Episode 2「スライム」

 なんか視界の右下に、獲得しましたってあったんだけど、多分気のせいだと思う。


 そんなことより、今の私にはやるべきことがある。


 まず最初の街、『フレファー』の中央にある噴水を目指して。美玲にそう言われたから、中々に賑わってる人混みを掻きわけながら進む。


 幸い、意識したら視界の右上にこの町全体のマップが表示されるシステムがあったから、目的地に到着するのは簡単だった。


 だけど、めっちゃ時間が掛かっちゃった……。



「あ、露音! 遅かったね」


「み、美玲ぃ~……!」


「どしたの。何かあった?」


「い、いや、歩く速度が遅すぎて……」



 ゼエゼエと息を切らす私。


 いやもうほんと、疲労感まで再現しなくてもいいのに。



「もしかしてアジリティに振ってないの?」


「あじり……てぃ? 何それ?」


「え。そこから? あ、いや、露音は初心者だし……でもそれほど……?」



 なーにブツブツ呟いてんの、私の存在忘れてないよね?



「露音。いや、アバター名は……『ツユ』ね。因みに私は『レイミー』。当然だけど、こっちの世界ではこのアバター名で呼び合うこと。わかった?」


「りょーかい」


「えっと、それでね。アジリティって言うのは、AGIエー・ジー・アイのこと。キャラ設定の時、一回くらいは目にしてると思うけど」



「あ~! 思い出した。よくわからなかったから、とりあえずわかるやつに振っといたよ?」


「AGIは、素早さに影響するの。で、その言い方から察するに、AGIには1ポイントも振ってないってことね」



 そうだったんだ。道理で足が遅いわけだ。


 でも、短剣の武器補正がある分まだマシだよね。



「一応訊いておくけど、ポイントは何に振ったの?」


「LUK、運だね」


「運に振るなんて珍しいねぇ……他には?」


「運だけだよ?」


「他には?」


「運だけだって」


「え」


「え?」



 天の声さんにも似たような反応されてたけど、私、何かおかしなこと言った?


 ねえ美玲、それは無知すぎて呆れてる顔じゃないよね?


 

「うん、運、うん。ま、まあわかったよ。私と一緒に行動すれば、この層くらいは攻略できるだろうしね!」



 相変わらず切り替えが早いけど……



「なんかごめんね?」


「ちょ、いいって! 事前に説明しなかった私にも責任があるわけだし、それに、ステータスポイントだって、元に戻すことができるらしいよ? 具体的なことは知らないけどね」


「美玲……」


「よおし! 早速モンスターを狩りに行くどおー!」


「おー……」



 私、これから大丈夫かな……?


 なるべく、美玲には迷惑掛けないようにしなくちゃ……!




◇ ◇ ◇




◇フレファー西平原◇




「すっっごおぉぉい!」


「でしょでしょ! 凄いでしょ!」



 広い野原には花や木々があり、もはや本物としか思えないくらい綺麗な光景。


 プヨプヨしたゼリーみたいなモンスターや、角が生えた兎を見た途端、私の好奇心が湧き出した。


 その内の、私たちと一番近いところで草を溶かしているゼリーを指差す。



「あのゼリーを倒したら経験値が貰えて、一定の量に達したらレベルアップする。だったよね」



 ここに来る道中、最低限の教養として美玲から教わった知識を絞り出して再度確認。



「正解、よくできました! レベルが上がれば上がる程、次に必要になる経験値も増えるけど、レベル10くらいまではこのフィールドで狩りをするのが基本かな。物足りなくなれば、奥に見える森に挑んでみるのもアリだね」


「フフン、私天才」


「因みに……あのモンスターはゼリーじゃなくてスライムって言うの。これ常識」



 聞こえない聞こえない。



「よし! 早速狩ってくる!」


「無視するなー。ま、がんばー。無いとは思うけど、万が一危なくなったら呼んでね、助太刀すけだちするから」


「ありがとう!」



 でも万が一って……二分の一くらいで負ける自信しかないよ……。


 助けてもらえるなら大丈夫か、と切り替える。



「よし。ゼリー……じゃなかった。スライムさん、私が相手になるよ!」



 私が挑発すると、スライムが反応してプヨプヨと移動してくる。


 私には、相手の先手を避けて、その直後に生まれる隙を利用して一気に攻撃する、という天才的プランがある。


 しかし当のスライムは、攻撃する気は無いと言わんばかりに、私の足元まで来るや否や、その周りをクルクルと周り始めた。


 か、可愛いッッ!


 ま、まあ、君が攻撃をしないというのなら私も攻撃はしないよ?


 愛らしくてできないとか、そういうことじゃないからね?



「ほらほら、こっちおいでー」



 まるで近所の犬を可愛がるみたいに手を差し伸べると、スライムは迷わずてのひらに乗ってくれた。


 両手で抱え、撫でてやる。



「ねえ、美玲……じゃなくて、レイミー! 見て見て、めっちゃ可愛いよ!」



 ステータス画面を眺めてたらしい美玲も、私の腕の中にいるスライムに目を見やると、優しげな表情になったのも束の間、



「ちょっとツユ!? そいつから手を離して!」


「な、何? 急に怖いって。どうしたの?」



 それよりも、左上にあるHPのバーが減ってるんだけど。なんでだろう……?


 しかも、ピンチを表すレッドゾーンに突入してるけど……原因が全くわからないよ。



「早く! スライムをから手を離し――――」



 もう騒がしいなぁ、わかったよ――――って、あれ!? 視界が真っ暗になったよ!?


 ちょっ、『YourDead』てどうゆうこと!? 私死んだの!? なんでぇ!?




 あ、街に戻ってきたってことは、本当に死んだみたい……。


 なんで死んだかわからないけど、私弱すぎない?





《スキル『ライフリバース』を獲得しました》

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