月明かりに照らされて

 食事を終えた俺たちはいまだ喧騒に包まれる酒場を後にして、この街に着いたときから泊まっている宿に帰った。



 俺はやけにしずみこむベッドに腰掛け、部屋着に着替えた。



 同じく部屋着に着替えたレイムは窓を開け、夜風に銀色の髪を撫でさせていた。



 部屋に灯りはなく、部屋に差し込む月明かりを眩しく感じた。



「いつまで、この旅が続くのかな」



 レイムは外を眺めたまま、独り言のような声色で尋ねた。



「……さぁな」



 俺たちは、こうして、もう3年ほどになるだろうか。



 旅を始めて以来、さまざまな街に訪れてはギルドリーヴをこなし資金を得ながら、殺

 しの旅を続けている。



 多くの矛盾を孕んだ旅路であることは間違いない。



「いつも…ごめんね、あなたばかりに手を汚させて…」



 と、夜になると彼女は、一連の出来事を思い出してしまうのか辛い顔を浮かべる時がある。



「気にするな」



 俺たちは別に、好きで殺しをしているわけではない。



 リーティアによってこの世界へ連れてこられる異世界の住民。



 その者たちは、この世界において、皆がずば抜けた力を持つ。



 もともと、この世界では勉学や努力によって身につける魔法とは別に、ギフトという

 個性的な能力を持って人は産まれる。



 それらのギフトはせいぜい魔法を習得しやすかったり、金銭の計算が早かったりと、



 ほとんどただの長所と言っても差し支えないものだ。



 しかし、異世界の住民には、物理現象や人権、歴史さえも変えてしまうほどのギフトを与えられる。



 そして、そういった力を持つ者は、望まずとも、気がつけば一軍の指揮官になってい



 たり、自身の国家を有したりと、当然の如くと言わんばかりの権力を手にする。



 一見すれば、華々しい成功者の話に思えるだろう。



 だがその実際は、戦争を生み出し、貧困を招き、圧政を産み出す悪魔の行いだ。



「リーティアを斃さなければ止まらない……」



 と、レイムは月を眺めたまま言葉を落とすように呟いた。



 この世界は、この世界に生まれた者が創らなければならない。



 当然のことである。しかし、それが当然でなくなりつつあるのだ。



 異世界からの来訪者にその役目を取って代わられてはいけないと、そう思い旅に出た。



 三年だ。



 来訪者に罪はない。



 だが、彼らを殺す俺たちには、どのような目的があろうと罪があるだろう。



 そもそも、リーティアはこの世界の神であり、人々は異世界からの来訪者の存在を認

 知していない。



 だれにも認められない。孤独な旅だ。



「そもそも、リーティアはどこにいるのだろうな」



「……天国?」



 と言って彼女は小さく笑った。



「エルレティア……。まだまだ先だね」

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