Episode 3「宝箱」

 草原に戻ったら、待っていたのは呆れた顔の美玲。



「みれ……じゃなくてレイミー! ごめん、なんかよくわかんないけど死んじゃった」


「はあ~……あのねぇツユ、あなたはスライムに負けたの」


「スライム? 私の周りに居たっけ?」



 心当たりがない……。



「いやいやいや、居たでしょ! がっつり抱えてたじゃん!」


「へ? 攻撃されてなかったよ?」


「いや……いやいや……、されてたよ? ダメージエフェクトもめっちゃ出てたし!」


「でも、派手に動いたりもしてなかったし。それに、モンスターって火とか水の球とか、魔法を使うんでしょ?」


「ごめん、知ってるのが当たり前のことだと思ってたから伝えるの忘れてた。ほとんどの下級モンスターは魔法を使わないの。理由としては、MPが少ないからね」



 「ほんと、なんでこんなことを説明してるんだろう、私」と呟く美玲。


 ごめん、私にもわからないや。



「それなら尚更、スライムは攻撃できないと思うんだけど」


「あのね、魔法攻撃が無理なら物理攻撃があるでしょ? それと、スライムの場合は、草を溶かしてたみたいに、物質を溶かして攻撃するの。オーケー? わかった?」


「あー! なるほどね!」



 もう疲れたとでも言うように、早口で問題を解決する。


 ゲームを始める前はあんなに元気だったのに、本当にどうしたの?



「よ、よしっ、じゃあもう一回! ガンバ!」



 得意の切り替えにキレが無い気がする。


 いや、気のせい気のせい。



「今度こそ倒す!」



 またプヨプヨと近付いてくるスライム。


 やっぱり可愛い……!


 

「ほらほら~、おいで~」


「ツ、ユ、さ、ん?」



 ハッ!? 本来の目的を忘れてた!?


 てか美玲怖い。



「さっさと倒す!」


「は、はい!」



 よし、今度こそ! と思って、拳を構える。



「ツユ、ひとつ訊いていい?」


「どうしたの?」


「なんで短剣使わないの?」


「あっ」


「……………………」


「……ツカイマス」



 慌てて腰の鞘に手を伸ばして、二本の短剣を引き抜く。


 で、これをブスッと刺す。


 反応は――ちょっとプヨプヨしただけで、どれくらい効いているのかイマイチわからないなあ。



「ツユー! 相手に目線を合わせると、相手のHPバーが見れるよー!」


「本当!? 助かる!」



 これも常識だと言わんばかりに溜息ためいきをつく美玲には心の中で謝っておく。


 こっちが攻撃しても、反撃のような素振りをしないスライムには、両手の剣でブスブスと。


 これ、はたから見たら残酷なことをしてるようにしか見えない気が…………これはゲーム。考えるのをやめよう。


 そうこうしている内に、スライムが小刻みにプルプル震え出す。


 魔法? それとも巨大化? しかし、どれも違った。


 ずっと震えながらも、徐々に球体ではなくなっていき、やがて液体のようになると、地面に溶けていくように蒸発した。



《『10カッパー』を獲得しました》

《『スライムの魂石』を獲得しました》



「お、ついに倒した? 初討伐お疲れさん!」


「消えた……もしかして透明化!?」


「いや違うから! 倒したの! ここは喜ぶとこなの!」


「あ、そうなんだ。……強かったね」


「あ、うん。今の、一応最弱モンスだからね?」


「モンス?」


「勘弁して……」



 美玲……やっぱり体調が悪いんじゃ……?


 

「ほら、あっちにもスライムがいっぱいいるよ。倒しておいで」



 うながし方が、子供を相手にしているように聞こえるのは気のせいだよね?



「んじゃ、行ってくるー」



 結局甘えるんだけどね。



「行ってらー」



 よーし、狩りまくるぞー!




◇ ◇ ◇




「ツユー、もう20時だよー! どうするー? 落ちるー?」



 もうそんな時間なんだ…………随分ずいぶん没頭しちゃったな。


 

「待ってー! このスライムを倒したらそっちに戻るー!」


「りょー」



 おらっ! どうだっ! ういしょっ! これでっ! 最後ッ!


 ふうぅ~……疲れた~。



《プレイヤー『ツユ』がレベル3からレベル4になりました》

《ステータスポイント5を獲得しました》

《『10カッパー』を獲得しました》

《『スライムの魂石』を獲得しました》

《宝箱『素朴な木箱☆3』が出現しました》



 お、ラッキー! ちょうど経験値が溜まってレベルアップしたみたい。


 それに、また木箱もドロップしたし、運が良いね。



「終わったー? ――ってえぇぇええ! 宝箱じゃん! しかも☆3!」


「うわっ!? ど、どうしたの」



 美玲、今日叫び過ぎじゃない?


