第3話 最終話。ありがとう、アッポーンS
あっという間に一週間が過ぎてしまった。
「おっと、アッポーンSの始まる時間だ。とうとう今日が最終回だよ。早かったなー。もう
「ちゃんと録画までしているんですから、もう一度見ればいいじゃないですか?」
「もちろん録画も見るけどな。とにかく、オンエアーされたものをリアルタイムでCMを挟んでやきもきしながら見るのが良いんだよ」
「そうですか? そもそも私にはどの回も内容が同じに見えるんですが」
「おかしいな、毎回スゴイ巨大ロボが出て熱いバトルを繰り広げているのになー」
「結局、毎回意味もなく戦って、最後に主人公の必殺技で
「内容的には確かにアスカの言う通りかもしれないけれど、そういった既定路線の中で安心して悪を倒していくところがまたいいんだよ。越後のちりめん問屋のじいさんの話だってそうだったろ?」
「確かに安心して見ていられるというのはありそうですね。ですがマスターの場合は相当肩に力が入って前のめりになって番組を見ているように見えますが」
「同じようなストーリーでも見る者を飽きさせない。それこそ、その番組の演出が素晴らしいということだろう」
「分かりました」
>>>>>>
居間のテレビの真正面に陣取り、オープニングを食い入るように見ているのは我らが主人公、この春高校3年になった児玉翔太である。隣にいるのは翔太の相棒アスカ、いつもながらの無表情なのだが呆れているのが良くわかる。
いつもの勇ましいオープニングテーマの後、最終回のサブタイトルがテレビ画面に映された。
戦え! アッポーンS
最終回
- 決戦! フルアーマー
最終回はアッポーンSと悪の巨大ロボット軍団の
テレビ画面には、悪の巨大ロボット軍団の秘密基地の断面図が映し出されていた。
なんとその秘密基地は都内某所の桜の名所の地下にあったのだ!
今は桜の見ごろ、要塞化された基地の上の桜並木が左右に割れ大勢の花見客が土砂とともに割れ目の中に落ち込んでいく。
そんなことはお構いなしに、開ききった割れ目の中から立ち上がったフルアーマーMK。逃げまどう花見客の悲鳴の中から全身が現われた。彼らは一般国民がどうなろうと構わない。なぜなら、彼らは自分たちを支援する
フルアーマー
『まずい。こんな場所で戦えば、大勢の人が犠牲になってしまう』
アッポーンSを操るリモコンを持つ短パン姿のショウタ少年の心の声のナレーションだ。
正義の巨大ロボットアッポーンSは桜を見に来た一般国民を
ここで渋いおじさん声のナレーションが入る。
-頑張れアッポーンS! 歯を食いしばって耐えるんだ!-
これこそ、番組を見る日本中の少年少女たちの心を一つにした声なのだ。少年とは言えないかもしれないが、もちろん翔太もその一人である。ぐっと握った
フルアーマーMKの容赦ない攻撃で、アッポーンSの内部回路が各所で断ち切れ、左腕をもはや上に
それでもフルアーマーMKの卑劣な攻撃に耐え続けるアッポーンS。
ここで、アッポーンSの後方に現れたのがストーンブレイカー
これまで活躍の場を主役のアッポーンSに奪われ、何かと不平不満を口にしていた
シュパー!
攻撃態勢をとったGALEがGTMビームで援護射撃を始めた。おーっと、この攻撃がアッポーンSに直撃してしまった。よろめくアッポーンS。これはなんとしたことだ?
アッポーンS、最大のピーンチ!
いまのGALEの攻撃は、ワザとなのか? それとも
GALEが体を揺らして笑っている。やはりワザとだったようだ。これまでも、ストーンブレイカーGALEはJMTが苦しいときに出奔し、JMTが盛り返すとしれっと出戻りした経歴がある。今ひとつもふたつも信頼を置けないロボだったのだが、やはりこの重大な局面で本性を現したようだ。
テレビを見ながらかたずを飲む児玉翔太。これでも受験生である。対象年齢10歳の着ぐるみ実写番組を見て手に汗握る姿は一体何なのだろうか? ご両親は今海外にいるからいいようなものの、とても二人には見せられない姿だ。
30分番組とはいえ、実質20分しかない尺の中で、アッポーンSは最終、最大の敵フルアーマーMKをたおすことができるのか? 残り時間を気にしながらテレビを見る翔太はさすがは高校3年生といったところか。いやそれほどでもないか。
『まずは、味方と思っていたストーンブレイカーGALEをたおすべきだ』
ショウタ少年が決断する。
ここで、この最終回のためだけに作られた荘厳な劇中歌が流れ始めた。
これは、作詞、作曲、編曲、演奏、歌唱、
フルアーマーMKの攻撃をこらえながら、ショウタ少年の必死のリモコン操作でなんとか立ち上がったアッポーンS。裏切り者のGALEに体を向け、使えなくなり不要となった左腕を、体を揺らしながらタイミングをはかってパージした。
ギューン。
左腕に仕込まれたロケットが火を噴き一気にGALEに迫る。
ドッカーン!
