Episode 6「優しさ」
「わかったか? 誰にも言うんじゃねえぞ? これは俺らだけの秘密だ」
私たちだけ秘密――――そんな言葉のどこに青春っぽさがあるのかと、いつだったかそれを教えてくれたレイミーに問いたい。
いや、レイミ―に言ってやりたい。
「そうだよ? 絶対に、私たち以外の人に喋っちゃダメだからね? ツユが狙われたら心配だよ」
「……わかった、絶対に喋らない」
青春と言うより、犯罪にでも手を染めている気分だった。
当のお二人さんは、気にも留めずに絶賛会議継続中ですけどね。
「しっかし、どうするか。バレれば当然、チートを疑われちまうしなぁ」
「いっそのこと、こういう装備やスキルを持っています、死にません、って宣言するのはどうですか?」
「そんなの、信じるやつがいるか?」
「テキストをスクショして、ゲーム内の掲示板やSNSに投稿するんですよ」
「お、それは良い案だな。あ、いやしかし、そしたらPKに狙って下さいと言ってるようなもんじゃねえか……」
「確かに……」
会話は行き詰まっているようだ。
どっちかと言うと、私はのんびりとゲームをプレイできれば嬉しいんですけどね。
それを言ったところで、今の二人は訊く耳を持ちそうにない。
そんな時、ヘッド武具店の入り口ドアがベルを鳴らしながらゆっくりと開いた。
「あら。そもそも死なないなら、PKに狙われたってなんの問題は無いでしょう?」
この話はバレてはいけないと、さっき念を押していたばっかなのに、もうバレてしまった。
それに、この人が言ってることって結局、私の装備を拡散する前提なんだけど。
まあ、正論ではあるけども。もっと穏便に済ませる方法、ありませんか?
――って、いやいや、そんな場合じゃなく! この人誰っ!?
「「確かに!」」
いや、今更納得しなくて良いんで、早くこの人に言い訳してくれませんか?
慌てる私を他所に、ヘッドさんはその人を見知っているようで、
「って、フレアじゃねえか、
それなら、と安堵する。
脅かすなよと言っておきながら、あんまり驚いた様子は無かったけど、今はそんなことどうでもいいかな。
よく見れば、とても綺麗な人だ。
整った顔立ち、長く赤い髪、それでいてどこか大人しい雰囲気を放っている。
可愛いより、美人という言葉が良く似合う。
「初めまして、私はフレアラ、ヘッドみたいに気軽にフレアって呼んでね。ヘッドとはフレンドで、ここにはよく遊びに来てるのよ」
「あ、はい。ツユです、よろしくお願いします」
「私はレイミ―です、よろしくお願いします!」
うふふと優し気にフレアさんは笑う。
「それで、あなたの装備、そんなにまずいの?」
当然、味の話じゃない。
「二人のさっきの話を聞く限りでは、そうなんだと思います。ちーととかはよくわかりませんが」
「あら? もしかして初心者さんかしら」
「はい、昨日始めたばかりですので」
「へぇぇ~、すごいわね! たった二日でSRを手に入れるなんて……」
「いえ、運に全振りしたらたまたま……」
「まあっ! 面白いわねっ!」
「そうだフレア、嬢ちゃんたちにお前の店を紹介したらどうだ?」
「「?」」
この人もお店を持ってるの?
「んー、そうねぇ、今の内にお近付きになっておけば、お互いウィンウィンね!」
「その前に、ちーとがどうという話はもう良いんですか?」
「まあ、全員が秘密にしとけばなんとかなるだろ。それにもうすぐ第一回イベントもある。どうせなら、その機会にドーンと見せびらかすってのはどうだ?」
「それ良いね!」
なんか適当になってる気がするのは、私の気のせいかな?
いつかはバレるだろうから、仕方のないことかもしれないけど。
「それなら、イベント期間はあえて装備を外すっていうのはどうかしら?」
「確かに、その場しのぎにはなるが悪くもねえな。でも――――」
そう区切って、私を見ると、
「最終的に決めるのはツユだしな」
「だね」
「そうねぇ~」
それはそう。
なら、答えは決まってる。
「私は、そのイベント? のことはよくわかりませんが、少なくとも、今はこの不死身の装備を使うつもりです」
息を吸って――
「目立つのは苦手ですけど、それはそれで楽しそうですし……それに、ゲームくらい自由にプレイしたいですからね」
そうだそうだ!
たとえちーとがどうと言われようと、私にはレイミ―やヘッドさん、フレアさんたちが居るんだから、何も心配することはないじゃん! そもそもちーと? じゃないし!
というか、レアアイテムを手に入れただけでこの考えようって、我ながら凄いと思う。本当に今更過ぎるけど。
「いつでも俺やフレアに頼って良いんだからな! でもSRの件は忘れんなよ?」
「そうよ、初対面だけど、何かあれば私に頼って良いんだからね?」
「私は何があってもツユの味方だからねっ!」
それぞれ、そう言ってくれて、気持ちをありがたく受け取る。
ゲームで、こんなしんみりするとは思ってなかったなぁ。
ちょっと泣きそうかも。
でも我慢我慢。
「そうだ、みんなでフレンド登録しましょう?」
「そうだな。その方が呼び出しも楽だしな」
「すすす、凄いよ! ヘッドさんとフレンドになれるなんて!」
「えっと、確かこのボタンを押して――――」
私のもうひとつの日常は、まだ始まったばかり。
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