第12話 その本、どっから出してきたんだよ!

 ちょっとミシェパ! アタシの部屋で何してんの!?


 脳内では、ミシェパが前世の部屋のベッドの上で寝そべっていた。


(これか? これはお前が「絶対に見せたくないと」記憶の断片だ。それにしてもこのベッドはふかふかでとても心地が良いな)


 思わず声を上げそうになったものの、また途中で目を覚ましてアレスくんに心配させたくないので、そのままなんとか沈黙を保つ。


 それにしても前世の部屋か……懐かしいな。


 そう思ってアタシは、部屋のあちこちに視線を走らせるが、細かいところまで見ようとすると、どうにも視界がボヤけてハッキリしない。


(あくまでも記憶じゃからな。印象だけで構成された世界とでも考えればよかろう)


 なるほどね。全然わかんない。


 それで? アタシに聞きたいことって何?


(うむ。この本のことなのだが……)


 ベッドの上に寝そべっている灰色狼が、ボンッという音と共に煙につつまれるたかと思うと、たちまちメイドさんが姿を現した。


 しかも、そのメイド……どこかで見たことがあるような。


 どこかで見たんだけどなぁ。どこだったかなぁ。


 と、考えているとメイドの姿をしたミシェパが、本を手にとってスクリーンに向けてきた。


(この「ボクにスカート 前編 ~おねショタ本~」の後編を読みたいのだ。ところで「おねショタ」というのはどういう意味なのだ?)

 

「ちょぉおおおおおおおおい!」


 アタシは思わず絶叫してしまった。


「シズカ!? 今度はどうしたの!?」 


 そりゃたいそう驚いたであろうアレスくんが、慌ててアタシのところに飛んできた。やさしくアタシの手を握るアレスくんに、アタシは引き攣った笑顔を見せる。


「だ、だ、大丈夫大丈夫。大丈夫だから」


「ぜんぜん大丈夫じゃないよ。シズカはきっとすごく疲れてる。今日はここで休もうよ。ぼくが野営の準備をするから、シズカは横になってて!」


 そう言ってアレスくんはテキパキと寝床をこしらえ、そこをパンパンと叩いて、アタシに横になるよう促してきた。


「食事も作るから、シズカはここで寝てて!」


「わ、わかったよ。もしかすると、また夢でうなされて叫んじゃうかもだけど、気にしないでいいからね。疲れが取れるまでのことだから。たぶん」


「うん。わかったからもう寝て!」


 よほどアタシのことを心配してくれているのだろう。いつもは大人しくて受け身な感じのアレスくんがグイグイと押してくる。


 なんだか逞しい。


 身体は小さいし見た目は女の子みたいでも、やっぱり男の子なんだな。


 と、アタシがほっこりしていると、


(この本の最期で、メイドのお姉さんに女の子の服を着せられた少年が、恥ずかしそうにしているところで、なんだかこう胸がキュンッとなってしまうのだ。なぁ、シズカよ。この続きを! この続きを見せてくれ!)


 などと懇願するミシェパ。


 そのメイドになった姿を見て、ようやくアタシはそれが例の本の中に出てくるメイドのお姉さんであることに気がついた。




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