四章 ゲームなのに苦労する(日常編)

Episode 33「スマホ」

 食事、お風呂を終えて、私は机の引き出しからスマホを取り出し、メッセージにあった番号に連絡する。



 私は、メッセージアプリと、ゲームをひとつしかダウンロードしていないくらい、スマホをあまり使わない。


 別に機械が苦手とか、目が悪くなるからとか、そんな理由じゃない。


 ただ、使い道が無いだけ。


 ゲームは、この前までは全く興味が無かったし、料理はするけど、家にレシピ本があるからそれを見る。


 ニュースは新聞で、天気は朝の天気予報で確認する。


 バイトの時は一応持って行くんだけど、大して使わない。



 本当に、バイトと勉強の日々だったと自分でも思う。


 何が面白いわけでもなく勉強勉強。


 お金だって、家が貧しいわけじゃないし、親からはお小遣いを貰ってる。寧ろ、親に心配されてるくらい。


 ただ、将来の為に何かをしているという、私は暇じゃないという、意味不明な実感が欲しかったんだと思う。


 そうすれば、この時間は無駄じゃないと思えたから。


 

 一度、たった一度だけゲームをしたことがある。


 妹に、この前の美玲のように言われて。


 ダウンロードしたのは、モンスターを引っ張って、敵のモンスターに当てて倒すゲーム。


 結局、すぐにやめたけどね。


 今でも、どうしても暇な時間があれば時々開いたりするんだけど、やっぱりすぐにやめてしまう。


 ゲームが面白くないんじゃない。ただ、敵を倒すことが作業のように思えてしまって、どうしても楽しめなかった。


 そしてまた、自称将来の為、の毎日。


 

 ある日、友達ができた。


 いや、ボッチだったわけじゃないよ?


 なんか、私の周りでくっちゃべって、たまに「露音ちゃんはどう思う?」って質問がくる。それに相づちをするだけ。っていうのはあった。


 ほんと、私って最低だと思う。最初の方は割と話し掛けてくれたんだけど、やっぱり相づちで返してしまった。


 段々と会話の数も減る。それでも、私の周りに居てくれていただけ、彼女たちはとても優しいんだ。


 でも、友達というのは彼女たちじゃなくて、美玲だ。


 いつも強引に話し掛けてきて、私はやっぱり相づちするんだけど、それでも楽しそうに話してくる。それがなんか、嬉しくて。


 「私は無愛想だけど、軽蔑せず話し掛けてくれたら友達になります」と言ってるようなものだった。


 そんな自分が憎かった。でも、彼女からは離れられなかった。


 それが良い方に傾いたんだと思う。私にチャンスが訪れた。


 いつも周りに居た女子たちが、なんか急に謝ってきたんだ。



 『露音さんの気持ちを理解できずに、自分たちの都合だけで話し掛けてしまって本当にごめんなさい!』だってさ。



 言われた瞬間、頭が真っ白になった。


 彼女たちは何も悪くない。それなのに、私があんなことを言わせてしまった。


 罪悪感でいっぱいになった。


 それでも、どうしても、嬉しい気持ちが湧いてしまったのが、私の悪いところだと思う。


 あ、嬉しいと言っても、頭を下げてる姿が面白いとか、そういうことじゃないからね!?


 私はまだ、この人たちと友達になれるんだって、知れたのが嬉しかった。



 私も素直に、自分の気持ちを伝えた。


 今までごめんなさい。会話の仕方がわからない。友達になりたい。と。


 すると、相づちするだけで良いよ、優しくと笑ってくれた。


 皮肉じゃないからね? ……多分。


 その日、家に帰って泣いちゃった。


 もう号泣。


 でも、……嬉し泣き。



 それからは、友達になった彼女たちは、私を可愛いとか言い出した。


 正確には、美玲が言い始めて、彼女たちも乗っかった。


 なんか、こういう無口少女が萌えるの! とか熱く語ってたよ。


 しかもそれが、納得されてしまったらしく、私が適当に相づちするたびニヤニヤしてくるの。


 まるで喜んでいるみたいに――――いや違う。それは私の勘違いだね、うん。



 それで、私の本当のことがわかった。


 私は、ありのままの、媚びたり気を使ったりしない、友達が欲しかったんだと。





「――の、――? あのおー! どうかしましたかあー?」


「え? あ、すみません!」



 いけない、変な観想に浸ってた。


 スマホ、恐ろしや。



「えっと、ツユなんですけど……」



 プレイヤー名を伝えたら良いんだよね?



「あっ、は~い、ツユ様ですね、お待ちしておりましたぁ~。お電話代わりますので、少々お待ちくださぁ~い」


「わ、わかりました」



 プツッとキレ、陽気な音が流れる。




 3分程経ったと思う。やっと繋がった。



「申し訳ありません、只今社長は出かけておりまして――」



 なっ!?


 自分から呼び出して、私はちゃんと時間も指定して、それで出かけてる!?


 わ、私もここまで失礼なことはしないと思うなぁ、うん。


 

「できれば、本社で直接お話ししたいとのことなのです。可能でしたら今、日時を決めてもらいたいのですが……」



 もうなんでも良いや。



「えっと、基本いつでも開いてますけど」


「そうですか。では、今週の日曜日でいかがでしょうか?」


「大丈夫だと思います」


「それでは、時間はいかがいたしましょうか」


「その、できればお昼からで良いですか? 14時くらいで……」


「はい、可能ですよ。では、お住まいを訪ねても? 地域名だけで大丈夫ですよ」


「あ、はい。東京の――」


「かしこまりました。では、14時に――駅で、社の車を手配いたしますので、そこで次の暗号をお伝えください」



 あ、暗号!? 偽装防止の為なのかな……?


 え、ていうか、迎えに来てくれるんだ……。なんか、変なことに巻き込まれてる気がするなぁ……。



「F、L、O、T、――」



 そんなことより、メモしないと!



「――0200。以上です」



『FLOT-0200』



 ……? 何を基準にしてるんだろう。



「では、お待ちしております」


「あ、はい。ありがとうございます」



 まぁいっか。

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