第2話 正義の巨大ロボット、アッポーンS

[まえがき]

あらためて、この作品中に登場する人物・団体・名称・国名等は架空であり、実在のものとはこれっぽちも関係ありません。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あの横断歩道での交通事故のニュースを見て以来、いろいろなことを思い出した。すぐにアスカを収納から出したのだが、アスカの扱いに困ってしまった。


 それはそうだ。高校1年生の俺が、この日本で二十歳はたち前の女性のご主人様。しかもその女性は戸籍どころか国籍もない。相当困ったが、正直に両親に話すのが一番だと開き直ってアスカともども異世界での俺とアスカの数々の冒険?のようなものを話した。


 もちろん口で語るだけで信じることができるような話ではないで、俺は両親の前で収納を使っていろいろなことをやって見せ、ポーションを父さんに飲ませたりした。


 アスカは俺の渡した金のインゴットでまた芸術品のドラゴンを指先だけで作って見せた。純金と言えども人の力でこねたり延ばしたりできはしないので、俺の両親はでき上ったドラゴンにも驚いたし、純金の塊を素手で加工するアスカにも驚いたし、純金のインゴットを持っていた俺にも驚いていた。それで、アスカはタダの人ではないと理解したようだ。ただ、アスカはマキナドールというロボットのようなものだと言ったがそれは信じなかった。


 そんなこんなで結局俺たちの話を納得してくれた。父さんは長年の腰痛がポーションを飲んで簡単に治ってしまい、大喜びだったのが一番利いたのかもしれない。



 その後、父さんが急に東京勤務となったので、東京にマンションを買って家族で引っ越した。俺の方は、通っていた高校の系列校だった東京の私立白鳥学園高校に編入した。そしたら父さんは海外勤務になってしまい母さんは父さんについていってしまった。アスカがいるから安心して俺たちを残していったのだと思う。


 そういうことでいまは俺とアスカでそれなりに広いマンションに二人で住んでいる。これだけを聞けばラブコメ展開だが、もちろんそういった展開は俺とアスカの間に起こることはない。



 アスカが俺のノートパソコンを使って何をどうやったのかは知らないが、アスカは俺のいとこということになってそれらしい戸籍まで持っている。いろいろなものが電子化された世の中なので都合はいいとアスカは言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか? 少しだけ心配だが、ほんの少しだけだ。俺とアスカなら何が起きようと何とでもなるからな。



 学校へ行くときはいつもアスカは俺と一緒にマンションを出て学校の正門までついてきてくれる。帰りは正門の前で待っていてくれる。


 結構目立つのだが今さらだ。アスカ自身俺が学校に行っている間は家の仕事を済ませて買い物をすれば夕方までもうなにもすることがなくなるので暇なのだろう。


 俺も、そろそろ真剣に受験勉強しなければならないが、身体能力同様頭の方もそこそこレベルアップしていたようで、進学塾に通っているわけでもないが、成績の方は申し分ない。模試などでも志望校の医学部は常にA判定だ。慢心するわけにはいかないが、そこまでこんを詰めて勉強する必要はないように思う。


 そういったこともあり、日曜午前放送される着ぐるみロボット実写番組を毎週楽しみにして鑑賞している。タイトルは『闘え! アッポーンS』だ。俺と同じ名前の主人公のショウタ少年がリモコンで巨大ロボットを操り、悪の軍団のロボットを斃すという王道ストーリーだ。今日はもう最終回の1回前のエピソードだ。



>>>>>>


 居間の壁際に置いたテレビの画面を食い入るように見入る翔太。もう放送は終盤に差し掛かっている。


 そして今、画面の中では2体の巨大ロボット同士の白熱した戦いが繰り広げられている。



 正義の巨大ロボットアッポーンSの右こぶしが、悪の巨大ロボットDNガンホーの首筋に迫る。だがDNガンホーは立襟たてえりのように見える大型のネックガードで何とかしのいだようだ。



 ここで、おなじみの渋いおじさん声のナレーションが始まった。


-アッポーンSのこれまでのあらすじを簡単にお教えしよう。

 悪の巨大ロボット軍団RMTアールエムティーと戦うため、JMTジェーエムティー本部で開発新造・・されたアッポーンSが暴虐の限りを尽くすRMTのロボットを倒していき、とうとう今回の敵は悪の巨大ロボット軍団のNOナンバー2、DNガンホーだ。DNガンホーを斃せば残る敵の巨大ロボットはNOナンバー1ただ一体だ。

 DNガンホーのガンホーには特別な意味など一切なーい。

 良い子は変な連想をしてはいけないぞ。アッポーンSとの大事なお約束だ!

