主従懲罰者

「今まで、彼は貴方達に対して手を抜いて剣をむけていたわけではないわ」



 呆然とする俺たちに、ずっと傍観していたシャルロッテがここに来て初めて口を開いた。



「そして、私たちは貴方達を闘いはすれど殺そうなんて思っていなかった。もっとも、理由はわからないけれど貴方達は本気だったみたいだけどね」



「お嬢様……」



 炎に照らされ赤く染まるヴォルターとシャルロッテ。



 その二人からは今まで感じられなかったほどの威圧が放たれている。



「貴方達はこの闘いに置いて、破ってはいけないルールを破ってしまった」



 シャルロッテが話す中、レイムは俺の方へにじり寄り「これはやばいわ」と呟いた。



 しかし、そんなことはどうでもいいと、そう言わんばかりのシャルロッテは構わず話し続ける。



「それは、私への攻撃。最初のは敵意を持っていない、そう、演出のようなものだったのかしら。だから、能力は発動しなかったけれど、今回のは明確な敵意があったよね」



 ヴォルターに庇護されるシャルロッテは、さながら騎士と姫であるかのように見えた。



 そんな彼女は言葉を続けた。



「ヴォルターの、彼の持つギフトの名は主従懲罰者オマージュ・パニシング

 その能力は、主たる者と交わした契約に従う数だけ得物の切れ味を増し、そして自身が主として交わした契約が破られた数だけ身体能力を向上させる。

 そう、内容なんて覚えていないかもしれないし、読んでいないかもしれない。けれど、貴方達は結んだはずよ。何度も念を押すように、さまざまな言い回しで、私へと危害を加えないようにという契約を」



「あの契約書に…。そうか、それで……俺たちは懲罰の対象だということか」



 俺の言葉に頷いたのはこちらへと細剣を向けるヴォルターだった。



「そう、そもそもこの館に火を放った時点で勝ち目はないように契約している、黒衣の男よ」



 黒衣の男と呼ばれ、俺は気づく。なるほど、やはり俺のことはリーティアから伝えられている。つまり、ということは…。



 いや、そんなことはどうでもいい、今は目の前に集中しなくては。



 ヴォルターのギフトを語ったシャルロッテ。



 やはり、彼女が対価キーになっているのは間違いないなかった。



 とはいえ、能力を知れるのはありがたいが、ただ教えてくれただけというわけではないだろう。それこそ何かの契約の、合図になっているのかもしれない。



 そうなると、もはやまともに戦って勝てる相手ではなくなっているということでもある。

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