Episode 15「孵化」
「あ゛ぁ゛ぁ゛…………」
フレアさん、女の人がそんな声を出さないでください。
気持ちはわかりますけど。
私たちは今、森を抜けた場所にあった洞窟に隠れている。
相手プレイヤーは殆ど状態異常でやられていったけど、それでもゲーム内時間で一日戦い続けたんだから、疲れるのは当然。
ついでに、二人のMP・SPの回復も含めて休憩している。んだけど、外からは「どこだ!」「運営は何故動かない!?」「天使ちゃんおいでー!」とか聞こえてくるせいで、まともに休めない。
というか最後の人、何!? 怖すぎるんですけど!
「ポイントは257。一日でこれは上々ね。いや、上々どころじゃないわね……」
「それにしても、死なないってわかったんだから、逃げるとかしないわけ?」
「中にはそう考えたプレイヤーも居たでしょうけどね。あそこまで集まって集団リンチしているのに、のこのこ逃げたら笑いものよ」
確かに……。
「まあ、ちゃんとした理由として挙げられるのは――――前のパーティーが全滅することによって、後から参加したパーティーが「不死身」という意味を履き違えて、比喩でそう言っているんだと勘違いしているんでしょうね」
「それが続いた結果、一夜にしてツユは最強プレイヤーになってしまった、と」
「ふふふ、そういうことになるわね」
「笑いごとじゃないですよ……」
私たちはパーティーだ。
でもそのせいで凄く迷惑を掛けてしまっているのは理解しているつもりだけど……。
「本当にごめんなさい……」
「あら、別に良いのよ。というか、寧ろお礼を言いたいくらいよ。ポイントはこんなに溜まったしね」
「そうそう、これで100位以内には間違いなくランクインするんじゃないかな?」
優しいなぁ……。
まあ、疲労のおかげでこの結果が出たと考えれば、少しは楽になれる。
そんな時だった、画面下にメッセージが出現したのは。
《『竜の卵』が孵化しそうです》
「え」
わけもわからず、私はとりあえず卵を取り出す。
「ツユちゃん、卵がどうかしたの?」
「えっと……私にもよくわからなくて。急に、『竜の卵』が孵化しそうです、って」
「「え」」
今度は二人が声を漏らす。
「じ、じゃあ、この卵からもうすぐ竜が生まれるってこと!?」
「ツユ、凄いよ! ただでさえ召喚石も持ってるのに!」
「ちょ、落ち着いてっ!」
つい大声を出してしまう。
すると、外から声が聞こえたのと、卵にヒビが入るのはほぼ同時だった。
「この岩穴から声がしたぞ! みんな集まれ。早く!」
――しまった!
「あちゃぁ、見つかっちゃったわね」
「ごめん、ツユ。私たちが足止めするから、早くその卵を戻して」
そうだ、万が一のことがあって、この卵をここに置いていくことになるかもしれない。それは絶対に駄目。
だから、急いで卵に触れて戻――――せない。
あれ? なんで? ちゃんと触れてるのに!
《『ブラックレッサードラゴン』はインベントリに収納不可です》
触れても触れても、意味不明なメッセージが出てくるだけ。
しかし、振れるたびに、ヒビ割れた卵から感じる温度が、徐々に温かくなっていく。
そして――――
「奥は行き止まりのようだ! ここで仕留めるぞー!」
「まずいわ、この狭い場所でこれだけの数に攻められたら……」
「ツユ、まだ!?」
「う、生まれた……」
「「え?」」
《称号『従魔使い』を獲得しました》
《称号『ドラゴンテイマー』を獲得しました》
《スキル『可愛がり』を獲得しました》
体に張り付いた卵の欠片を、丁寧に剥がす、可愛い生き物。
体は、
鱗が黒く輝く生えていて、キリッとした眼差しに、短い尻尾。
控えめに言って超可愛い。のだけど、流石に混乱が勝ってしまう。
《『ブラックレッサードラゴン』に名前を付けてください》
え、今!?
えっと、えっと……クロ!
名付けなんてしたことないからシンプルだけど、許して?
《『ブラックレッサードラゴン』を『クロ』と名付けました》
《『クロ』との従魔契約が完了しました》
《個体名『ブラックレッサードラゴン』の進化を開始します》
どどどどうゆこと!?
「ツユ、もうやばいかも……!」
「ごめんなさい、私も……」
あ、えっと……
「『ライフリバース』! ――ごめんなさい、なんか進化しちゃって、もうちょっと掛かりそうです!」
「ごめん、よくわからないけど、ツユだからね」
「そうね、ツユちゃんはツユちゃんよね」
それってどういう意味!? なんて質問してる場合じゃない。
クロの体は眩しく光り、洞窟内を照らす。
ただでさえ大分大きな光りは、形を変え、やがて収束する。
《個体名『ブラックレッサードラゴン』から『ブラックアーマードラゴン』へと進化しました》
《称号『従魔契約完了』を獲得しました》
《称号『進化に導く者』を獲得しました》
そこに居たのは、さっきまでの愛らしさを残しつつ、しかし体が大きくなったことでたくましさも加わった、黒い竜がいた。
「えっと……クロ、なんだよね?」
後ろで戦闘が起こっているの状況で孵化してしまったのは本当に申し訳ないけど、とりあえず挨拶。
「わ、私はツユって言います。……よ、よろしくね?」
クロは目を細め、嬉しそうにグオォォ! と鳴いた。
か、可愛いッ!
「じゃあ、私は戦わないといけないから、ちょっと待っててくれる?」
「グォォ……」
なんとなくだけど、寂しそうにするクロ。
クロに触れる。だけど、当然インベントリには収まらない。
なら、ここで待ってもらうしかないか……。
そして入り口の方を振り向いた時、クロが大きく咆えた。
ギョッとして視線を戻すと、クロは口を大きく開き、そこから黒い光が溢れている。
私にだってわかった。これは、ビームとか、レーザーとか、そういう類の攻撃だと。
でも、止めはしなかった。
代わりに、
「フレアさん! レイミー! 私の後ろに下がってください! 早く!」
叫ぶ。
二人は驚いていたけど、状況をある程度察したのか、素直に従ってくれた。
そして、二人が
まるで有名人みたいだなぁなんて思いながら、隣のクロから禍々しい程の黒い稲妻のようなビームが、洞窟を半壊させながら通り抜けていくのを眺めていた。
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