Episode 29「村人A」

 もうひとつの用事を忘れるところだった。


 スキル探し。


 今のままじゃ、無敵にはなっても、相手を逃がしてしまう可能性がある。


 少なくとも、攻撃力に相当の自身は無い。


 因みに、エクスプロージョンのダメージは物理攻撃扱いになるので、私には効かない。


 レイミーにも言われたけど、めっちゃ都合が良すぎると自分でも思う。


 でも、攻撃力が高いのはそのスキルくらいだけで、使用までの時間が長すぎる。


 他にもあるにはあるんだけど、ガードに関係なくHPを消費したりするから、今の装備では使いづらい。


 だから、すぐに使える攻撃魔法と、あとは完全に死なないようにした方が良いって言われた。


 例えば、毒。


 くらったとしてもすぐHPが減ることは無いだろうけど、油断は禁物。


 そして、私も習得してるスキル、『劣化』又はそれに似たスキルの『腐食』。


 これらで装備を何個か破壊されると、ダメージを受ける可能性がある。



 そのいずれかの、どれかひとつでも対策できるスキルを見つけたい。


 その為にもNPCが経営してるスキル屋さんに来たんだけど、ついでに私の余ってるスキルを売っていいか二人に訊いたら、即答でダメって言われた。


 売ったスキルは、NPCが自分の店に売り出してしまう。


 そうなると、他のプレイヤーの手に渡る可能性だってある。


 それは避けたいらしい。


 ようするに他プレイヤーの成長をさせない為、珍しいスキルは売らない方が良いとか。


 もっと言えば、ギルドに入って来たプレイヤーに渡したり、ヘッドに高値で売り付けようと言われた。


 それには賛成だけど、ヘッドさんの扱い可哀想すぎません?


 


◇スキル商店◇




 中は本屋みたいな感じにになっている。


 巻物があいうえお順に棚に仕分けられていて、私たちは片っ端から調べている。


 ゲームの全てのスキルがあるわけじゃないけど、品揃えは中々だと思う。


 だけどやっぱり、レア度によって数は違う。


 SRは10種類、SSRは1種類、UR、LRは無し。


 種類だけじゃなく、当然在庫も少ない。


 SSRはひとつしか置いてないし、SRでも、多くて一種類につきみっつしかない。


 それ程レアなんだということを改めて知った。けど、私がどうにかできるわけではないから許してほしい。



(SSR)


――『トレジャー』――

・パッシブスキル

――【EFFECT】――

・宝箱から獲得できるお金が200%上昇する

――――――――

(2ゴールド)



 うわ、私にめっちゃピッタリだ。


 200%ってことは――え?


 200%!? 50や100じゃなくて!?


 こ、これがあれば、宝箱から入手できるお金が三倍に……。


 いや、厳密には320%だから……3.2倍……これは凄い……!


 でもこれ、いっきに10ゴールド以上を手に入れることだって難しくないのに、なんでこんなに安いんだろう。一瞬で元取れるのに……。


 なんで安いんだろうと呟きながら、店の奥に行った二人に後で詳しく訊こうかなと思った時、不意に声を掛けられた。



「そもそも宝箱を開錠できるやつが少ねぇからだよ」



 振り返ると、そこには弓を背負った狩人みたいな格好のプレイヤーが居て、私に話し掛けていた。



「えっと……あなたは?」



 名前を訊くと、驚いたような表情になる。



「ハハ、ランキング2位じゃ眼中にねぇか。俺は村人Aだ。よろしくな、ツユ」


「な、なんで私の名前を知ってるんですか!? もしかしてストー――」


「ちょっと待てよ! なんでそうなるんだ。あんたは第一回イベントで1位を取って、しかも不死身だとか天使だとか騒がれてるんだぜ? 今やFLOプレイヤーなら誰でもあんたのことを知ってる」


「確かに……ごめんなさい、勘違いしました」



 ん? 待って、ランキング2位の村人A? 


 ――あ、思い出した! 変な名前だなぁって思った人だ!


 だけど飲み込む。また失礼なことを言って怒らせちゃうかも。だから言動は慎重に……。



「えっと、それでなんのご用ですか?」


「たまたま見かけたんでな、面白くて話し掛けただけだよ。おっと、敬語はやめてくれよな?」



 これ、危ない人だ。


 まあ、それは今は良いとして。


 

「さっきの話の続き、してもらっていいですか?」


「ん? あぁ、その巻物が安い理由だったな。――たとえたまたま開錠ができても、金の量はLUKに依存しやすい。だがな、LUKにポイント振るやつなんてバカだって言われてるしよぉ、これを使ったところで、元なんて誰も取れやしねぇ」



 そう言えば、お金もレア度も、LUKに左右されるんだっけ。忘れてたよ。



「へ、へぇ~、そうなんですね~……」



 にしてもバカとはなんだ! バカとは!



「もしかして、知らなかったのか?」


「一応知ってましたけど」


「ん? じゃあなんで、これを安いなんて言ったんだ?」



 そりゃぁ――――あ、ヤバッ!


 これじゃあ私、LUKに全振りしたバカに加えて、話を聞いたうえで自分のバカさをばらしてしまったバカにもなってしまう!