 誰のせいかって? そんなの知らないよ。



「どうしたの、じゃないよ! 宝箱ドロップしてんじゃん! 良いなあ!」


「え、これってそんなにレアなの?」


「当たり前――――ま、まあ、そうだよね、ツユはそんな反応になるよね。もう驚いたりしないよ!」


 

 そんな挑戦的に言われてもなぁ……。



「開けてみたら? 成功すると良いね」


「う、うん、そうだね」



 隣から熱い視線を感じまくりながら、木箱に触れると、それが一瞬光ったかと思えば、今度はウィンドウが出現する。



――【素朴な木箱☆3】――

・成功率100%

・大成功率5%

▶開錠しますか? ▷YES

         ▷NO

――――――――



「YESっと――」

「ちょおおっとまてぇぇええいっ!!」


「うえっ!?」



 だから急に怖って! 


 あ、ビックリした拍子にYESを押しちゃった。



――【成功報酬】――

・『12シルバー』

・『(SR)火炎魔石の杖』

――――――――


《スキル『開錠』を獲得しました》

《スキル『幸運』を獲得しました》

《称号『SRアイテムゲット!』を獲得しました》



「え゛?」


「杖か~、私は使わないから要らないね。レイミーって確か杖使ってたよね? これあげる」


「あ゛?」


「ちょ、怖いって。変な声出さないでよ」


「い、いや、いやいや……成功率もおかしかったけど……なんでSRが出るわけ? ていうかこれ……市場だとゴールド単位1ゴールド=1万カッパーで取引されてたんだけど……」



 この世界で、1カッパーの相場が、日本円で約10円相当。


 それが100枚で1シルバー約1千円


 シルバーが100枚で1ゴールド。ってこの青ざめてる人からさっき聞いた。


 要するに、約10万円以上の杖をくれる私の優しさに歓喜極まってるわけだ。



「まあ、こっちの世界でどれだけ稼いでも、現実世界で使えるわけじゃないからね」


「い、いや、お金があれば強くなれるよ? そしたら、ゲームだって楽しいじゃん……」


「ん。だからレイミ―にあげる」



 強くなる為により強い装備を整える。これは私でもわかる。


 だから、杖を使う美玲にあげた。もっと強くなってほしいという気持ちと、お詫びの気持ちを込めて。


 別に、普通だと思うんだけどなあ。



「いや、でも!」



 も~、美玲はいつもグイグイくるくせに、受けになるとやけに控えめになるんだから。



「いやじゃない。でもじゃない。レイミ―にあげる」



 回収した『(SR)火炎魔石の杖』をインベントリ持ち物から取り出して、固まる美玲の手に持たせる。


 美玲が今着ている赤色のローブと、炎のように赤い石が先端にめ込まれた杖が相性バッチリだ。


 ついでに、現実を四倍速したこの世界の夕日も、美玲と一緒に輝いている。


 それに、と続けて、今思い出したことを告げる。



「他にも宝箱出たしね」


「そう……なんだ。うん、それなら……ありがたく――――は?」


「怖いって」


「あ、ごめん。え、えぇっと、その宝箱から何が出たか訊いてもいい?」


「ん? うん。なんだっけなー、ちょっと待って。今取り出すから」



 なんだったっけ?


 確か、レア度が同じSRだったはず。


 お、あったあった。



『(SR)道化師のナイフ』

『(SR)スキル巻物〈ラッキーダイス〉』



「うわ、当然のようにSR出してきたよ…………おぉぉおお!? しかもふたつ!?」



 また急に叫んだと思ったら、急にキョロキョロする。



「えっとー、何?」


「何? じゃないよ! こんなの、他のプレイヤーに見られたらどうすんの! ここはフィールドだから、PKプレイヤーキルされる可能性だってあるんだからね!」



 これも移動中、美玲に教えてもらったことなんだけど、PKとは主にプレイヤーがプレイヤーを襲うことを指す。


 町や村などの施設内だったらプレイヤー同士で争うことは出来ないけど、それ以外の場所、フィールドでならPK行為は可能らしい。


 殆どのプレイヤーがPKを良く思っていないらしいから、その数はとても少ないって言ってたけど、それでも存在するのは確かだし、用心するに越したことはない、って忠告されたのを覚えてる。


 改めて注意しようと心で決意した私を他所よそに、注意してくれた当の本人は、ふたつのアイテムの能力を確認しながら、「これ、ツユにピッタリじゃん!」と、喜んでいたのか、驚いていたのか。


 とりあえず、そのピッタリなアイテムはまた明日確認ってことで…………今日は大分疲れたから、早くログアウト退出して寝よう……。

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