUKは異常です! でもそこが先輩の――」
おっと、ここから先は聞かないようにしないと。
「っと、着きました。ここです」
そう言ってスノウちゃんが立ち止まったのは――
「え、ここ? 普通の酒場にしか見えないけど……」
「ふっふっふ、私も最初は驚きました。まあまあ、中に入りましょ」
連れられて中に入ると、本当にただの酒場。
私の酒場のイメージにあったいかつい感じは無く、女性も多く居る。
ここのどこにも、カジノ要素さんて無いけど……。
と、スノウちゃんに手を引っ張られて、お客さんにご飯を運んでいる、エプロン姿の女将さんっぽい女性の目の前に連れてこられる。
「あらスノウじゃないか。もしかして今日もやるのかい?」
「はい、女将さん。今日はこの人も一緒です。私の先輩です!」
目の前の人は見た目で通り、女将さんらしい。
そしてスノウちゃんは、話を聞く限りではこのお店の常連さん。
「そうかい。なら、これを」
女将さんの人を魅了するようなさっきまでの笑顔は、悪めの顔に変わる。
手渡されたのは、白色のカード。ただのカード。掌サイズの長方形で、何も書かれていない。
ただ、角のひとつに穴が開いていて、紐が通っている。首に掛けろということだろうか……?
スノウちゃんも同じ物を……ってあれ? スノウちゃんのは金色だ。
「新入りさん、ほどほどにね」
にかっと笑顔を向けられ、背中を叩かれる。
それに促されるようにして進む先は、……魔法陣!?
驚きを隠せずにいると、スノウちゃんが説明してくれた。
「このカードがあれば、カジノに入れます。そこで色んなゲームに勝ってポイントを貯めると、カードの色が変わります。こんな風に」
そう言って見せるゴールドカード。
あなたもしかして、カジノも上級者!?
「白、銅、銀、金、赤、黒、があります」
その内の上から四番目の彼女のカードは、未成年が手にするものではない……はずだよね?
「色とは別に、ポイントとかもあって、それが貯まれば色が変わったり、アイテムや装備が買えますよ。中には、ここでしか手に入らないレアアイテムあります。まあ、その分高いですが」
詳しく聞いてみると、こんな感じ。
お金を払ってカジノコインを買う。カジノコインを消費してゲームをする。勝てばポイントが増え、負ければポイントとコインは減る。
重要なのは、勝ってもポイントしか手に入らないこと。
そのポイントでゲームをすることもできるらしいけど、何故そんなシステムなのかと訊けば、通貨で直接、アイテムを購入したり色を上げたりを防止する為、と教えてくれた。
なるほどねと思った。
「それじゃあ行きましょうか!」
「う、うん……」
私、捕まらないだろうか……。
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