第8話 このクソ亡霊ども! アタシが許しを請うわけないだろ!

 ターラの街に向って歩きながら、アタシは頭の中でミシェパと今後のことについて話あっていた。


(それでシズカよ。ターラの街についた後はどうするつもりだ。どこか行く先でもあるのか?)


 街についたらしばらくの間は職探しかな。まずはお金を稼がないと、他の国なんて行けないからね。


(他の国? お前はカナン王国から出てどこへ行くつもりなのだ?)


 ボルヤーグ連合王国だよ。もしかするとそこに転生者がいるかも知れないの。あるいはその手掛かりがあるかも。


 アタシが女神官を連れてゴブリンの洞窟から逃げ出したとき、アタシたちを拾って助けてくれた銀髪の女剣士。


 彼女との会話の中で耳にしたボルヤーグ連合王国の「シンゲン宣言」は、明らかに転生前のアタシの世界から着想を得たものに違いなかった。

 

(ふむ。やはりシズカが転生者というのは間違いなさそうだな。お前の記憶の断片を見て、我らの世界とはまったく異質なものばかりである理由がハッキリした)


 ちょっと! アタシの記憶を勝手に覗くな!


 ミシェパにはアタシの記憶が見えるのか!? 


 そう思った瞬間、アタシの脳裡に思い出したくもない嫌な場面が、次々と流れていく。


 この世界に転生した直後に押し倒され、酷く顔を打ってしまい。血と共に欠けた前歯を吐き出した時の記憶。

 

 山賊に握らされた短刀を、命乞いする旅人の胸に無理やり突き立てさせられたとき――初めて人を殺したときの記憶。


 顔や全身を殴られ鞭打たれ、頭のおかしい狂人の相手をさせられた娼館での出来事。


 他にも敵味方魔物関係なく、これまでアタシが命を奪った連中の顔が、まるで怨霊のようにアタシの目の前に現れた。


 その全てが死んだ瞬間の恐怖に歪んだ表情のまま、アタシを責めるような視線を向けていた。


 アタシを責める? 怨む?


 だと!?


 ふざけんな! この亡霊ども! 


 アンタたちは、殺されても仕方ないようなことをアタシにしてきだんだ! 


 ザマァみろだ!


 恨みがましい顔を晒して出てきたって、アタシは後悔なんてしねぇかんな! 

 

 命を奪ったアタシが、アンタらに許しを請うとでも!?


 ふざけんな!


 アタシの方こそ、お前らを絶対に許してなんてやるもんか!


 アタシは亡霊たちをキッと睨み返してやった。


 しかし亡霊たちは物言わぬまま、アタシの目の前を漂い続ける。


 息が苦しい。


 アタシはたまらず自分の胸を、爪を突き立てるように搔きむしる。


 掻きむしるしかなかった。


 掻きむしっても苦しい。


 ヒィッ! ハァッ! ヒッ! ハッ! 


 い、息が……出来ない……。


(ど、どうしたシズカ!? 落ち着け! 落ち着くのだ!)


 頭の中でミシェパが大声を上げているのがわかったが、それはどこか遠い出来事のように感じられた。


 ヒッ! ヒッ! ヒッ! ヒッ! 


 全身に冷や汗が流れ出し、急激に体温が下がっていくのを感じる。


 ヒッ! ヒッ! ヒッ! ヒッ! 


 呼吸の仕方が分からない。


 呼吸ってどうやるんだっけ!?




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