緩やかな歩み 3


 実のところ、この男の存在感に、ロニーと名乗るこの男が転生者なのではと話したとき、おれもレイムも僅かに疑っていた。



 しかし、この男が語る自らの冒険の話が一から十まで全て嘘でない限りは、そして嘘とも思えないその話しぶりからして、レイムのソウルサーチの捜査にかかったのがこの男であるとは考え難く、そして転生者としての””も感じ取れなかった。



 それからしばらく、ロニーを中心に俺たちは話に花を咲かせていた。



 まだ出会って間もない彼ではあるが、ロニーのような人間が手柄を立て名を挙げて行けばこの世界は、転生者などに頼らないあるべき方向へ導いてくれるのではないかと、思ってしまう。



 その間、シュペーテ家の執事やメイドたちに一声かければ、それなりに値の張りそうな飲料や軽食とはいえ手の込んだ料理がすぐに用意された。



 俺たちはそれらに手を伸ばしながらも、陽の高い間は他愛のない話を、陽が傾き始めた頃には依頼の警備について打ち合わせを始めていた。



 それにしても、流石に、依頼については真面目だが本心から何かが起こるなどと考えているものはいないようであった。……当然といえば当然。だれがギルドのあるメルロディンの街に居を構える貴族の館を荒そうというのだ。



 警戒こそするが、警戒心は薄い。



 その心の持ちようから生まれる奇妙な矛盾は、事を起こそうとする俺とレイムにとっては非常にうれしいものであった。 






 さて時は数刻ほど流れ、メルロディンの内外から、今夜は何人もの貴族がこのシュペーテ家の館へと訪れていた。



 オークションと言うのは、当然規模が大きくなればなるほど、動くシリングの額は大きくなる。



 新興とはいえ、莫大な資金を持つシュペーテ家が主催するオークションには、かなりの期待が寄せられているのだろう。



 オークションに集まる貴族たちでさえも、何処となく浮き足立っているような印象を感じた。




 ギルドを介しての依頼で集められた俺たち冒険者と、元々シュペーテ家に使える衛兵はすでに警備のための配置についていた。



 冒険者と、一部の衛兵はオークション会場となる大広間の警備を、その他の衛兵が館全体を警備していた。



 おそらく契約以上の信頼を置くことなどできない俺たち冒険者に、館を荒らされることのないように、あえて目の届く範囲である大広間に配置したのだろうが、これは都合がいい。



 シャルロッテは、このオークションの主催のため、確実にここへ現れる。



 そうなれば、彼女が転生者なのか判別するために生じるリスクを限りなく抑えられるだろう。



 …とはいえ、目的は殺害。そのため戦闘は必須となる。強硬手段になることは絶対なのだが。


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