Episode 21「残り15秒」

 山のような見た目をしていたダンジョンに入ると、そこは山でもなく、洞窟でもなく、森が続いていた。


 さっきのフィールドと違って、天井は見えないけど生い茂った木々が空を隠しているせいで、大分薄暗い。しかもジメジメしてる。


 こういう風に木を野放しにしていると、余計に育たないって何かの本に書いてあった気がする。


 いや、そんな心配をしても杞憂だった。攻略してしまったら消えるんだもんね。


 そう、ダンジョンは攻略したら消える。


 以前の洞窟の時に私は気付かなかったのだけど、その後二人に、ダンジョンについて教えてもらった。


 

 ダンジョンとは、フィールドにランダムで現れて、ゲーム内時間での一日が経つか、誰かがダンジョンボスと呼ばれるダンジョンに住みつくボスを倒すまで消えない。


 因みに、プレイヤーが入れば、そのダンジョンが消えるまでの時間は一日に戻る。



 次にダンジョンの種類を教えてもらった。


 まず種類があることに驚いたけど、話を聞いて、プレイヤーがダンジョンを造ることができるということに一番ビックリした。


 ダンジョンは大きく分けて三つ。



 ランダムダンジョン。


 これは、私たちが今入ってるダンジョンのこと。


 

 ストーリーダンジョン。


 次に進む為には必ず攻略しなければならないダンジョンのこと。


 これは、FLOの別モード、ストーリーモードにも適応される言葉らしい。


 そもそも、ストーリーモードを知らないんだけどね。



 プレイヤーダンジョン。


 プレイヤーが造るダンジョンのこと。


 ただ、そういうシステムがあるのは確からしいけど、サービス開始から1ヶ月が経った今でも、未だダンジョンを造ったプレイヤーは少ない。


 なんでも、『種』というアイテムを持っていないとダメなようで、その種、種類はたくさんあるものの、どれもレア度が高くて入手率が困難らしい。


 種……種……。


 うーん、なんか引っ掛かるんだよねぇ。


 

「ツユちゃん、モンスターよ!」



 まあ、いっか。


 今は忘れて、目の前のモンスターに集中集中。






 

 こんなモンスター、初めて見た。


 脚のようにうねうねと動かすくき


 頭を支えている大きな葉。


 その頭とは、赤と緑と黄の絵の具を適当にばら撒いたような色合いをしていて、星の形をした花だった。


 花の中心には大きな蕾がある。


 一言で表すと、食虫植物、そんな感じだった。


 うーん、もっと言うと食人植物かな?

 

 だって、大きさが私の二倍以上あるんだもん…………。


 これって、誰がどう見てどう考えても普通のモンスターじゃないよね?



「あのぅ、フレアさん、これって……」


「ええ、徘徊ボスね」

「厄介だね……」

「グオォ!」



 徘徊ボス? それはまだ教えてもらってませんでした。


 まあ名前通り、徘徊するボスのことなんでしょうけども!


 と言うか、ダンジョンに入って初めて遭遇したのがボスモンスターって、運悪すぎない? LUK全振りだよ?


 それは後々訊くことにして、まずはこのボスを倒そう。


 

「『ファイヤーアロー』!」

「『ファイヤートルネイド』!」



 二人とも、放つのは火属性が付与された攻撃。


 それは、相手にとって弱点だから。


 雷や地属性に対して何が有効的かとか、そこまで詳しいことは私にはまだわからない。


 でも、火には水、のように、植物には火、くらいのことは私にもわかる。


 それを知ったところで、私は属性付与どころか魔法すら覚えていないし、攻撃スキルだってひとつしか覚えていない。


 しかも覚えたてほやほやで、上手く使えるかなんてわからない。


 だけど、ものは試しだし、スキルを使うだけなら何も難しいことはないと思う。


 スキルの名前を叫ぶだけ。


 よしっ、覚悟はできた。



「クロ、レイミー、フレアさん! スキルを使うので離れてください!」


 

 一瞬戸惑う二人。(一匹の方は、躊躇なく従ってくれたけど)


 それりゃそうだ。だって、イベント報酬の『(SR)スキル巻物』で手に入れたスキルをまだ伝えていなかったんだから。


 それでも、私を信じて下がってくれる二人。


 

「えっと、ごめんなさい、もうちょっと離れください」

「えぇ」



「あ、もうちょっとですー!」

「わかった」



「一応、もうちょっとだけ離れてえー!」

「「う、うん…………?」」



 それを台無しにする私。


 いやね、スキルの説明が曖昧過ぎて、どのくらいの威力と範囲なのかもよくわかってないんだよ。


 でも、50メートル程の距離があれば、もう大丈夫だよね、うん。




 もう一度覚悟を決める。


 それを待ってくれる優しいモンスターでは無いらしい。


 食人植物は脚のような、触手のような茎をうならせ私に近づく。


 私が今から使うスキルは使用する為の準備をする時間がとても長い。


 そのようなスキルや魔法を使う場合、まず念じる、または口に出して唱える。


 時間が経ち、発動可能になれば、改めて唱える。そしたら発動するらしい。


 褒めてほしい、この情報は二人から教えてもらったのではなく、自分で調べたんだから。


 

