緩やかな歩み 2

ふたりで話していると黄色い髪をした男が話しかけてきた。



彼の頭にはまるで猫のような特徴的な耳が、腰あたりには器用に動く長い尾がある。

この世界では何も珍しくない一般的な獣人だった。



「やぁ、僕はイース。」



その男は軽装で、短剣を持つシーカータイプの冒険者で、先程は自らをCランクと語っていたのを覚えている。



「険しい表情して、もっと気楽にやればいいんじゃなぁい?」



と、浮気な声色で話しかけてきた。



とはいえ、彼の興味は俺ではなく、レイムの方にあるようで。



獣人というのは、男女共に顔がいい。



そのためか、男は顕著であるが、色を好む傾向にある。



そして、レイムはそんな獣人からよく声を掛けられるため、彼らを毛嫌いしている。



「……チッ」



あえて聞こえるような舌打ち。



そしてレイムはイースをあからさまな表情で睨みつけた。



「そ、そんな怖い顔しないでくれよ…。いや、まじめにやるのも大事だと思うよ…?」



と、イースは耳をへたっとさせて、落ち込んだような仕草を取る。



「別に…あなたのような木端Cランクなんて興味ないの。あるならそう…あそこのBランクかな」



おれもイースと同じCランクであることは気にしていないのだろうか、レイムは部屋の隅にいる男を指す。



その男はかなり小柄で、細く、姿こそ見れば頼りのない感じがあるが、佇まいは威風堂々としており存在感があった。



歳はそれなりにいっているだろう。



クセのある長髪が特徴の、歴戦の冒険者といったところだろうか。



「やぁ、可愛らしいお嬢さんからご指名とは嬉しいね」



と男は、蹴散らされたイースを他所に微笑んだ。



その小柄な男は自らをロニー・ディオと名乗った。



この辺りではあまり聞かない名前の響きだ。



「そちらの…ロズウェルくんだったかな、そして、お嬢さんはレイム・レイラ……。

私は君たちの名前を、どこかで聞いたことがあるな」



とロニーは言い、記憶を探っているのか口元に手をやり、視線を落とす。



「それなら、ギルドの情報網とかじゃないかしら。最年少のBランカーと、そのお付きとしてね」



とレイムは少し鼻を伸ばして、得意げに語る。



「あぁ…! ああ、そうだ。幼くして高等魔法を操る天才少女、レイム・レイラ。そして従者の剣士…ロズウェル・サーヴラム…!」



ポンと手を叩き、ロニーは「いやぁすごい」と驚きの声を漏らしていた。



「いや……。俺は別に従者というわけではないのだが……」



「こんなところで、まさか出会えるとは…いやぁ…これはこれは…」



俺の言葉は悲しくも届いていないようで、こくこくと珍しいものを見たとどこか嬉しそうに、彼は何度も頷いている。



「……あぁ、そうだ。オークションまで、時間があるんだ。君たちの冒険譚を聞かせてくれ」


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