由奈編 第2話

「こ、こんにちは。あの、由奈さん、ですか……?」


約束の時間、目の前に現れたのはごく普通、

むしろ少し冴えない大学生だった。


「はい、今日はよろしくお願いします。」


愛想笑いは得意だ。

特にコイツには効くだろう。女遊びが少なそうな人ほど、愛想笑いに気づかないし。


「祐介さんみたいな若い人、初めてだから嬉しい!」


「え、そ、そうかな…。ありがとう…。」


おろおろしている彼の手を握り、一緒に足を運んだのは、街角の普通の喫茶店だった。


「わあ、オシャレ!今日のために、さがしてくれたの?」


「全然高い店とかじゃないけど…。

この店の、クリームソーダ、美味しいんだ。」


予想はしてた、大学生だし、私と会うお金を払えば高いランチ代なんて払う余裕がないだろう。


「値段なんて、関係ないよ。早く入ろ?」

(高級なところなんて、貴之さんとかに連れてかれてるし。)


窓際の2人席につき、注文したものがくるまで雑談していた。


「ゆ、由奈さんの、趣味とかって…」


「由奈、でいいよ。祐介くんって呼んでいい?」


「! もちろんいいよ!俺も、嬉しいし…」


そんな当たり障りのない会話をしていると、

彼のスマホに1着のLINEの通知が入った。


賢人: パパ活JK、どう?笑


「…………」


「ち、ちが……。」


彼の顔は青ざめひどく焦っているようだ。

でも私は別に気にしない。

冷やかしでも、金は貰えるんだから。


「私、気にしないよ?

いっぱいいる子の中から私を選んでくれてありがとね。」


想定外の返事に彼は固まっている。

しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。


「ごめんね…。サークルの仲間から罰ゲーム決められて、断れなくて…。」


「そうなんだ、大変だね…。」


むしろそっちの方が安心した。

21歳が本気で17歳とパパ活しようだとか、まじでキモいし。



「由奈ちゃんのスマホケース、かわいいね」


「そういえばこの前さ…!」


彼は異性と話すのが得意ではないのだろう。

必死に話を振ってくれてるのが分かる。

でも、歳もいうほど離れてないので共通の話題はいくつかあった。

そうして予定の2時間は着々と過ぎていった。



「そろそろさよならだね。祐介くん、ありがとね。」


「う、うん。今日は、ありがとう。」


(ほんとに昼頃に解散なんだ。都合はいいけど、冷やかしだし、会うのは1回きりだろうな。)


私が最寄り駅へ向かおうとした時、


「由奈ちゃん…。今日のこと、改めてごめん。罰ゲームとか聞こえは悪いけど、楽しかった…!俺、そういうの理解あるし、軽蔑なんて…まったくしてないから!」


ああ、せっかくいい気分でさよならするように接してたのに。


(もう二度と会わないだろうし。)


「…悪いけど、あなたに理解してもらわなくて結構だから。そんなこと掘り返して、空気悪くする必要なんてないでしょ?

正直、しつこい。軽蔑する…。」


驚くのもしょうがない。

ついさっきまでにこやかだった人間に

急に否定されたのだから。


「……ごめん、ほんとに、ごめんね…。」


呆然と謝る彼を背に、さっさと帰路に着いた。









(何やってんだろ、わたし。)


家に着き、自分の行動を振り返り溜息を吐いた。

日頃のストレスで、無意味なことを口走ってしまった。


(どうせ二度と会わないけど…。)


受け取った9000円を眺めながら、スマホの通知を確認した。


「…嘘でしょ。」


中村祐介: もう一度、会えないかな。


予想外の名前に声が漏れた。


「アイツ、どんな神経してるわけ…。」


困惑している私に、すかさずもう一通の通知が来た。


中村祐介: これ、由奈ちゃんの指輪でしょ?

お手洗いに行く時、渡されたやつ、

返すの忘れてて。本当にごめん。


「………あー。」


思い返せばそうだった。すっかり忘れていた。


(あの指輪、他の客とのペアリングだ…。

あの人、会う時につけてないとうるさいし…)


できれば会いたくなかったのに。

そもそもどんな態度で会えばいいの?


『分かった。渡すだけでいいから、お金は要らない。』


わざとらしく冷たい返事をし、ベットに倒れ込んだ。


「……疲れた。」


私はそのまま深い眠りについていった。

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いちばん、かわいい。 もちもちおうまさん @mochimochioumasan

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