真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!? IF

山口遊子

第1話 アナザー・エンディング


 勇者の活躍で『魔界ゲート』から湧き出してきた魔族が消え去った後、


 ゴゴッ、ゴゴゴゴ!ゴゴゴ……。


『魔界ゲート』 が閉じ始めた。


 それに合わせるように、勇者の姿が少しずつ陽炎かげろうのようにぼやけてゆき、勇者の両手に握られたはずの聖剣から光は消え砂の上に落ちた。



 俺の方も八角棒が両手をすり抜けて砂の上に落っこちてしまった。自分の両手を見ると、なんだか透き通って見える。



「マスター、急いで私を収納してください。早く!」


 アスカの焦った声がわずかに聞こえる。アスカの焦った声は今までで初めてだ。その間も、『魔界ゲート』の扉がゆっくりと閉じられていく。そこで俺の意識が途切れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








 眩んだ目が、あたりの明るさに慣れて、ようやく周りを見ることができた。俺は横断歩道の信号待ちをしているようだ。


 何してたんだっけ? そうだ、駅前の書店に参考書を探しに行くところだったんだ。


 道路を挟んだ反対側には、ガラの悪そうな男子高校生を真ん中に挟んで女子高生二人の三人組が信号を待っていた。はて? その三人、どこかで見たことのあるような。


 男子高校生は眉毛を剃ってピアスを何個も着けている。二人の女子はいやに短いスカートを履いている。あれ、女の子の一人はたしか同じ小学校の工藤じゃないか?


 信号が青になって、途中でその三人にすれ違い横断歩道を渡り終えた。


 工藤は俺に気付かなかったらしい。ただそれだけだ。なんだか頭がぼーっとするし涼しい。


 頭を触ると、手触りが微妙に気持ちよい。坊主頭になってる。別に髪型にこだわりがあるわけではないが、やっぱり坊主頭はな。しかしいつ切ったんだろ? 全く覚えがない。散髪するカマイタチ・・・・・とか聞いたことないしな。どうしちゃったんだろう。あした学校に行ったらみんなにからかわれるな。


 あれ、眼鏡もかけてない。さっきまでかけてたはずだがポケットの中にもどこにも見当たらない。っていうかそもそも眼鏡が無くても遠くもはっきり良く見える。眼鏡をなくしたようだけどまあいいか。


 知らないうちに頭でも打ったのかなー。いろいろ大切なことを忘れてしまったような。はて?




 それからしばらくして、自宅でニュースを見ていると、青信号で横断歩道を横断中の高校生のグループに黒塗りのワゴン車が突っ込み、4人が重軽傷を負ったそうだ。しかもその横断歩道は俺があのとき渡った横断歩道だった。


 それがきっかけだったんだろう、少しずつ異世界での出来事を思い出すことができた。




 

 

 2年後、俺は18になり来年は大学受験だ。日曜日、受験勉強の気晴らしにと思い、近所を散歩してると中学の時の同級生、堀口明日香によく似た女の子とすれ違った。 


 後ろを振り向き、そこに立つアスカの顔を見ると無表情のはずのアスカの顔がほほ笑んだように見えた。これから先俺は年をとっていくが、アスカはずっとこのままなんだろう。向こうに残した心残りはたくさんあるけれど、アスカはきっと俺の左後ろについて来てくれる。約束だからな。


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