プロローグ -ある一人の眠り-
「―――リーティアッ!」
僕の叫んだ声がこだまする。
その音に驚いた鳥たちが一斉に飛び立ち、小気味の良い羽ばたきがあたりの空を舞う。
朧気な頭をなんとか起こし、あたりを見渡す。
僕の眼前に広がる澄んだ湖も、それを取り囲む穏やかな木々も、僕が寝転がる柔らかな草地も、遠くに薄らと見える街のようなものも、そのどれも、やはり見覚えはなかった。
ここは、僕の目に映る景色はとても……一言で表すなら、のどかだ。
この世界なら僕でも、楽しく暮らせそうだとなんとなくそう思えた。
体を起こし、しばらくの間、何も考えずにただ景色を眺めた。
僕のこの目覚めた場所が、人の暮らしから幾分か切り離された土地だからなのだろうか、時の流れさえ緩やかに感じる。
僕の暮らした元の世界から見れば、ここは異世界。
異世界というからにはやはりモンスターなどいるのだろうか。
まるでイントロを数秒聴いただけでその曲の全貌も分かりやしないのに惹きつけられるように、僕はすでにこの世界に心を奪われていた。
「うぅん…」
僕はゆっくりと立ち上がり、伸びをする。
初めに向かうなら遠目に見えるあの街だろうか。
この世界に困る人がいるのなら僕は助けてあげたい。
そしてリーティアが言っていた黒衣の男も探し出してみせる。
そのためにはリーティアから授かったギフトというものが、一体どんなものなのかを知らなくてはいけない。
そのとき。
僕の後ろから草を踏み分ける音が鳴る。
重く踏みしめられ、地を蹴りつける音までしっかりと聞き取れた。
突然のことに僕は驚き、肩が跳ねた。
そのせいで、僕は振り返る間もなく、いや、視界の端に見えたその"者"はあまりに疾かった。
それは理由付けなどすることも愚かなくらい、どうであれ結果は同じであっただろう。
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