熱下血戦


「ロズウェルッ!」



 レイムに名を叫ばれながら、俺は走り出し、同時にかつて生まれたときにリーティアより授かったギフトを発動させる。



 俺のギフトの名は黒の鍛冶ブラック・ブラックスミス



 剣や盾など、鋼鉄製の武具を俺が作り方をわかる範囲内のものならばその場で作り出せるという能力を持つ。



 黒い鋼が何もない空間より広がり、それは盾を形取る。



 どんな状況でも、すぐさまにどんなものでも作り出せるように、装飾デザインなどは一切のないシンプルな盾。



 うねり、弾道上にあったいくつかの物を燃やしながら、シャルロッテを襲おうとしていた炎は俺が作り出した盾を使い、受け止めるようにして弾く。



 シャルロッテはずっと炎を見つめていた。



 身体能力が劣り、たとえ避けることは叶わずとも普通は何かしら行動を取るものだ。



 それは何らおかしなことではない。誰だってそうする。当然、俺が彼女だとしたなら、俺だってそうする。



 彼女は何を考えていたのか俺にはわからない。



 これほどの魔法でも恐るるに足りないということか。それともほかに何か算段があったとでもいうのだろうか。



「ロニー! みんなを避難させてっ!」



 レイムの声に、突然の出来事に立ち尽くしていたロニーははっとしたようで、オークションに参加していた貴族たちを他の冒険者と共に部屋の外へと出していく。



 彼についてはいまだよく知らない。だがそれでも、ここにいる冒険者や警備衛兵の中では最も効率よく動いてくれるに違いない。



 そう、多少の信頼はできる人間がいたことが、俺たちにとっては少なくともをやりにくくさせたが、メリットとして働く点もあった。



 無関係な人間は極力巻き込みたくはない。そのためにロニーという冒険者の力は都合のいい方に働いた。



 俺が弾いたイースの炎は、いくつかに散ったが未だに燃え続けており、そしてまるで生き物のように周りを燃やして火の手を巡らせてゆく。



「……」



 シャルロッテは何も言わずにただ静かに立っていた。



 炎はわずかな間で一面を火の海へと変貌させた。



 壁を崩落させ貴族の逃げ道を作り、炎の壁を作り視線を遮る。



 その炎の動きは、そう俺たちにとってすべて都合の良いように駆け巡る。



 熱力は凄まじくこの空間にいるだけで痛みさえ感じるものの、ここにいる俺にレイム、シャルロッテにイース、それだけではない外へ出た貴族やロニーたち冒険者にも怪我はないだろう。




 この世界リーティアから加護を受けたもの。それは転生者として数多く存在しているが、そのなかでもひと際の寵愛を受けたものがいるとすれば、それはレイムであろう。



 特筆すべきまでに優れた魔法技術。自身の出血を対価とする、応用性の効く血のギフト。



 彼女には少しの間、他人を操る能力がある。



 炎とは人払いに最も適していると言える。規模などの違いはあれど、明確な自衛手段があるからだ。物に燃え移ったならばそこから離れればいい。



 レイムはイースを操り、彼がまるで凶行に及んだかのように見せながら、灼熱の炎によって人払いをする。



 半ば無理矢理ではあるが、合理的だ。



 むしろ、この世界に似合わないこの館を燃やし尽くして正常に戻せるため理想形と言えるだろう。



 ここまでくればあとは、この館に潜む転生者をレイムのギフトによって見つけるだけだ。

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