Episode 5「ヘッドさん」

 フレファーの街に戻り、ヘッドさんのお店への道中、私はいつの間にか入手していたスキルを確認した。



――『短剣使い』――

・獲得条件:アバター制作時に短剣を選択する

――【EFFECT】――

・短剣に大きな適正を得る

・短剣を2本まで装備可能になる

――――――――



 なるほど、私が短剣を違和感なく扱えるのはこのスキルのおかげってわけだ。


 ありがとうございます。



――『ライフリバース』――

・獲得条件:敵の攻撃から対象のHPを減らさずに守り抜く

――【EFFECT】――

・自分の全HPと引き換えに、対象を復活&HP全回復する

――――――――



 敵の攻撃から対象のHPを減らさず守り抜く…………そんなことしたっけな?


 いや、その〝対象〟にスライムが含まれるとしたら?


 要は、スライムの攻撃からスライムを守った、とシステムに勘違いされたのでは? …………なんてね。


 まさかそんなことあるまいし。


 でもこれ、代償は大きいけどいざとなったら使えるね。



――『鍵師』――

・スキル『開錠』が進化したスキル

・獲得条件:宝箱10個の開錠に挑戦する

――【EFFECT】――

・開錠成功率、大成功率が10%上昇する

――――――――


――『超幸運』――

・スキル『幸運』が進化したスキル

・獲得条件:宝箱10個の開錠に成功する

――【EFFECT】――

・LUK=50

――――――――


――『神開錠』――

・獲得条件:宝箱を大成功で開錠する

――【EFFECT】――

・大成功率が10%上昇する

――――――――



 うーん、数字が絡むとよくわからなくなるなぁ。


 えっとー、大成功率が合計20%上昇する、んだよね?


 道化師のナイフの二本分の効果が合わされば、最低で大成功率が40%ということになる。


 ……多分、凄いんだと思う。


 えっと、次は装備を調べてみよっと。



――『(UR)エンジェルリング』――

・使用条件:称号『神を困らせし者』の獲得

・神に遣うとされる天使の輪

――【STATUS】――

・HP=100 

・MP=100

・SP=100

――【EFFECT】――

・自分またはパーティーメンバーのHPが0になった時、20%の確率で復活&HP・MP・SPが全回復する

――――――――



 どうやら、エンジェルリングとエンジェルウィングは同じステータスと能力を持っているらしい。


 え、強すぎない?


 それって、パーティーメンバーは40%の確率で倒れない――――いや、道化師のナイフの効果で、それぞれの効果の確率が20%上昇するでしょ? だから合計80%――――


 ちょっと怖くなってきたから、次の装備を確認しよう、そうしよう。



――『(SR)生死彷徨ウ魂ノローブ』――

・使用条件:1回以上の死と50体以上のモンスターの討伐

・ソレワ負ノ感情ノカタマリ

――【STATUS】――

・VIT=-4444

――【EFFECT】――

・HPが0になった時、30%の確率で復活&HP1回復し、1時間VIT以外のステータスを10%上昇させる

――――――――



 いや、ある意味こっちの方が怖いね。


 〝ソレワ負ノ感情ノ塊〟って何っ!? 怖すぎるよ! 


 しかも、VITがー4444! 弱すぎるでしょ。


 レイミ―から聞いた話だと、確かVITは、防御力に関係するらしいから、ー4444もあれば、多分全ての攻撃で私は死ぬね。


 で、最後の項目、『30%の確率で復活&ステータス上昇』。


 あ、あはは。


 それでも、パーティーメンバーは20%の確率で死んでしまう。ローブの効果は、自分だけだから。


 でも、『ライフリバース』の効果で仲間を復活させるのを繰り返したら……。


 私、死にません。なので、ステータスが低くても問題ありません。


 ……………………。


 ま、まあいっか。


 強くなったんだから、むしろ喜ぶべきだよね。


 そんなことを考えていると、ヘッドさんが話し掛けてきた。


 

「着いたぜ。ここが俺の店、『ヘッド武具店』だ!」



 ヘッド武具店…………ネーミングセンスは人それぞれだよね。


 そんな私とは裏腹に、レイミ―は目を輝かせていた。



「ヘッドさんって、もしかして生産職連盟のトップの!?」



 え? 生産職って? 連盟って何? ってなったのは私だけで。



「お、そっちの嬢ちゃんは俺のこと知ってんのか?」


「そりゃそうですよ! 生産職のトップでありながら攻略組の前線でも活躍してる、〝斧槌おのつち〟!」



 斧槌……。



「ちょっ、やめてくれよ! そのふたつ名、マジでダサくて嫌いなんだよ。もっと良いのは無かったのか?」



 ふたつ名が付く程に凄い人ってことはなんとなくわかったけど、私もそのふたつ名はダサいと思うな。というか安直過ぎでは?




◇ ◇ ◇




◇ヘッド武具店◇




「えっとー、早速で悪いんだが、本題に入っても良いか? ついでに嬢ちゃんらの自己紹介もな」



 私たちが店内に入ると、ヘッドさんは話題を切り替え、まずは自己紹介をするという形になった。



「レ、レイミーですっ! レベルは13ですっ! 主に魔法を使います! ギルドには所属してませんっ」


「あ、本名じゃなくていいんだよね? えっと、ツユです。レベルは6。武器は短剣です」


「よし、んじゃ改めて、俺はヘッドだ。レベルは28、武器は斧を使うぜ。ギルドには入ってないが、レイミ―の嬢ちゃんが言ってくれたように、生産職を趣味半分でやってる。ま、それなりに強いと思うぜ!」



 おう、自分で言っちゃうスタイル。



「よし、それじゃあ今度こそ本題だな」


 

 この人は確か、手に入れた装備を売ってくれとか言ってたっけ?