 調子に乗ってごめんなさい、普通はそうするものですよね。わかってます。ごめんなさい。



 ではまず、念じる。


 植物は茎で私を叩き潰す。


 当然、HPは0になる。が、発動時間はリセットされない。発動可能まで残り50秒。


 

 クロが遠くで心配そうに叫ぶ声が聞こえるけど、それを手で、来たらダメと合図する。



 植物はまたも茎をむちのように器用に扱って、私のHPを0にする。


 残り40秒。


 

 ただ茎で攻撃するだけじゃ私は死なないと気がついたのか、今度は連続で攻撃し、滅多打ちにしてくる。


 それで死ぬ私ではないけれど。


 そして、残り30秒、半分を切った。


 

 植物は茎を使いながら攻撃するのをやめない。


 ただ、それと同時に、自ら体当たりを仕掛けて来た。


 茎のスイングを受けて木に埋まってしまっても、私は街に戻されない。


 そして木に埋まったまま、その巨体で体当たりを受け、HPは0になり、今度はHPが満タンになる。


 おそらく、魂ローブしゃなく、天使効果が発動したんだと思う。


 この二つのどっちが効果を発揮するかはランダムだからね。


 だけど、スキルが発動できるまでは残り15秒。


 

 茎で、体当たりで、何度も倒れる。


 攻撃パターンが少ないのは、相手のHPがほとんど減ってないから。


 

 私はまた生き返り、そしてついに、《発動可能》という文字が視界にうつる。



 全速力で走った。


 近づいてくる茎を、今度はギリギリで避ける。


 今更だけど、思うんだ。


 これ、怖すぎでしょ!


 死なないとわかっていても、巨大な植物が、ブォン、と風を切る音を立てながら目の前を通過するんだよ!? ちょっと泣きかけた。


 でも、やっぱり死なないし、この一撃で仕留めるから、大丈夫!



 二、三本と連続で迫りくる攻撃を躱し、ついに植物の足元まで到着する。


 そして登る。



「ツユー! ちょっと何してんのお!?」

「危ないから下りてきなさーい!」

「グオォォオ!」



 私は子供かっ!



「大丈夫だからー! 近付かないでー! ――グフッ!?」



 植物の体に張り付いたまま、茎がお腹に刺さる。これ、二人の目線だとめっちゃグロくなってるんだろうなぁ…………ごめんなさいね?


 割と冗談ではないけど、そんなことよりも早くスキルを発動しないと。


 使用可能になってから30秒の間に使わないと、再び使用不可能になってしまうから。


 そして、残りは15秒。急がなければ。



 再びよじ登る。


 木登りは得意じゃないけど、今なら登れる、そんな気がした。



 残り10秒。茎がお腹に刺さり、復活に2秒をロスしてしまう。


 

 また登る。


 7秒、6秒。


 まだ登る。


 今ここで発動しても良いんだけど、それだと不確定要素が多い。だから確実にする為に、花の中に入りたいんだ。


 うん、何言ってるか自分でもわかんないけど、5秒に減る数字を見ていて、間に合いそうじゃないとだけ思った。


 4秒。


 仕方ない、この態勢で使おう。万が一失敗でもしたら、めっちゃ恥ずかしい人になるけど。


 レイミーに、何がしたかったの? って笑われちゃう。それは嫌! 絶対に嫌! だから成功して!



 残り3秒、と、その時。



 私の体が浮いた。


 茎に攻撃はされていない。


 じゃあなんで?


 答えは、風に乗っているんだ!


 しかし、空中で茎に襲われそうになる。今、この場から投げ出されてしまったら、もう完全に間に合わない。


 すると、今度は目の前を雷が貫いた。



 こんなことをできるのは、レイミーと、フレアさんしか居ない。



 残り2秒。



 遠くからは、二人の声と、唸るクロの声が聞こえる。直後、背後の空気が揺れる気配と、黒い光が見えた。


 みんな、ありがとう。そう口に出す時間すらもう無いので、心で唱える。



 残り1秒。



 次は声に出して、大声で唱える。






「『エクスプロージョン』ッ!」






 直後、私を中心に大爆発が起こる。


 爆音が鳴り響き、草木は折れ、燃え、私のHPは絶え、植物は呻く。


 敵のHPもみるみる内に減り、バーは黄色になり、赤になり、完全に無くなる。


 しかし、私とは違って復活はしない。


 植物は砂となり、空へと消える。


 


 そして最後には、私だけとなった。


 ――――倒したんだ!

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