第38話 林間学校1日目①

 バスに揺られること一時間。

 宿泊先である『温泉旅館風紋荘』に到着した。

 そこは、『老舗旅館』という言葉がよく似合う、雰囲気のいい大きな旅館だった。

 

「ここが宿泊するところか〜」


 いつの間にか隣に響がやってきていた。

 バスの中では席が離れていたから話す機会がなかったが、今朝のことがあって俺はまだ響と話すことに若干緊張していた。


「そ、そうだな」


 それを見抜かれたのか、


「もぅ、せっかくいつも通りにいこうと思ったのに、柏君が緊張してたら私まで緊張するでしょ!」


 と言って俺の肩を叩いた。


「分かった!もう、この際、開き直ることにする!私がどれだけ柏君のことを好きか知られちゃったし!隠してても意味ないもんね!」


 響がそう宣言したところで、相川先生が「女子から先に中に入りましょう」と女子生徒たちを誘導していく。

 

「じゃあ、また後でね!」

 

 俺に手を振った響もその誘導に従って女子生徒が泊まる『風波かざなみ館』へと入っていった。

 響の背中を呆然と見ていた俺も学年主任の「男子も中に入るぞ」の声で他の男子生徒に混じって『紋波もんぱ館』へと入っていった。

 館の中に入ると事前に割り当てられた部屋へと案内された。

 各自が好きな生徒と4人1組で同室になっていいことになっていて、俺は渉と同じ部屋だった。

 渉以外にも別に二人のクラスメイトがいるが、そいつらとはあまり話したことがなかった。

 この二日間は主にこの四人組で行動することになる。

 部屋の中に入ると、人数分の布団が敷いてあった。それを見た渉は早速布団に飛び込み聞いてきた。


「なぁ、宗一。最初のレクリエーションはなんだっけ?」

「最初はキャンプ場に移動して、カレーライス作りだろ。一時間後にエントランスに集合だ。それはまでは、自由時間だな」

「了解!じゃあ、俺は館の中を見て回ってくるわ!」


 渉はスッと立ち上がると「お前らも来るか?」と同室の残り二人のクラスメイトに声をかけた。

 二人は渉の友達で、共に頷いていた。

 

「宗一は・・・・・・行かねぇよな?」

「ああ」

「じゃあ、俺たちは行ってくるわ!」

「ちゃんと時間になったらエントランスに来いよ?」

「分かってるって!」

「二人とも渉のことを見張っててくれるか?」


 俺が二人に向かってそういうと、何故か驚いたような顔をしていた。

 無理もない。

 二人と言葉を交わすのは今が初めてだった。

 若干戸惑いながらも二人は頷いてくれた。


「おい!俺は子供じゃないぞ!?」

「その自由さは子供だろ」

「まぁ、いいや!行こうぜ二人とも!」


 子供のように無邪気に笑った渉は二人を連れて部屋から出ていった。


「やっぱり子供じゃねぇか」


 一人部屋に残った俺は縁側に移動して集合時間までまったりと過ごすことにした。

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