第2話
「ここがグレンの部屋だ」
団長――デックスさんが俺に与えてくれた部屋は王国騎士団の宿舎の一室だった。
あの後、数人の王国騎士に囲まれてデックスさんと話をした。デックスさんは俺の親父の友人で、親父に連れられてくる俺のことを覚えていたらしい。親父は元王国騎士で、同期入団ということもあり昔から仲が良かったんだとか。
6年前、村が襲撃されたことを知ったデックスさんはすぐに村を訪れ親父やお袋の弔いをした。そのとき、村の周辺をどんなに探し回っても俺の遺体が見つからず、そのことをずっと不可解に思っていたらしい。
その話を聞き、俺の左腕の奴隷紋も確認した王国騎士たちは俺を無害認定してくれた。ちなみに奴隷紋は教会で消してもらったのでもうない。
そうして今に至るわけだが、俺には一つ疑問がある。もうこの際どうでもいいのかもしれないが、気になるものは気になるからな。
「あの、なんで王国は公国を攻めることができたんですか? 王国は他国との国境付近にも騎士を配置しないといけないのでは?」
「同盟を結んだんだよ。我が国の第一王子とメリディエス帝国の第二王女の婚約と同時にね。それで、この機会に鬱陶しかった公国に牽制の意味を込めて攻め込んだんだ」
なるほど。帝国と同盟を結んだのか。
「で、グレン。しばらくはここに住んでいていいが、ずっとはいられない。何かやりたい仕事はないのか?」
やりたい仕事。俺は12歳までは親父の畑を継ぐ予定だったし、公国に行ってからはずっと兵士として生きてきた。だからやりたいことと言われても何も思いつかない。となると、俺の今までの経験を活かせる職業で生きるしかないのでは。
「王国騎士、になりたいです」
「そうか、じゃあ今から俺の執務室に来い。上には俺から言っとく」
「試験とかはないんですか?」
「公国で兵士だったんだろ? なら大丈夫だ。それに部下からもいい剣の振りだったと聞いている」
執務室で必要書類にサインをし、部屋に戻ってくる。
意外にも簡単に王国騎士になれてしまった。王国騎士になるには試験を受けて基準を満たしていることを証明しなければならない。国の機関ということもあり給料が高く、多くの男子が子供のころに一度は憧れる職業だ。かくいう俺も憧れていた時期があった。
◇
それから2年。俺は20歳になり、王国騎士としても立派に働けていると思う。入団当初は、身寄りのない奴が団長の情けで中途入団したという噂によって周りから避けられたり馬鹿にされたりもしたが、訓練や遠征を通して俺の実力を認めてくれた。
「グレン、今日の夜空いてるか? 前に話したかわいい女の子が店員やってる店にみんなで行こうって話になってるんだ」
「行く」
「そうかそうか、やっぱお前も男だよなぁ。女に興味ないからそっち系かと心配してたんだが、どうやら杞憂だったようだな」
「別に女に釣られたわけじゃない」
同僚のアレクだ。俺が入団したときから普通に接してくれる良き友人だ。こういうノリはウザいが。
訓練を受けた後、王城の警備をして今日の仕事は終わった。着替えて待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせ場所にはいつものメンバー――アレク、ルード、ケントがいた。ルードとケントも初めから仲良くしてくれた奴らで、こうして度々食事に行く仲だ。
店に着いた。印象は普通。席についてアレクから話を聞いて頼む料理を決める。アレクは二度目らしいが、俺とルード、ケントは初めてなので料理を決めるのに少し時間がかかってしまった。
料理が決まり、アレクが店員さんを呼ぶ。奥からは俺たちと同じくらいの年齢の女性店員が出てきて、目を奪われてしまった。
確かに彼女は美しかった。綺麗な金髪は背中の中ほどまで伸びており、しっかりと手入れされているのがわかる。顔のパーツ一つ一つも整っていて、人形かと思うほどに完成度が高い。
「ご注文を承ります」
声も澄んでいて、いつまでも聞いていたいと思わせる。俺の頭は軽くパニックを起こしていた。俺の状況などお構いなしにアレクは四人分の注文を済ませ、彼女は奥に戻っていく。彼女が俺の視界から消えて、やっと解放される。見間違いか? いや、でも彼女は――
「今の店員が俺の言ってた人な。かわいかっただろ?」
「確かにかわいかったなー」「俺はもうちょっと大人びた感じの方がいいかな」
「お前年上好きだしなーって、おーい、グレン。どうした―」
アレクの声によって現実へと引き戻された。
「え? あ、すまん。なんて?」
「今のが俺の言ってた人だよ。かわいかったろ?」
「あ、ああ」
「おー、グレンがかわいいっていうの初めてじゃねえか? ああいうのがタイプなのか」
俺の耳にはもうほとんどアレクたちの言葉が入ってこなかった。料理を運んできたのが別な女性だったことは覚えているが、料理の味もアレクたちと何の話をしたのかも覚えておらず。気が付いたら自分の部屋のベッドに倒れこんでいた。
8年前から背も伸びてより一層綺麗になっていた。美しい金髪、澄んだ声。
「レナ、だよな」
8年前、俺が公国の兵士から逃がした幼馴染であり初恋の相手。彼女が王都の飲食店で働いていた。見間違いかとも思ったが、12年一緒にいて毎日見ていた相手だ。人違いだとは思えない。
また明日、行くか。
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