火種を擦る 2

「ロズウェル」



 先ほどまで大広間から離れていたレイムがふらりと戻ってきた。



「下準備は整ったわ」



「そうか」



 彼女の言葉に俺は一言だけ返し、ぼんやりと大広間に集まる貴族たちを眺めていた。



 本当に、彼らは様々なところから訪れ集まっている。



 レイムと旅をしている上で、彼らの名を聞き、または姿を見た。



 見渡せば東方の豪商に、砂漠地帯の領主。北方の軍政官に南方の思想家など、錚々たる面々だが、貴族としての肩書きは様々だ。



 しかし、彼らにはひとつ、共通点が存在する。



 それは全員が成功者であり、知識があり、そして”冴えている”ということだ。



 異世界からの転生者ではない。


 しかし、彼らはこの世界にて名を挙げただけのことはある実力者たち。侮れないまごうことなき事実。



 彼らの眼前で、間抜けにもだれかを殺せば、当たり前のように捕えられ、極刑も免れないだろう。



「やりにくいな」



 と、俺は思わず小言を漏らす。



 それにレイムはで、懐に隠した短刀を握っていた。



 それからしばらくして、貴族たちが大広間へ収まり、どよめきが段々と薄れ始めた時、同時に部屋の明かりがわずかに落ちた。



 わずかな静寂と緊張が、独特な空気を作り出す。



 そんな時―――



「紳士淑女の皆々様―――ようこそ、いらっしゃいました!」




 と、大広間の壇上から明るく、響く声が聞こえた。



 その言葉に貴族たちのざわめきがこの場に広がる。



「この度は、かつての冒険にて手に入れた秘蔵の宝物を皆さまのもとへ……! この私、シュペーテ家が家長であるシャルロッテ・セ・シュペーテが、オークションの開始を宣言しましょう!」



 高らかに声を張り上げるのは真っ赤なドレスに身を包む、レイムより少し歳が上くらいの少女だ。



 ブロンドというにはわずかにシルバーな長髪を振り乱し、颯爽とオークションの開始を告げる。



 実際にシャルロッテの姿を見た者は貴族の中にも少ないのだろう、幼くして成功を収めた冒険者とは聞いていても、やはり驚きを隠せない者は少なくないようだ。


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