第37話 林間学校当日

「は~い。皆さんおはようございます!」


 元気のいい声で俺たちに向かって挨拶をした相川先生。


「今日は待ちに待った林間学校ですね!準備は大丈夫ですか~。忘れ物はないですか?」


 俺たちにそう確認してきた相川先生はいつになく上機嫌だ。

 おそらく、相川先生も林間学校が楽しみなのだろう。

 それは、クラスメイト達も同じようだった。

 皆が元気よく「大丈夫で~す」と返事をしていた。

 そんなクラスメイト達の様子を見た渉が俺の方を振り返って言った。


「なんだか小学生みたいだな!」

「そうだな。渉も楽しみなんだろ?」

「当たり前じゃん!宗一もだろ?」

「まぁな」


 楽しみにしているのはもちろん俺も同じことだった。


「皆さん!楽しい二日間にしましょうね!いい思い出を作りましょう!では、三十分後に校庭に集合してください!」

 

 相川先生はそう言って俺たちにウインクをすると教室から出て行った。

 すると、待っていましたとクラスメイト達は騒ぎ始めた。


「おー!いい思い出作るぞー!」

「絶対に彼女を作る!」

「みんな楽しも~!」


 そこらかしこで盛り上がている。

 そんな中、俺は響のことを見ていた。

 なぜなら、響がある男子生徒と一緒に教室を出ていくのが見えていたからだ。

 

 なぜだろうか、それを見た俺の胸はモヤモヤしていた。

(まさかな……)

 あるわけのない事実に俺は苦笑いを浮かべた。


「どうした?」

「いや、何でもない……」

「何か気になるって顔をしてたけど?」

「九条さんが男子生徒と出ていくのが見えてな……」

「あー。嫉妬してるわけか!」

「なわけあるか」

「本当か~?」

 

 渉はニヤニヤと笑って俺のことを見ていた。

 (からかう獲物を見つけた目をしやがって……)

 絶対にそんなことないと思いながらも渉に「嫉妬している」と言われて、そうなのかもしれないと少しだけ思ってしまった。

 なぜなら、この気持ちは散々味わってきて知っているから。


「もしかしたら、気が付いてないだけかもしれないぞ。宗一が九条さんのことを好きだってことに」

「……」

「あ、ほら、噂をすれば九条さんが戻って来たぞ」

 

 渉にそう言われて教室の入り口を見ると少し怒ったような顔の響と物凄く落ち込んだ顔をした男子生徒が戻ってきた。


「ありゃ、振られたな」

「は?」

「あの顔はどう見ても九条さんに告白をして振られた顔だろ。よかったな!」


 俺の肩に手を置いて満面の笑みでそう言った渉は友達のとこへと向かって行った。

 そんな渉と入れ替わるように響が俺のもとにやってきた。


「あーもぅ最悪!」

「ど、どうしたんだ?」

「せっかく楽しみにしてたのに朝から最悪の気分なんだけど!」

「だから、何があったんだよ……」

「柏君の悪口を言われたの!そのうえ、告白までしてきやがった。あいつ!」


 滅多に怒ることのない響がここまで怒るのは珍しい。

 

「私の悪口を言うなら許すけど、柏君の悪口を言うなんて絶対に許さない!柏君の悪口を言うようなやつと私が付き合うわけないじゃない!」

「もしかして、俺のためにそんなに怒ってるのか……?」

「そうだよ!」

「そっか……」


 その怒りはしばらく落ち着くことはなかった。

 その間、響は聞いているこっちが恥ずかしくなるくらい、俺のいいところを言って褒め殺しにされた。


「だからね!柏君は……」

「も、もう分かったから……その辺にしてくれ。俺のライフはとっくに0なんだが?」

「あ、ごめん……」

「うん。九条さんが俺のことをどれだけ好きなのかは分かったから」


 自分が何を言ったのか思い返して急に恥ずかしくなったのか、響は顔を真っ赤にしていた。


「私、何言ってんだろう……恥ずかしい」

「俺の方が恥ずかしいんだけど……」


 その後は互いに一言も話すことなく、顔を赤くしたまま時間が過ぎていった。

 気が付けば集合時間になり、俺たちは校庭に移動した。


☆☆☆

次回更新9/15(水)0時

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