 うん、自分で言ってて悲しいね。



「いえ、別になんでもないです……」



 よぉし。SRのコーナーを見てこよっと!



「ちょっと待て」



 ピタッ。



「えと、なんでしょうか……?」


「お前さんもしかして、LUKに振ったのか? しかもその反応からして、かなりの数値――」


「べべ別にそんなこことはないですよぉ?」



 盛大に動揺しちゃった……。



「……………………」

「……………………」



 どうしよう……完全にバレたし、めっちゃ気まずいんですけど。



「まあ、その、あれだあれ。LUKに多少振ったとしてもその実力なんだから、別に気にすることはねぇって。な?」



 うっ……気遣われた……。


 でも、〝多少〟振っただけも相当なバカ認定されてるんだよね? それが全振りだと知られたら……うん、もうゲームできない。



「あ、ありがとうございます、じゃあ私、これ買ってくるんで――」


「お、おう」



 運に頼って何が悪いんだ……。


 何が……。



 ……………………。



 リアルに戻ったら、アリスさんの動画を見て勉強しようそうしよう。


 今からでもきっと間に合う……よね?



「おい、ツユ! 良ければなんだが、フレ交換しねぇか? それと、うちのギルドに入れよ。強者が勢揃いだぜ」


 

 そう言って自分に親指を向ける村人Aさん。


 自分のことも含めて、勢揃いと言ったところが痛い……。


 良い人なんだけどね。



「フレンドは大丈夫ですけど、ギルドは別の友達と組んでいるので」


「それは残念だ。だが、フレとしてよろしくな。いずれ敵として戦うこともあるかもしれねぇが、わからないことがあったらなんでも訊いてくれ」



 この人も優しいなぁ。ゲームのプレイヤーって良い人しか見たことないよ。


 あ、そうでもなかった……。


 

《プレイヤー『村人A』からフレンド申請があります。フレンドになりますか?》



 『YES』を押す。



「お、サンキューな。んじゃ、これからよろしく」


「こちらこそ、ありがとうございます。嬉しいです」



 たとえ敵でも、こういうことができるゲームってなんか良いね……!




 その後私は『トレジャー』を買ってその場で習得して、他にもピッタリなものが無いか、村人Aさんに色々と教えてもらいながらスキルを探した。


 レイミーは村人Aさんに気が付くと、目を輝かせて話し掛けてた。


 そして打ち解けてフレンド登録もしたらしく、とても嬉しそうだった。


 で、その後も暫く話すと、村人Aさんはそろそろ時間だからと言って店を出て行った。



 それで思ったのが、村人Aさんって呼びづらいなぁってことだった。


 今度、あだ名とかで呼んでいいか訊いてみよ。




 因みに、他に買ったスキルはこんな感じ。



(SR)


――『猛毒耐性』――

・パッシブスキル

――【EFFECT】――

・毒に大きな耐性を得る

――――――――

(3ゴールド)


――『マッピング』――

・パッシブスキル

――【EFFECT】――

・フィールドのマップの確認可能な範囲を増加する

・マップに細部情報を記載する

――――――――

(2ゴールド)



(R)


――『EXP・UP』――

・パッシブスキル

――【EFFECT】――

・EXP取得量を20%増加する

――――――――

(2ゴールド)




◇ ◇ ◇




「――とまあこんな感じで、ツユにバッタリ出くわしたわけ」


「理解に苦しむわね。ギルドの情報は訊きださなかったわけ?」


「おいおい待ってくれよ! 確かにツユとは敵同士だが、フレンドでもあるんだ。裏切る真似は出来ねぇ」


「そうだよマリン、FLOは戦闘が全てじゃない」


「あっそ。なら私が偵察してくる。それなら文句ないでしょ」


「だってさ、A」


「まあ、フレンドとしては無理でも、一応は敵だ。そういう行為が正当化されている以上、お前を止める義理はねぇ。それにもうすぐ、第二回のイベント情報も解禁されるしな」


「だそうだ。マリン、頼めるか?」


「頼まれなくてもする」


「助かるよ」




「……………………」


「ん? 公式から告知だ。意外と早かったな」


「あぁ……。――今回はギルド対抗戦か。いきなりあいつと出くわすのだけは避けてぇな」


「それはフレンドだからか?」


「それもあるが、単純に強い。情報は全くないが、見たことない装備をしていたし、何よりバカじゃない」


「さっき言っていたことと違うんじゃないか?」


「そうだな、ゲームに関しては素人同然だが、素の頭は良い」


「なるほど。常識を知らないが故に行動が読めない。それは厄介だな」


「あぁ、だが、出会ったら全力を尽くすか、命乞いするだけだ」


「ははっ、君らしいよ……」






――【ツユ】――

・LV「23」

▷MONEY「513,380」

――【STATUS】――

・POINT「0」

・HP「230/230」

・MP「230/230」

・SP「230/230」(100)

(全ステータス20%上昇)

▷STR「181」(200)

▷VIT「181」(740)

▷INT「181」(20)

▷DEX「181」(20)

▷AGI「217」(520)

▷LUK「6824」(50)

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