第11話 ちょっと! そこはアタシのベッドだろ!

(まずは言い訳をさせて欲しい)


 ターラに向う街道を歩いている途中、ミシェパが脳内で語り掛けてきた。


 言い訳? なんの?


(お前の記憶の断片についてだ。まぁ、自分の記憶など誰でも見られたくないだろうとは思うが、まさかお前があそこまで取り乱すとは思わなかった)


 そのことか。もういいよ。


(えっ、いいのか!?)


 確かに命を落としかけるほどに取り乱しはした。しかし、結果的にはアレスくんのおかげで助かったわけだし。


 それにうまく言えないけど、前世の自分と折り合いがついたというか、重なったっていうか、うまく言えないけど自分が自分に収まった感じがする。


 前世のアタシも今の私も、どっちも自分だってことが納得できたみたいな。


 だからまた亡霊が現れたとしても、もうアタシはアタシのままでいられるって確信がある。


(そういうものか……)


 そういうものだよ。


(ふむ。ならば説明しておこうか。お主が見せたくないと思っている前世の記憶を、私が勝手に見ることはない。というか出来ないから、そこは安心するといい。先の亡霊共はこの世界での記憶であろう? それは誓約が発動した際にお互い共有してしまっているからな。だが前世の記憶はお前の意志次第なのだ)


 そうなんだ。


(ところでシズカ、聞いてもいいか? 前世の記憶のことではあるのだが……)


 ミシェパが不安そうに尋ねてくる。


 いいよ。


(そうか。では話がしやすいように視界に姿を映すから、歩くのを止めてどこかに腰かけてくれ)


 わかった。というか姿を映すって、そんなことできるんだ!?


 アタシはアレスに休憩しようと提案して、近くの草むらに腰を下ろす。


「ちょっとだけ眠るから、見張り頼める?」

「分かった。ぼくがちゃんと見張ってるから、シズカは無理しないでゆっくり休んで」

 

 優しい小さな王子様の頭をワシャワシャした後、アタシは目を閉じる。


 さぁミシェパ、準備できたよ。

 

 えっと、目はつぶっててもいいの?


(構わん。それでは……)


 視界というか脳裡? に薄青いスクリーンが現れる。


「ふぇ!?」


 そこに現れたものに驚いて、アタシは思わず声を上げた。


「どうしたのシズカ? 大丈夫?」


 思わず目を開くと、心配そうにこちらを見つめるアレスと目が合う。


「だ、大丈夫。む、虫でも飛んできたかと思ってビックリしただけだから。そ、それじゃ、休ませてもらうね」


 アタシは視界に映っているものを全力で無視しながら、アレスに微笑むと、再び目を閉じた。


 目を閉じると、余計な背景がない分、スクリーンがより明瞭に見ることができる。


 スクリーンに映っていたのは、


 前世のアタシの部屋。


 そのベッドの上にのんびりと寝そべっている灰色狼の姿だった。




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