 DがデュアルとかNがナショナリティーとか、そういった頭文字だということなど断じてないのだ -


 本当なら番組最初に流されるような内容だがそこはスルー推奨だ。


 ナレーションの間にも熱い戦いは続いている。


 怒りに燃えるDNガンホー。顔面に張り巡らされた冷却用ネットが青く輝く。翔太の位置からでは顔面に走る青筋にも見える。


 DNガンホーの必殺武器は、背中に背負った巨大ブーメランだ。名付けてガンホーブーメラン。いま、DNガンホーがその必殺武器を背中から取り外し、両手で振りかぶった。


 ゴッチーーーーン!!


 思い切り振りかぶったブーメランの先端が背中に突き刺さってしまった。ブーメランの突き刺さった背中からスパークが飛ぶ。もっともらしい演出だ。番組スタッフはいい仕事をしている。


 よろめくDNガンホー。投げる前からブーメランが背中に突き刺さっているのにもかかわらず、ふてぶてしいその表情は元のままで全く変わっていない。まさかブーメランが突き刺さったことに気付いていないのか? それともこれこそが骨を切らして肉を断つDNガンホーの新しい必殺技なのか?


「今だ!」


 リモコンを持つ短パン姿のショウタ少年がそんなことはお構いなしにアッポーンSに命令をする。チラッとカメラ目線をするところがあざとい。しかしこれこそが彼の魅力の一つでもある。


 彼の番組中の設定年齢は12歳。実年齢は発表されていない。謎に包まれた少年なのだ。実はジャ○ーズの研究生ではないかとうわさもあるが真偽のほどは定かではない。


「アッポーンS、必殺メガトンパンチだ!」


 リモコンがあるのに大声で叫ぶ意味があるのだろうか? ある種のファンサービスなのだろう。大人ならこれくらいのことは大目に見ないといけない。いや、大人だからこそその掛け声を聞くことでショウタ少年とアッポーンSを応援したくなるのだ。


『頑張れショウタ少年! 頑張れアッポーンS!』



 ドッガーーーーン!!


 アッポーンSのメガトンパンチが、悪のロボットDNガンホーの胸元に命中し風穴を開けた。空けられた風穴の中でスパークが飛ぶ。そしてついにDNガンホーは爆発して煙の中に消えて行った。やはり先ほどの自爆はタダの自爆だったようだ。



           アッポーンS!!


 夕陽にを背に決めポーズをとるアッポーンSのボディーが赤く輝く。


 -やはり、ではアッポーンSには勝てないのか?


 然り!


 NO1を目指そうともせず勝利の甘い果実を味わうことなど不可能なのだ!


 この世に悪がある限り、正義の巨大ロボットアッポーンSが悪を打ち砕く。


      戦えアッポーンS、この世に悪がある限り……。


    次回最終話 決戦!フルアーマーMK 刮目して待て!-



 そして、エンディングソングとともにエンドロールが流れていく。


 エンディングソングの作詞、作曲、歌唱はあのアンジ○ラだ。アニソンではメジャーだがこういった着ぐるみ実写番組でのアン〇ェラの歌は珍しい。


 ……ただいまの提供は法蔵院グループとご覧のスポンサーでした。


>>>>>>




 エンディングソングも最後までしっかり聞いて、アッポーンSを今日も最後まで見終わった翔太は感慨にふけっている。


 特にリモコンで巨大ロボットを操作するところが良かった。アスカだと髪の毛でコントロールするが似たようなものだ。来週で最終回か、日曜の朝の楽しみが一つ減ってしまうな。もう1クール続けてくれればよかったのに残念だ。人気あったと思うけどな。


 今日もこれですっきりした。これから受験勉強頑張るぞ。


「マスター、受験勉強はいいんですか?」


「見終わったから、今から勉強始めるよ」




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