 装備の能力についてショックが大きかったせいで、色々と忘れかけてたけど、ヘッドさんの口から改めて聞いた内容は、記憶のものとほぼ一致していた。


 そして今聞いた内容を要約するとこう。



『スポンサーになるから、宝箱から出た装備を売ってくれ』



 もうちょっと詳しく説明すると、こんな感じ。



 まず、私が手に入れた装備を売る。


 売る物の内容はなんでも良い。


 要らない物でも良いし、手に入れた装備全部を売らなくたって良い。


 条件は、SRを週にみっつ売って欲しい。ただそれだけ。



 次に、私にとってのメリット。


 当然、売却分のお金は貰える。


 しかしこれだと、他の店で売るのとなんら変わりは無いとのことで、次に提案されたのがこうだった。


 

「防具や武器を無料で強化してやる!」



 強化すると、なんか補正が付くらしい。


 正直よくわからなかったから、頭の上に〝?〟を浮かべていると、どうやら納得していないと勘違いされてしまったらしく、上乗うわのせで別の条件を出してきた。


 

「俺にできることならなんだってする! だからどうだ?」



 だそうだ。


 いや別に、そこまでされなくても、アイテムを売ってその分のお金が手に入るなら、それ以上の条件はいらないんですけど、なんて言ったら、


 「それはただの売り買いだ! あのなぁ、商売ってのは――――」と延々近く説教される始末。


 それなら断ってもらった方が良い! とか言い出した時には、なんかもうめんどくさくなって、取引を承諾した。




◇ ◇ ◇




「ほんッッと助けったぜ、嬢ちゃん!」


「ツユで良いですよ……」



 この人とは今日が初対面だけど、相手が相手だし、私の中でこの人に対する遠慮と言う感情は欠けていた。



「おう、ツユ。これからも宜しくな! そっちの嬢ちゃんも!」


「は、はいっ! 私もレイミーでお願いしますっ!」



 反対にレイミーは、大分遠慮しがちだった。というか、緊張してるのかな?



「要らない装備があったら言ってくれよな。高値で買い取るぜ!」


 

 週にみっつ売るというノルマがある以上、少しだけでも早めに肩の荷を下ろそうと、早速装備を取り出す。



「『聖銀の巨斧』。これ、使わないのでとりあえずお願いしていいですか?」



 そう言いながら取り出すのは、半透明だけど銀色な、なんとも不思議な斧。



「お、おう。まだあったんだな――――ってこれ、斧じゃねえか!」



 そうか、この人って斧を使うんだよね。


 自分用に欲しいのかな?



「よしっ、多めに買い取ってやるからちょっと待ってろ」



 そう言って、奥の部屋に繋がるドアを開けて、行ってしまった。


 あぁそうだ、思い出した。


 これをレイミーに渡すのを忘れてたよ。



「レイミー、これ、『聖樹の杖』って言うんだけど、昨日あげた杖よりもワンランク高いからあげる」


「いいの? これ、SSRだよ?」



 現実でもゲームでも、いつもお世話になってるし、これくらいは友達として当然のこと。


 何より、喜ぶ顔が見たいと思うのも当然。


 恥ずかしくてそんなこと、やっぱり言えるはずもないけどね。



「いいって言ってる。私が持ってても使わないし」


「……………………」



 長い沈黙の後、昨日のこともあって諦めたのか、でももだっても言わず受け取ってくれた。



「ありがとう! じゃあ、こっちは返すよ。ノルマの足しにして」



 すると、昨日渡した赤い杖が差し出される。



「え、いいよ、それはもうあげた物だし」


「だーめ、貰ってばっかりじゃ私の気が済まないの! って言っても、これも貰い物なんだけど……いつか絶対、この借りは返すから!」



 渋々だったけど、まあ、そういうことならヘッドさんに買い取ってもらおう。


 赤いローブと似合ってたんだけどなぁ、と少し名残惜しくもあったけど、新しく手に持った杖も、案外オシャレだった。



「おー、待たせたな―。ほい、これ」



 やっと戻って来たと思ったら、投げてきたのは――――金貨三枚。


 おー、中々の大金だー! ですがヘッドさん、お金を投げちゃいけません。



「ヘッドさん、この杖もいいですか?」


「あぁ!? またか!? レアアイテム持ち過ぎだろ、PKに狙われても知らんぞ? 気を付けろよ」



 杖を渡す。


 そっか、PKなんてのも居るんだっけ。


 まぁ――――



「私、死なないので、大丈夫だと思いますよ」


「おうそうか、それなら安心――――はあ?」


「え、ツユ?」



 言ってから気付いた。


 やべ、言わない方が良かったか? とね。



「えっとー、そのー、ほらー私最強だしー?」



 見栄みえを張る子供アピール!



「いや、それにしては曖昧だったな。見栄張るやつは、だと思いますよ、なんて言わねえぞ?」


「ですね。――ツユ、装備を教えてくれない? あとステータスとスキルもね」


「…………ぁ、はぃ」



 呆気無くして折れた私は、また二人の驚き声を耳元で聞かされるのだった。


 鼓膜こまく……破れないか心配だよ。

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