交易都市メルロディン-夜-

 しばらくしてメルロディンへと辿り着き、俺たちは街へ入るための門に立つ守衛に入門許可証を見せる。




「…ふむ、夜分遅くまでご苦労」




 全身をプレートアーマーに身を包む守衛が、くぐもった声で話し、門に吊りかけられたリストから許可証にある俺たちの名前を探す。




「……ロズウェル・サーヴラム、レイム・レイラ。両名通ってよし」




 がしゃがしゃと音を立てながら、門の脇につけられた小さな扉を俺たちはくぐる。




「そんなに血塗れなのに、尋ねられさえしないんだ」




 すでに火の魔法を消したレイムがどうでも良さそうに言った。




「……そうだな。いい街だ」




 と俺もどうでもよさそうに答えると、




「……ふーん」




 と、やはり彼女も、どうでもよさそうに相槌を打った。



 この街では、返り血に塗れていようが、清廉な衣装に身を包んでいようが、それは些末事に過ぎない。




「とりあえず、腹が減った。この時間だと酒場になるがいいか?」




 レイムはこくりと頷く。




 シルバー・ライオンと書かれた大きな看板を掲げた酒場へ俺とレイムは入り、手頃な席に腰掛けた。




 夜が深まりつつあるこの時間。とはいえ、ここは酒場。盛り上がりは今からが絶頂というところだろうか。




 席に幾つかの空きはあるものの、人も多く、繁盛しているのだろう。ウェイトレスがあちらこちらで忙しそうに駆け回っていた。




「何を食うんだ?」




 と聞くと、




「あんたのおごり?」




 と茶化すように笑う。




「……。」




 俺は無言を貫いていると、はいはいと言わんばかりに、何も持っていないはずの手のひらを開げると、シリング銀貨が姿を現し、ころころと何枚か転がしてみせた。




「偽造がバレたらバルディオン地下牢行きだな」




「大丈夫、だれもわたしを捕らえられないし、捕まってもロズウェル、あんたを置いて私は逃げるから」



 おどけて見せる彼女に、先ほどの出来事で気が張ったままだった俺に多少の笑みがこぼれた。



「ははっ、そうか」



 やたら出来が良く、逆に怪しさにあふれる魔法によって作られたシリング銀貨を小さな手のひらで玩ぶレイムは楽しそうに笑う。旅をしていてわかったのは、どうやら彼女はおれをからかうのが好きらしい。



 それにしてもまったく、魔法というのは驚くべき技術だ。



 それゆえ魔法に関する法がギルドおよび各国でいくつも定められているが、それすらもレイムのように、圧倒的技術があれば欺いてしまうことができる。



 卓越した魔法は、まるでおとぎ話を切り出した事象のように感じるものである。



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