一撃。たった一撃でGALEはパージされたアッポーンSの左腕を胸元に受けて爆散してしまった。その場に立ち込める煙の中で、吹っ飛んだ頭部が地面に転がり恨めしそうに下からアッポーンSを三白眼で睨んでいる。やはり二流は二流だったようだ。
ストーンブレイカーGALEの最期を見届け、ゆっくりとフルアーマーMKに向き直る正義の巨大ロボットアッポーンS。
アッポーンSが残った右こぶしをフルアーマーMKの顔面に一撃、二撃と打ち付ける。だが、フルアーマーMKは全身強固な鎧で覆われており、当然頭部もフルフェイスのヘルメットで守られている。これでは付け入るスキがない。ちっこい瞳がきょろきょろとあたりを見回しているのがヘルメットのバイザー部分からわずかに伺うことができる。
ここで、最終回にふさわしい渋いおじさん声のナレーションが入った。
-今回がアッポーンSの最終回だ。最後の決戦を見逃さなかったきみにだけこっそり教えよう。
悪の巨大ロボット軍団のNO1、フルアーマーMKはパンチやキックなどの衝撃ではほとんどメージを受けない。
しかも
フルアーマーMKを覆うアーマーが衝撃を吸収し、全ての生物・化学兵器から本体を守るからだ。
そこまでして本体を守る必要があると言うことは?
きみたちならわかるだろう。
そうだ、フルアーマーMKの最大の弱点がそこにアールからなのだ!-
このナレーションに頷くアッポーンS。腰にいつの間にか差していた短剣を残った右手で抜き放ち、フルアーマーMKの全身鎧の関節部分にチクりと突き刺してわずかばかりの孔をあけることに成功した。
PM2.5の微粒子と風邪のウィルスがアッポーンSのあけた孔から侵入した。バイザーの奥のチッこい目が急に真っ赤なり苦しみ始めるフルアーマーMK。とうとう立つこともままならなくなりうずくまってしまった。
「今だ!」
リモコンを持つ短パン姿のショウタ少年がアッポーンSに命令をする。
「アッポーンS、必殺メガトンパンチだ!」
ファンサービスのためにポーズを取りながら大声でリモコンを操作するショウタ少年。そのショウタ少年を下から見上げるカメラワーク。にくい演出だー!
短パン姿でのカメラ目線と少年とは思えない演技力が相まって彼には根強いファンが大勢いるのだ。すでに何件もの番組出演のオファーが来ているようだ。
ドッガーーーーン!!
アッポーンSの右手だけのメガトンパンチが、悪の巨大ロボット、フルアーマーMKの胸元に炸裂し風穴を開けた。
フルアーマーMKは力尽き、地下秘密基地の中に飲み込まれていった。その全身が地面の中に隠れたところで秘密基地を道連れに爆発してしまった。
いかに
夕陽に照らされ、残った右手で決めポーズをとるアッポーンSのボディーが赤く輝く。
ここでナレーション。
-悪の巨大ロボット軍団は秘密基地もろとも滅びた。
この世に悪がある限り、正義の巨大ロボットアッポーンSが悪を打ち砕く。
ありがとう、アッポーンS、いまは傷を癒して次の戦いに備えるときだ。
そして、エンディングソングとともにエンドロールが流れていく。
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・
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……ただいまの提供は法蔵院グループとご覧のスポンサーでした。
>>>>>>
「アスカ、最後のナレーション聞いたか? 『次の戦い』って言ってたぞ。これは、そのうちもう1クール来るぞ! 円盤を買って応援せねば」
「マスター、受験勉強はいいんですか?」
「見終わったから、今からするよ。でも円盤の第1巻はもう出てるよな。アスカ悪いがポチッてくれるか?」
「分かりました。その代り、中身を確認するとか言って勉強そっちのけで見ないでくださいよ」
「1巻で4話入っているけれど、全部一気見しても実質100分もないんだから」
「マスターがそこまで言うなら1日30分までなら許しましょう」
「それじゃあ、小学生じゃないか」
「嫌ならいいんです」
「約束するから、忘れずポチッと頼んだぞ」
[あとがき]
サブタイでの最終話はあくまでアッポーンSのことです。
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