Episode 16「クロ」

 私たちは、壁や天井が崩れた洞窟で未だ身を潜めていた。


 時々、ここを見つけてくるプレイヤーもいるけど、多くて3パーティー程度だから、追い返す分には楽だった。


 あの数は、もう流石に勘弁してほしいけどね。


 で、今は新しく仲間になったクロのステータスや、従魔について確認していた。


 でも、従魔に関しては例が無いらしく、フレアさんは、ゲーム内から外部サイトにアクセスする機能を使って色々調べてくれたけど、結局何も見つからなかったそう。



――【クロ】――

・個体名「ブラックアーマードラゴン」

・LV「1」

――【STATUS】――

・HP「50/50」

・MP「50/50」

・SP「50/50」

・STR「50」

・VIT「50」

・INT「50」

・DEX「50」

・AGI「50」

・LUK「50」

――――――――



 そしてどうやら、従魔のステータスは、いつでも見れるらしい。


 というか、ステータス高くない? え、レベル1だよね?



「ちょっとツユちゃん? このステータス値はおかしくないかしら?」


「そうだよツユ、レベル1でこれは強すぎだって!」



 ですよねぇー。


 いや、気持ちはわかるけど私に言わないで?



「そう言えば、ヘルプ機能もあったわよね? もしかしたら、そこに書いてあるんじゃないかしら」



 ヘルプ機能……そんなシステムがあった気がしなくも……あ、あった!


 えっと次は、知りたい項目を押せばいいらしいから……従魔、従魔、従魔……お、これだ。



「ありました! えっとー、なになに……?」



 従魔は、主人とそのパーティーメンバーにダメージを与えられない。


 従魔は、主人が獲得した経験値の50%を獲得する。


 従魔が倒したモンスターから得られる報酬は、経験値を含め、自動で主人に送られる。アイテムは、獲得しないという選択も可能。


 従魔は、スキルを習得することが可能。


 従魔の種族によって、固有スキルを取得している、または、する可能性がある。


 従魔は、『召喚獣』、『ペット』の二種類に分けられる。


 召喚獣とは、召喚石から召喚できる従魔のこと。


 ペットとは、物理的に孵化したモンスターのこと。


 従魔のHPが0になると、召喚獣の場合は召喚石へ戻り、ペットの場合は生まれる前の状態へと戻る。召喚獣は、再召喚までゲーム内時間で一日のクールタイムがある。



「――――と、こんな感じのことが書いてあります」



 一応、もうちょっと書いてあったけど、とりあえずそれだけ言う。



「なるほどねぇ」


「クロの固有スキルは、まだ何も無い感じ?」


「えっと……」



――【SKILL】――

・『ダークブレス』

・『飛行』

――――――――



「ふたつだけあったよ」


「「どれどれ……」」



 二人は私のスキル画面を覗き込む。


 そして、二人して驚きに溢れたような顔になってる。



「こ、この『飛行』って……」


「空を飛べるんじゃ……」


「え」



 私も驚いた。


 確かに、よく見たら飛行って書いてあるよ。


 飛行ってあれだよね? 飛行するってことだよね?


 …………自分でも何言ってるかわかんないや。


 でも、本当に空を飛べるとしたら……。



「ツユちゃん、試してみる価値はあるんじゃないかしら?」


「そうだよ! そしたら、空から攻撃とかもできるようになるし!」



 三人とも、考えていることは同じらしい。


 二人に向かって頷く。


 そして、地面に座るクロを撫でてあげる。


 

「ねえクロ。クロって、飛べたりするの?」


「グォ!」


「飛びながら、偵察とか、攻撃はできそう?」


「グオォッ!」



 元気の良い返事。可愛すぎて頬が緩んじゃう……。



「それなら、私たちがピンチになった時、空から援護をお願いしたいんだけど……できそうかな……?」



 あまり危険なことはさせたくないけど、今の私たちの状況は最悪だ。


 周りには、プレイヤーがうじゃうじゃいるし、何より、私を倒すという理由だけで多くのパーティーが団結している。それが厄介。


 だから、少しでもこの状況を打破できるのなら、試してみたい。


 そしてクロはまた、グオォ! と唸った。



「ありがとう!」



 翼を広げ、飛ぶ準備をし始めるクロの、顎を撫でる。


 グォォ、と鳴くクロ。可愛すぎるッッ!


 そして、飛ぶ態勢になった。



「いい? 絶対に危ないことは駄目。危なくなったら逃げるんだよ?」


「グオッ!」



 なんか、旅立つ瞬間みたいだなぁ……生まれて、半日くらいしか経ってないけど。



「グァァア!」



 あれ、飛ばないのかな?


 

「どうしたの?」



 グァァ、グァァと鳴くだけ。


 やっぱり怖くなったのかな? 



「大丈夫、怖かったら飛ばなくても良いよ?」


「グァァ!? ガァァ!」



 大丈夫、誰も責めたりしないよ。だって、よく考えてみれば、初めて飛ぼうとしてたんだもんね。そりゃ怖いよ。



「ガァァ!? グガァア!」


「大丈夫、大丈夫」


「えっと、……ツユちゃん? 多分、乗ってほしいって意味だと思うけど……」


「え……そうなの?」


「グァアッ!」



 どうやらそうらしい……。


 あ、レイミー! 今、鈍感とか言ったでしょ!


 うぅ、恥ずかしい……。


 でも、それならお言葉に甘えて……



「よいしょっと」



 鱗は固いけど、ちゃんと乗れた。


 

「ツユちゃん、いってらっしゃい!」


「ツユ、楽しんで!」



 そう見送ってくれる二人。


 え、どうゆうこと?



「え? 二人は乗らないの?」


「「え?」」


「え?」


「グァ?」


 

 三人と一匹の、間の抜けた声が聞こえる。


 え? いやだって、



「クロは、二人にも乗ってほしいんだよね?」


「ガァ!」




 ほら、乗ってほしいって言ってるよ? 多分。

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