熱下血戦 5
そのひとつは逃げ出さないのではなく、逃げ出す必要がない。
だとすれば彼女がヴォルターへ見えぬ形で力を与える”何か”を行ない支援することによって俺たちを倒そうとしているはずだ。
そしてもうひとつは、逃げ出さないのではなく、逃げ出せない。
怯えてすくんでいるというわけではない。
ヴォルターのギフトを発動させるのには、彼女が
どちらが起点になっているかという違いはあるが、それだけでどちらもギフトによる現象としては似たようなものではある。
しかし、その起点の違いというのはこの闘いにおいて大きな違いであった。
…ならば、試す価値はあるだろう。
「レイム!」
俺は叫び、言葉は紡がず目線によって意図を伝える。
『シャルロッテを狙え』と。
アイコンタクトのみで少しばかり不安ではあったが、しっかりと俺の考えを汲み取ってくれたレイムは小さく頷き、そしてそのまますぐさまシャルロッテへと雷撃を一閃させた。
雷撃は直線的でありながら、小さな蛇行を繰り返しながらシャルロッテへと迸る。
見ていた俺でさえ手ごたえを感じてしまうほど、狙いは見事だった。
……が、その直後。
シャルロッテへと向かった雷撃はまるで風に攫われる煙のように、か弱く霧散した。
それを、あの少女、シャルロッテがやったのか?
いや、違う。そうではない。
シャルロッテの前で、細剣を払いヴォルターが雷撃から護ったのだ。
目を逸らしたわけではない。
しっかりと見ていた。目撃したはずだ。だが、理解が追いつかなかった。頭が理解を拒んでいた。
ヴォルターは今まで見せていた以上の鋭い動きで、あの少女の前に立ち、今まで一度も振るわなかったほどのすさまじい力で放たれた雷撃を容易く打ち消した。
「うそっ…!」
レイムも口を開けて唖然としていた。
……本気を奴はいままで見せていなかったのか。
俺は、全くなさけないことだが、レイムと共に逃げ出すことさえ考えて始めるほど、今の一瞬の動きだけでそれだけの力量差を知った。
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