第9話 もしかしてアタシ、ここで死ぬのか!?

 過去の亡霊が目の前に現れて過呼吸を起こしている最中だけど、まずは言い訳させて欲しい。


 アタシだって、この異世界に転生してからそれなりの時間を過ごしてる。


 この世界の命が綿よりも軽くて、人権なんてクソほどの価値もないってことは、転生直後から身をもって思い知らされた。


 この世界でのアタシの境遇は確かに悲惨なものだったけど、それが特に珍しい話でもないことは、山賊たちと暮らしている間にたくさん目にしてきた。


 あるとき山賊が襲った馬車隊に、鎖で繋がれた60人の奴隷が付き従っていたことがあった。アタシは、山賊が殺した護衛たちの遺体を片付けさせられていたんだけど、そのとき山賊の頭が隊長を尋問しているのが耳に入ってきた。


 頭が拷問した吐かせたところ、その隊長はカルト教団に雇われていたということだった。そいつは教団が悪魔を呼び出すための生贄にする奴隷を移送中だったんだ。

 

 また別のときには、領主が妻の美しさを保つために、処女の生血で満たされた風呂に入れようとしてたなんてこともあった。そのとき襲った馬車にまだ生理も迎えていないような子どもたちが詰め込まれてた。


 そういうのを見る度に、アタシは「山賊に掴まってよかった」って思ったことだってある。何度も。


 そんな世界で亡霊ごときに悩まされるような、そんなセンチメンタルなハートをアタシは持ってない。


 今までもこれからも、敵と認めた相手は、先手必勝で剣を突き立てる。じゃなきゃ、アタシが死ぬ。


 そんな修羅の世界に生きてるんだ、アタシは!


 だから、この胸が息苦しいのはアタシじゃない!


 平野静香だ!


 今では夢に見るだけの、平和で優しくて暖かい世界に住んでいたアタシの記憶。

 

 それはもう前世の話なのに……もう平野静香はいないのに……。


 アタシはもうアタシなのに!


 平野静香が、アタシの胸を詰まらせて息をさせてくれないの!


 平野静香! 聞いて! もうここは静香が住んでいたような世界じゃないの!

 

 静香シズカ! 聞け! アタシがアイツらを殺さなきゃ、アイツらがアタシを殺してた。もっともっともっと酷いことされてた!


 人を殺すなんて絶対ダメ!

 

 血なんて見たくない! 怖い! 怖いよ、お母さん!


 そんなのわかってる! でも殺さなきゃアンタアタシが殺されるの! それでもいいの!?


 嫌だ!

 

 でも殺したくない! 恨まれるのいや! 怖いのいや!


 嫌だ! 嫌だ! 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!


 怖い、怖いよ! 助けてお父さん! お母さん!

 

 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて。


 アタシが混乱するのを見て、亡霊たちの顔が邪悪な笑みを浮かべる。声は聞こえずとも、ヤツラが愉悦に浸っているのはわかった。


 静香の気持ちに呑み込まれてアタシは恐怖に囚われて、そこから抜け出すことがなくなってた。


 ヒッ! ヒッ! ヒッ! ヒッ! 


 息が……できない……。


 もしかしてアタシ……死ぬ……の?


 静香の泣き喚く声を聞きながら、


 暗い闇の中へとアタシの意識が沈み始めた。


 そのとき――


「シズカッ!?」


 アレスあの子の声が聞こえたんだ聞こえたの

  



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